味覚について考えてみたことがありますか?

2020/10/15

私は糖尿病の患者さんが初診の際に必ず「味付けは濃い方ですか? それとも薄味ですか?」とお聞きします。どうも濃い味を好まれる人の方がたくさん食べる方が多いように感じます。

また、極論かもしれませんが食事指導の経験を通して、偏った食事をしている方に濃い味の方が多いようにも思います。

味覚と食欲というのは密接な関係があります。私たちは物を食べようとする時、まず形や色を目で見て確認し、匂いを嗅いで異常がないと確認してから口に含みます。昔は舌の表面の乳頭というざらざらした突起状の味蕾で五味を感知すると教わりましたが、最近ではどうも口腔内では舌上皮に存在する味蕾をはじめ、舌の奥の方、軟口蓋や喉頭蓋、咽頭などにも味を感じる場所が存在すると言われています。この味覚やにおいなどの感覚が神経を通って大脳皮質に送られ食物の風味として認識されます。

人間は進化の過程でどうしても生きるために必要だったから、味覚という感覚が備わりました。

新生児は苦味溶液に対して、舌を突き出し、酸味溶液に対しては唇を動かして鼻にしわを寄せ嫌悪の表情を示し、甘味溶液やグルタミン酸などのうま味溶液には満足した表情を示すそうです。苦いものは毒かもしれないですからね。甘味や旨味には体のエネルギーとなり体を養うものが含まれている事を本能的に分かっているからです。塩味については何らの表情も示しません。生後2~4か月ごろには味のつかない溶液より塩味の溶液を選ぶようになります。1~3歳頃の食経験により塩味の嗜好が発達し、3歳頃には食塩濃度に対する嗜好がみられるようになります。甘味は乳児期から水より糖の方を好んで摂取します。10代では成人より高濃度のショ糖を好み、成人するとショ糖の好みは10代より低下します。このことは成長期のエネルギーの必要性とエネルギー源の味の指標とされる甘味への嗜好を反映していると考えられるということです。

基本味とされる5味

味覚の種類によって、単に食欲のためではなく体にその物の持つ性質や状態を示す役割があります。

甘味 (ショ糖、果糖、ブドウ糖)本能的に好まれる味・エネルギー源(脳波がリラックス)
塩味 (食塩)体液バランスに重要なミネラル補給
うま味 (グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸)生物に不可欠なアミノ酸、核酸の供給
酸味 (酢酸、クエン酸、乳酸)新陳代謝の促進、腐敗のシグナル
苦味 (カフェイン、キニーネ)毒物の警告、少量なら薬
甘味・塩味・うま味の3つが動物と同じ生来の生理的欲求で、幼児も好む。
※うま味は2000年になってようやく認定された日本人が発見した味です。

上記の5つは基本味とされる5味で、さらに皮膚感覚を伴う辛味と渋味があります。

辛味 唐辛子に含まれるかプサイシン、黒コショウに含まれるピぺリン、ワサビなどのツンとした辛み。
渋味 お茶のタンニンや渋柿のシブオール

第6の味覚として脂肪味がある

脂肪味は油脂を継続して摂取することで、鈍化すると考えられています。食事の聞き取りをしていて、「まあよく油っぽいものを毎日食べられるなあ」と思うことがありますが、これは感じにくくなっているということなのですね。これも、10日間脂肪の少ない食事を心がけることで、脂肪味の感じ方が改善する可能性があるそうです。

味覚や嗜好は体内の栄養バランスや生理的な変化により変わってきます。実験結果ですが、必須アミノ酸のリジンの制限食を与えたラットは、強い苦みを呈するリジン溶液を探し出して摂取するということです。リジンが足りている場合には飲まなくなるようです。また、絶食させたラットは甘いエネルギー源となる水溶液の摂取は増えるが、サッカリン(甘いがエネルギーがない)は甘くても飲まないそうです。

私の好きな貝原益軒先生の『養生訓』には、五味の備わったものを少しづつ食べれば病気にかからないと書かれています。
「五味偏勝」という言葉が書かれていて、同じ味のものを食べ過ぎるという意味で、次のような症状が現れると言っています。

  • 甘いものが多いと、お腹が張って痛む
  • 辛いものが多いと、気が上がって気が減り、瘡を生じ、目を悪くする
  • 塩辛いものが多いと、血が乾き、のどが渇き、湯水を多く飲むと脾胃を破る
  • 苦いものが多いと、脾胃の生気を損なう
  • 酸っぱいものが多いと、気がちぢまる。

等と書かれていて一見非科学的で分かりづらいようにも思えますが、辛いものばかりを食べる人を見ていても食道や胃の粘膜に炎症が起きないのかと心配ですし、塩辛いものばかりを食べていては血圧も上がるでしょう。
『養生訓』には何より食事を大切に考え、たくさんの種類のものを少しづつ食べるように言っています。

つい最近も亜鉛不足で味覚障害と診断された方の食事を指導しましたが、昔私が栄養学を教わったころ、1970年代では普通に食事をしていれば亜鉛は不足しないと教わりました。それがこの間知り合った薬剤師さんの話では「亜鉛不足の人多いですよ」ということでした。この一因は、加工食品を摂ることが多くなって、それらの添加物が亜鉛の吸収を阻害しているということもあるようです。

亜鉛は肉や魚介、種実、穀類など多くの食品に含まれます。例えば多く含まれる代表として牡蠣(2個)40gに5.3㎎、身近なところで糸引き納豆50gで1.0㎎含まれます。亜鉛の食事摂取基準の推奨量は男性12㎎/日、女性9㎎/日です。亜鉛の主な働きは約100種類の酵素の補酵素としての働きと、細胞の生成、成長を促す働き、またインスリンの合成を促進する働きがあります。軽度の亜鉛不足であっても味覚障害を引き起こします。欠乏すると味覚異常をはじめ、食欲不振、成長障害、皮膚炎などを起こします、さらに免疫機能低下、生殖能異常、精神障害などがみられるということです。

不足しているからといって、勝手にサプリメント等で安易に摂りすぎると過剰症を引き起こしますので注意が必要です。

とにかく安易に特定の栄養素をサプリメントや健康食品に頼るのではなく、体の不調を直すのは、まず正しい食生活が基本です。バランス良くいろいろな食品を食べることを考えてください。

次回は『食べる』ということをきっちり考える事にして、栄養とは何ぞやと基本から学びなおしてみたいと思っています。

コラムニスト

管理栄養士  伊藤 教子 

長年、管理栄養士として病院の給食管理・栄養管理に従事後、現在、内科糖尿病専門医院にて糖尿病を中心とする生活習慣病、高齢者の低栄養等の栄養食事指導をしています。
ライフワークとして「あなたの体は、あなたの食べたものでできている」ということを意識した「食」の啓発活動を行なっています。

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