2020/12/17

超高齢化社会で、高齢者のフレイル・サルコペニアが問題となっています。今回はこのフレイル・サルコペニアについて考えてみたいと思います。

一般の方はフレィルとかサルコペニアという言葉をどれくらいご存知でしょうか? このサルコぺニアという言葉はギリシャ語で「肉」を表す「sarco」と、減少を意味する「penia」を組み合わせた造語で「加齢による筋肉量の減少」を意味しています。また、フレイルは「加齢に伴って身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態」を表します。もともと「frailty」虚弱なという訳語からできた言葉です。

団塊の世代が75歳以上となる2025年には我が国の後期高齢化率は16.7%となり、一人暮らしの高齢者が増加し介護・医療費など社会保障費が急増し、負担と給付のバランスが大きく変わってしまうことが懸念されています。厚生労働省はこれらの問題を「2025年問題」と呼び、要介護状態になっても「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」の5つを総合的に支援し、今まで住み慣れた地域で最後まで暮らしていけるようなシステムの構築を進めています。

現実問題として、今まで人生65歳時代の考え方は昔のことになってきています。数年前厚労省の方の講演を聞く機会があったのですが、そのお話では今まで2.4人の現役世代が1人の高齢者を支えていたのが、2025年には1.2人が1人を支える時代になるようです。『あなた方も75歳まで現役で働いてくださいよ』という話でした。「なんということを!」と思ったのを覚えていますが、最近ではあまり違和感もない気がしてきました。

このままでは、高齢者を現役世代が支えられなくなって社会の仕組みが成り立たなくなってしまいます。そこで高齢者の機能や能力を最大限発揮してもらうために、今までは加齢とともに起きてくる老化現象として考えられていたフレイルやサルコペニアを予防しようと、改めて予防の視点から考えられるようになってきました。

そもそも老年医学自体が新しい学問で、高齢者を対象とした学問ですが高齢者の定義すら曖昧でした。高齢者は、認知症や関節痛など高齢に伴って発症してくる疾病や、転倒、肺炎といった感染症への注意、薬剤の使用においても生理機能が変化しているため、成人とは違った高齢者に特化した専門的な医療の考え方が必要となってきます。

人は加齢とともに筋肉量が減少し、筋力が低下するのは仕方がないことだと考えられてきました。後期高齢者(75歳以上)ともなれば徐々に体重も減少し、筋力も低下し、腰が曲がり、動作は緩慢になり、転倒しやすくなります。高齢者の機能障害や要介護状態の予防のためには、疾病の管理とともに老年症候群の管理が必要となります。多くの人たちは『ピンピンコロリ』を願い、終末期まで元気で活動していたいと考えています。

サルコぺニアが進行すると転倒、活動の低下などが生じやすく、要介護状態につながる可能性が高くなり、高齢者の運動機能、身体機能を低下させるばかりでなく生命予後にも影響がおよび、その対策が必要となっています。超高齢化社会においては、健康寿命の延伸や介護予防の観点から、栄養の問題は『過栄養』で生活習慣病を引き起こすと言う事だけではなく、後期高齢者が陥りやすい『低栄養』『栄養欠乏』に基づく身体機能に関わる問題である『サルコぺニア』や『フレイル』を予防段階から考えておかなければなりません。

サルコぺニアは1989年に初めて提唱された概念であり、診断には65歳以上であり、歩行速度や握力が測定されます。骨格筋がたんぱく質の主要な貯蔵・供給源であり、エネルギー代謝の主要な組織でもあります。したがって高齢期における骨格筋組織を保持することはとても重要です。

65歳以上の高齢者で、歩行速度が1m/秒未満、もしくは握力が男性25kg未満、女性20kg未満である場合で、さらにBMI値が18.5未満、もしくは下腿囲が30cm未満の場合にサルコペニアと診断されます。 歩行速度、握力が基準値以上であった場合は正常。歩行速度、握力が基準値以下でもBMI、下腿囲(ふくらはぎ)が基準値以上であれば脆弱高齢者であるがサルコペニアではないと診断されます。

実際は機械を使って、骨格筋量を量ったりする必要がありますが、この簡易基準では身長、体重、握力計、メジャー、ストップウォッチがあれば測定可能であり、診断が比較的容易に行える利点があります。歩行速度の1m/秒は横断歩道を青信号のうちに渡り切ることのできる歩行速度とされています。この他にも椅子に座っていて5回立ち上がるのが12秒以上かかるようであればサルコペニアの可能性があるということです。自分がサルコペニアであるかどうか、若しくはサルコペニアを気にしなければいけない状態であるかどうかをチェックしてみることが大切です。

65歳以上の方で、試してみて気になることがあれば、今からでも改善に向けて筋肉をつけるように活動量や食事量を増やすなどの対策を考えてみてはどうでしょうか?

私が参加している『いきいきサロン』では半年ごとに握力を量ってもらいます。70代と80代では驚くほど筋力が違ってきます。また勤務する医院ではご高齢の方とお話をしながら、下腿周囲長を指わっかで量らせてもらいますが、歩いておられる方は驚くほど筋肉量を保持できています。

加齢がサルコペニアの主原因であるのは仕方のないことですが、二次性の原因となる低活動・低栄養・疾患の中で少しでも良い方向に修正できそうなことは、できるだけ早く対処してみましょう。

次回は適切な栄養摂取と適度な運動量の確保で、サルコペニア⇒要介護とならないように高齢期の食事について改めて、考えてみたいと思います。

参考文献:厚生労働省サルコペニア診断基準、日本老年医学会サルコペニア診断基準、日本サルコペニ
アフレイル学会診療ガイドライン、(公財)長寿科学振興財団健康長寿ネット.

コラムニスト

管理栄養士  伊藤 教子 

長年、管理栄養士として病院の給食管理・栄養管理に従事後、現在、内科糖尿病専門医院にて糖尿病を中心とする生活習慣病、高齢者の低栄養等の栄養食事指導をしています。
ライフワークとして「あなたの体は、あなたの食べたものでできている」ということを意識した「食」の啓発活動を行なっています。

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