2021/04/27

糖尿病治療に携わる管理栄養士として、自身でも実践ししっかり考えてみたいと思いました。

生活習慣病が激増しています。30代からの早期に発症される方が多く、気になっています。中でも驚くように増加しているのが、糖尿病です。

今から20年前、2001年に増加してきた糖尿病を何とかしようと糖尿病治療をそれぞれの専門職の立場から指導するための日本糖尿病療養指導士という認定制度が発足しました。 その第1期の試験のために認定機構が示した内容でも食事摂取に関しては、次のようだったと思います。

  1. 適正なエネルギー量の食事
    (成人期の場合) 身体活動量×標準体重
  2. 栄養素のバランスが良い食事  三大栄養素のバランスの比率
    炭水化物のエネルギー比率が指示エネルギー量の50%以上60%を超えない範囲
    たんぱく質は標準体重1kg当たり1.0g~1.2g必要。
  3. 脂質は炭水化物、タンパク質の残ったエネルギー内で。
    脂質に関しては飽和脂肪酸をとりすぎないように。不飽和脂肪酸、コレステロールも日本人の食事摂取基準を参考にすることとされていました。

これらを指導するツールとして、『糖尿病食事療法のための食品交換表』を用いるようにとされていました。

この中でも炭水化物の割合は、50%~60%から選ぶような形で「みんなが皆、そんなにご飯食べられないよね」とずっと思っていました。

このころ、糖尿病性腎症の食事療法をめぐって、いろいろな説が喧々諤々と戦わされていたころで、『腎臓の保護のために減塩は基より、よりシビアな低たんぱく質食が効果あり』という説を唱えることで異端者(ちょっと大げさですが)扱いをされる人がいたり、私も病院長から、勉強会や調理講習会に出かけることを「慎重に」と注意されたこともありました。腎臓に関していろいろな研究が発表されていて、尿中にたんぱく質が漏れ出ているから『たんぱく質を付加する』から、腎臓を保護するために真逆の『制限する』に変わったのもこの時期でした。まだ学会へ参加するような余裕のない時期でしたから、何が何だかわからないまま、後から勉強して納得したような状態でした。

この腎臓病治療食に関しては、現在は公には極端でない形0.6g/kg~0.8g/kgでタンパク質制限食と食塩制限が実施されています。もっとも栄養状態を損なわないようにこれを続けるのは大変です。治療用の特殊食品を使わなければまともな副食が用意できないので、管理栄養士のフォローも必要になってきますし、低たんぱく質の特殊食品を購入するためには経済的にも負担です。

私は、このような定説とされていたものが覆されるという事を経験していく中で、急に『糖質が血糖を上げるので糖質制限をすれば血糖も上げず、健康のために良い』と言われても、『そうですか』とそれについていく気にはなれなくて、懐疑的に横目で見ている状況でした。

ただ、糖尿病の専門医の先生にも、研修会などで声をかけては聞いていました。すると「糖質制限すると、やはり痩せるのよね」という声が返ってきました。

また某トレーニングジムの提唱する糖質抜きの食事でトレーニングを行うと、見違えるようにすっきりと美しく変身すると言う方法にはテレビ画面の演出の効果もあり、「あれ?糖質制限って効果あるのかな?」と考えざるを得ませんでした。

糖質制限について書かれているいろいろな本を購入し、読みかけては『あれ?』と懐疑的な気持ちになって、止めることが続きました。

今年になって、北里研究所病院の糖尿病センター長、山田悟先生のWEBでの講演を受講した際にはじめて「そうなんだ!」と突然腑に落ちた気がしました。それまで学会などで、山田先生をはじめいろいろな先生方のお話を伺っても今一つ、「ん?」という疑いの気持ちがぬぐいきれなかったのです。

きっと何十年も炭水化物・たんぱく質・脂質のバランスを信じて疑いようもないものとし、患者様を指導してきたので自分の頭を白紙に戻すことができなかったのです。

山田先生も書かれていますが、この10年で栄養学の常識が真逆になってきています。私が学生だった頃はまだ糖尿病患者も少なくて、諸外国からファストフードが紹介され始めたころです。特別に糖尿病食の指導方法などを習った覚えもありません。太った人が目につくと言う時代でもなく、『日本の糖尿病患者は痩せている』と習ったような気がします。今思えばご飯茶碗がとても大きかったですし、いつもご飯をたくさん食べるように言われていた気がします。

従来の糖尿病食の指導では、交換表にのっとってバランスを重視して、食べ過ぎで肥満のある方には食事制限食になりますし、小食の方にとっては主食の多い食事です。どちらかというと脂質は制限しましょうという食事で、摂取エネルギーを重視しています。標準体重50kgの人では1500kcal程度の食事ですから、1日に大さじ1杯弱が油の使用量になります。とてもパスタにオリーブオイルを絡めてというわけにはいきません。

