前回、時間栄養学の話を書きましたが、それを知るためにはまず、自分の体内時計の存在を意識してみましょう
私たちはふつう夜になると自然に眠たくなります。なぜでしょうか。そして、朝になると決まったように目が覚めます。起床→朝食→昼食→夕食→就寝というリズムが規則正しく刻まれることによって、いつの間にか自然にリズムができあがってきます。特に睡眠と食事は一番大事です。 食事指導をする時、「食事は3食召し上がっておられますか?」と尋ねると「朝は欲しくないから」とか「時間がないので・・・・」、中には「中学の時から30年位食べたことはない」という答えが戻ってきます。
自分は朝食抜きと決めているとか、昼は忙しくて食べていられないとか思っておられる人、また夜中の食事がやむを得ないと思っておられる人も、一度他の方法を考えてみませんか。朝ご飯にバナナを1本食べてみるだけでも、夜中の食事を少し早く摂る様にするだけでも気になっているデーターが良くなるかもしれません。
最近の分子生物学の研究から、地球に生きている生物は皆、バクテリアから深海魚まで体内時計を持っていることが分かっています。地球の24時間の自転に合わせた時を刻む仕組みを獲得しているのです。地球で生きていくために30億年を超える歳月をかけて、生き延びていくために最初に獲得した生理機能が、この生体リズムであろうと言われています。この1日周期のリズミカルな変動のことをサーカディアンリズム(日本語では概日周期、概日リズム)と言います。
この生体に組み込まれた時計についての最初の記録は、アレクサンダー大王が ペルシャ大遠征の際に、バーレーン島のオジギソウが、兵隊の昼夜の交代に合わせて閉じたり開いたりするのを見て、不思議に思った提督がこれを記録しました。これは紀元前325年のお話で、たまたまアレクサンダー大王が科学への造詣が深く、遠征の途中で起きる科学的発見を詳しく記録させたもので、図とともに詳しく書き残してあるそうです。
しかしこれを何度も試して、オジギソウが光りの閉ざされた暗黒の中でも時間によって開閉をすることを突き止めて、何かしら時計のような仕組みがあると考えたのは18世紀のフランスの天文学者でした。
その後ダーウィンが息子と共著で『植物の運動力』という著作に書いたのは1880年のことです。
1938年にロシア人のナサニエル・クライトマンが弟子とともに地下500mのマンモス洞窟で32日間にわたって睡眠周期の研究をしたことが生体リズムの解明へのきっかけとなりました。
1958年南ドイツの植物学者エルヴィン・ビュニングは『生理時計』という著書に葉っぱの就眠運動だけでなく、花弁やゴキブリやラットの活動にもみられることに注目し、1960年に開催された『生物時計に関する世界で初めての国際シンポジウム』でこのリズムは地球の自転に対する生物の適応であると発表しました。
また、米国スタンフォードのコリンやドイツ、ミュンヘン大学のアショップらによって生物時計が植物だけではなく、多くの動物や単細胞生物にも共通してみられることが証明されました。
アショップの教えは、北海道大学の本間健一教授によって、広く日本に伝えられ、日本における時間生物学の源流となりました。
紀元前の昔から脈々と受け継がれてきた時計遺伝子ですが、近代になってようやくいろいろなことが解明されつつあります。そしてそれを利用して医学や薬学、栄養学と多方面に活用され始めました。
食事をすることで生体のリズムをこわさないように、私たちの本来持っている体内時計を考えた栄養学が時間栄養学です。
しかし今では24時間どこかしらで明かりがついて、誰かが働いています。コンビニの24時間営業を見直そうという風潮もありますが、この体内リズムを守ることができない人たちもたくさんいます。体内リズムに逆らった生活を余儀なくされている彼らはどうなるのでしょうか?
この最初の報告が2005年、時計遺伝子に異常のあるマウスの実験により報告されました。このマウスは正常なマウスと比べて摂食、睡眠・覚醒のリズムに異常がみられるだけでなく、成長とともに生後7~8ヵ月で、血液中の中性脂肪やコレステロール、更に血糖値まで高くなり、高脂肪食で飼育すると糖尿病になってしまったということです。これは単に時計遺伝子異常というだけでなく、食欲を抑制するホルモンや食欲を促すホルモンの濃度に異常が生じて、食欲の調節障害を起こしていることが分かりました。
時を刻むという役割を果たしていたはずの体内時計は生活習慣病にまで影響を及ぼしていたというのです。
この論文をきっかけに、時計機構と生活習慣病との関わりを追求する多くの研究が始まりました。これらの研究では乱れた生活リズムを整えると、数週間のうちに生活習慣病まで軽快するということです。
では実際にはどうすれば良いのでしょう。例えば夜勤明けで自宅に戻った人は、「わぁー疲れた」とばかり、開放感で食事をたくさん摂ってしまうのではなく、軽く済ませて部屋を暗くして休みます。そして目が覚めたらカーテンを開け、部屋に光を入れて脳の中枢時計(親時計)に1日のはじめを知らせ、食事をとることで(いわゆる朝食)抹消時計(子時計で体のあらゆる細胞にある)にスイッチを入れて、その人の1日を始めます。
このようにしてその人にとっての『朝食』を大事にし、力強く1日を始めるサインを出します。それも規則正しく一定の時刻であることが大事なようです。
もしスイッチを入れないままだとリセットされず、地球の自転(24時間周期)と体内時計(24時間10分程度)の差がどんどん広がっていきます。そしてその人の生体リズムが狂ってしまいます。
動物の実験では、朝食ではなく朝と昼の中間であるブランチを与えたところ、体内時計のリズムが分からなくなってしまったということです。どうもきちんと一定の時間に朝食をとらないといけないようです。
ここまでいろいろ書いてきましたが、取り敢えずしなければいけないことは
今回は朝食の摂取がとても大切だということをお知らせしたくて、時計遺伝子の発見について長々と書いてしまいました。
では、どんな朝食を食べればよいのでしょうか、次回は朝食について書いてみたいと思います。
長年、管理栄養士として病院の給食管理・栄養管理に従事後、現在、内科糖尿病専門医院にて糖尿病を中心とする生活習慣病、高齢者の低栄養等の栄養食事指導をしています。
ライフワークとして「あなたの体は、あなたの食べたものでできている」ということを意識した「食」の啓発活動を行なっています。
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