前回、算数障害について紹介しました。多くの親御さんや学校の先生方からご意見やご相談をいただきました。今日は読み書き障害について述べたいと思います。
前回記事:わが子が「算数障害」かもしれない!その時、親は何をすればよいか!!
読み書き障害の人の中でも、特に有名なのがハリウッド俳優のトム・クルーズさんです。トム・クルーズさんは、映画の台本に書いてあるセリフを読むことができないので、スタッフに台本のセリフを声に出して読んでもらって、それを録音して、その録音した声を聞いてセリフを覚えていたそうです。
後に詳しく書きますが、正確には書いてある文章を読むことができないのではなくて、文字を読むのが難しくてかなりの時間がかかるということだと予測できます。
また、『E.T.』や『ジュラシック・パーク』でよく知られるスティーヴン・スピルバーグ監督も読み書き障害の一人です。幼少時代には小学校を同級生に比べて2年遅れで卒業し、そのことでいじめを受け、学校が嫌いだったこともあったと、メディアでも後に告白しています。現在でも本などを読む際は普通の人よりも2倍の時間がかかるようですが、本人は「自分が被害者と思ったことは一度もない。映画づくりが、負わなくていい重みから私を救ってくれた」と発言しています。
読み書き障害は、知的に遅れはないにもかかわらず努力しても努力しても文字の習得がなかなか困難な障害と言えます。読み書き障害のある子どもは、見ただけではわからないし、話しただけでもわかりません。むしろ話し言葉は流ちょうで表現豊かな子どもも多くいます。しかし、勉強ができないと思われています。文字や文章が読めなかったり、文字や文章が書けなかったりするからです。
読み書き障害はここでは後天的に事故で脳が損傷して障害を負ったり、加齢によって認知症になったりして障害になったというケースではありません。生まれつきの脳の機能障害によるもので、特に発達性読み書き障害(以後読み書き障害と表記する)のことを指しています。
こんなデータがあります。年長児すなわち小学校入学前の11月に時点で、知能が十分に高くなくても拗音を除くと約93%もひらがなを読むことができます。拗音とは「きゃ」「きゅ」「きょ」とか「ちゃ」「ちゅ」「ちょ」のようにかな1文字に小文字の「ゃ」「ゅ」「ょ」のうちの1文字を付けてかな2文字で表記されるものです。すなわち、多くの子どもは小学校入学前に拗音は読めなくてもひらがなは読めるということです。
しかし、小学校3年生になってもひらがなを完璧には習得できていない子どももいるのです。一度は漢字を覚えて漢字テストで100点を取ったとしても1か月前に覚えた漢字を半分以上思い出せないという子もいます。
小学校4年生で「わたしは、きのうえんそくにいきました」を一字一字読んでいる子がいます。
多くの子どもは
と意味のつながりを意識して単語をまとまりとして読めます。
しかし、
と一字一字を読んで意味が分かっていません。
これを逐次読みと言います。当然、板書はできません。ノートは取れません。テストの答案も書けないのです。周囲からは怠けているとか努力不足と思われてしまっています。馬鹿にされているのです。これが原因で不登校になる子もいます。
北洋輔、小林朋佳、小池敏秀他「読み書きにつまずきを示す小児の臨床症状とひらがな音読能力の関連―発達性読み書き障害診断における症状チェックリストの有用性」(『脳と発達』42巻、2010年)という論文を参考にして「読字障害」と「書字障害」のそれぞれ15ずつのチェックリストを載せます。それぞれ7つ以上該当すると「読字障害」もしくは「書字障害」と考えられます。「読字障害」「書字障害」両方に該当する子どももいると思われます。
尚、チェックリスト中の「拗音」は上記のとおりです。「促音」とは小さい「ッ」のことです。すなわち、「ヨット」を「ヨト」と読んだり書いたりすることを言っています。「撥音」とは「飲んだ」「にんじん」「べんきょう」など「ん」で表記されるもののことです。「べんきょう」を「べきょう」と読んだり書いたりすることを表しています。
ただ単に国語の教科書を何度読ませても「読み障害」の克服はできません。「読み」に障害があるにもかかわらず怒り飛ばしながら無理やり読ませるようなことをしても親子関係を崩したり、国語嫌いにさせたりするだけです。
「書き障害」も同様に考えられます、同じ漢字を根性論で100回書かせても頭には入りません。無理やり泣かせながらやることになるでしょう。虐待と言えるかもしれません。適切な教材を順序だてて取り組ませることができればある程度克服できます。その後は、ICT(情報通信技術)の活用により高い効果が望めます。紙と鉛筆で作文が書けないだけで、パソコンにキーボード入力することは得意だったりします。またはアイパッドにタッチ入力が得意な子どもも多くいます。あとはプリントアウトすればレポートだって作文だってできるわけです。パソコンやアイパッドの活用を学校に相談してもかまいません。
最後に「読み書き障害」用の教材で手軽に入手できるものを2冊ご紹介します。
私が大学を卒業してすぐに教師となって教壇に立ってから30年が過ぎ、発達障害や特別支援教育について講演をするようになって、10年以上が経ちました。特別支援教育とは、従来知的な遅れや目が不自由な子供たちなどを対象にしてきた障害児教育に加えて、「知的発達に遅れがないものの、学習や行動、社会生活面で困難を抱えている児童生徒」にもきちんと対応していこうと言う教育です。
これは、従来の障害児教育で論議されていた内容をはるかに超えて、発達障害児はもとより発達障害と診断されなくても認知機能に凹凸のある子供の教育についても対象としており、さらに子供だけでなく我々大人も含めたコミュニケーションや感情のコントロールといった、人間が社会で生きていくうえにおいてもっとも重要であり、基礎的な内容を徹底して論議しているからであるととらえています。
そのためには、児童生徒一人ひとりの教育的ニーズを把握して適切な教育的支援を行う必要があります。ここで、単に教育とせず、教育的支援としているのは、障害のある児童生徒については、教育機関が教育を行う際に、教育機関のみならず、福祉、医療、労働などのさまざまな関係機関との連携・協力が必要だからです。また、私への依頼例からもわかるように、現在、小・中学校さらに高等学校において通常の学級に在籍するLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、知的に遅れのない自閉症(高機能自閉症・アスペルガー障害)などの児童生徒に対する指導及び支援は、喫緊の課題となっており、これら児童生徒への支援の方法や指導原理や全ての幼児・児童生徒への指導は、私達大人を含めて全ての人間が学び、関わり合うための基礎といえるコミュニケーション力を考える上で必須の知識であることを色々な場で訴えています。
今までたくさんの子供たちや親、そして同僚の先生方と貴重な出会いをしてきました。また、指導主事として教育行政の立場からもたくさんの校長先生方と学校経営の話をしたり、一般市民の方からのクレームにも対応したりと、色々な視点で学校や社会を見つめてきたつもりです。ここ数年は毎年200回近くの公演を行い、発達障害や特別支援教育について沢山の方々にお話をしてきました。そして、満を持して2014年3月に広島市立特別支援学校を退任し、2014年4月に竹内発達支援コーポレーションを設立致しました。
今後は、講演、教育相談、発達障害者の就労支援、学校・施設・企業へのコンサルテーション、帰国子女支援、発達障害のセミナーなどを行っていく所存です。
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