食の多様化が進み、若い人たちの食事は昔の日本食とは程遠いものになってきています。従来の糖尿病の食事療法での指導はもう難しくなっています。私はできるだけその患者様の生活にあった形で、指導するようにしています。

私は「糖質が血糖を上げるのだから、その糖質を制限してしまいましょう」というのは、頭では理解できたのですが、どうも短絡的過ぎて、直ぐに糖尿病食の指導に繋げる気になれませんでした。
そこで自分の上がりかかった血糖値を下げるためにも糖質制限食を実行してみることにしました。

糖質制限食の実施

  1. 1日の食事の中から、主食のご飯、パン、麺類など全てを外す。もちろんパンケーキやシリアルなども外す。
  2. 糖質の多い食材はできる範囲で外す。芋類やかぼちゃ、春雨、米や小麦粉でできたものを外す。
  3. 1500kal程度を確保するために、たんぱく質と脂質は制限せず、十分に食べる。もちろん腹八分目に。
  4. 調味料にも糖質は使わない。
  5. アルコールを含む嗜好品はとらない。
  6. 楽しみとして、少量の果実を献立に添える。(これは主旨に反しますが頑張る自分へのご褒美!)

以上を先ずは2週間実行してみることとしました。

朝、食事前と、夜就寝前にも体重を測定して記録。元々ご飯は80gしか食べていなかったのですが、朝の大好きなパンを止めるために、『患者さんに言うばっかりで自分が実行できなくては情けない』と一大決心をしました。
以外にもそんなに苦痛を感じることもなく実行できました。

結果は体重が1週間で1.35㎏減、しかし2週間目には100gしか減っていませんでした。でも明らかにお腹の脂肪はへこんでいるように思います。
「どうして体重が減らなくなったのかしら?」と少し制限を緩和してもう少し続けてみることにしました。
その結果、3週間目、4週間目、5週間目とほとんど変化なし。時々500g位減っている時があるが、また次の日には戻っているという調子です。

今のところ結果として言えるのは、『食事量を控えたり間食をやめましょう』と言うのより、『糖質をできるだけ外す』と言う方がストレスがないように思いました。また、おいしそうなケーキをいただいても食べようと思わなくなりました。アイスクリームをもらっても冷凍庫の中です。間食は完全にオフになりました。

血糖値は糖質制限を始める前の2月中旬の人間ドックでの血糖値より、糖質制限2週間目がまだ少しですが下がっていました。あと1か月後にはきっとしっかり結果が出ると思います。

糖質制限食は確実に血糖値を下げますし、体重も減らすことができます。しかし、糖質制限をしておられる患者様の食事内容を聞いていてとても不安になってきます。栄養が不足しているのです。

糖質制限食はただ糖質を減らすだけではなく、次のような注意をしていただきたいと思っています。

注意点

主食が減ることによるエネルギーの減少

主食+主菜+副菜という食事から主食がなくなりますので、ご飯100gでも160kcalの減になります。単純に考えても160kcal×3食で480kcal少なくなります。1500kcalの指示の人は1/3量のエネルギー不足となります。
従って、たんぱく質や脂質を増やして、副食からしっかりエネルギーを摂る必要があります。

ビタミンやミネラルの不足は避ける

糖質だけを減らせばよいのではなく、ビタミンやミネラルなどが不足しないように注意が必要です。

油脂を控えるのではなく上手に使いエネルギー量を満たす

今まで、糖尿病食では油脂を控えてきたと思います。エネルギー量を満たすためには、オリーブオイルなどの油脂をしっかり摂りましょう。

腸内環境を整える

糖質を控えるために炭水化物の制限をすると食べ物のかさが減りますし、食物繊維が不足してきます。
腸内環境を整えるためにも、食物繊維や発酵食品を摂るようにしましょう。

まだ、糖質制限初心者の私ですが、続けるためには糖質制限をしつつ楽しい食生活が必要だと思います。
しかし、上記のようなことを考えていると毎日のメニューに悩みます。

そこで、次回はその後の報告と、私の糖質を減らした簡単メニューをあれこれ紹介したいと思います。

コラムニスト

管理栄養士  伊藤 教子 

長年、管理栄養士として病院の給食管理・栄養管理に従事後、現在、内科糖尿病専門医院にて糖尿病を中心とする生活習慣病、高齢者の低栄養等の栄養食事指導をしています。
ライフワークとして「あなたの体は、あなたの食べたものでできている」ということを意識した「食」の啓発活動を行なっています。

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