2020/03/04

コロナウィルス感染症一斉休校の今だからこそ

1 ピンチはチャンス

いよいよ3月、春の訪れとともに弥生の大連休がスタートしてしまいました。 新型コロナウィルス感染症対策本部の会合で安部晋三首相は2月27日木曜日夕方、感染拡大を防ぐため全国の小中高校、特別支援学校に対して3月2日から春休みまでの臨時休校を要請しました。

私は明くる日の2月28日金曜日、広島県内の公立中学校にスクールカウンセラーとして勤務する日でした。当日、学校に着いてみるといつもと違う雰囲気がありました。緊張感でもなくざわついた感じでもない不思議な雰囲気でした。教師も生徒もあまりの突然のことにあっけにとられているという感じでしょうか。その学校では3時間目終了時点で職員に集合がかかり、学校長から「3月2日から3月25日までの間、臨時休業とします。」という伝達とともに保護者に配布するプリントが配られました。先生方の反応は一様に落ち着いていました。予想通りというのでしょうか。

私はというとその日、カウンセリングに来た生徒には「今日が最後になるのだけど・・・・・」と言わなければいけません。3月にあと2回カウンセリングの予定がありました。ゆっくり落ち着いて丁寧に「今日でカウンセリングは終わりです。今までのまとめをしておきましょう」とやりたかったのですが、突然の終結宣言です。カウンセリングにおいて終結宣言というのは極めて重大な意味を持つのですが、あっけらかんといとも簡単に「今日で終わり」と言う羽目になってしまいました。不思議な体験でした。一様に生徒の反応は、「ええ!!!そうなのですね!!!!」でした。

私は38年以上幼稚園、小中高、特別支援学校、短大、大学、専門学校など様々な学校現場で教師やカウンセラーとして勤務してきましたが、初めての経験です。今まで地震や水害など災害で学校が崩壊や浸水してしまって授業が行えない状況となり、夏休みを早めたということはありました。しかし、学校は存在し、教師もいる、子どももいるというのに一斉休校というのは初体験です。

学校としても期末試験はどうするのか、成績判定はどうするのか、卒業式はどうするのかなど戸惑うことは多くあると思います。しかし、最も深刻なのは突然の休校に対応のすべのない働く親たちではないでしょうか。

そこで今回は、働く親たちのために「今、親は子に何を教えたらよいか」について解説したいと考えました。なぜならば、この新年度前の重要な時期の約1か月にも及ぶ長い休み。家庭教育の格好のチャンスではないかと思ったのです。学校が急遽、長期休業。このピンチをチャンスに変えていくというポジティブな気持ちでこの難局を乗り越えるしかないのではないでしょうか。

2 親は子の何を教えたらよいのか。

私は、20代の教師の頃、今から40年近く前のことです。学級集団作りを坂本光男先生から教えていただきました。坂本先生は、当時埼玉県で中学校の先生をされていました。その時に教えを書き記したノートの中に「親は子に何を教えたらよいのか」というものがあります。この内容を現代に合わせてまとめました。

私は、毎年数多くのPTA講演会の講師として呼んでいただいています。そして、参加された親御さんから多くの意見をいただきます。そこでの経験と坂本先生からの教えをもとに、家庭教育における親の役割は次の9つではないかと考えるようになりました。まずは、その9つについてまとめた後にそれぞれについて解説していきます。この9つについて親が子どもたちに伝えるチャンスに「この3月」をして欲しいのです。

〇親は子の何を教えたらよいのか ― 家庭教育における親の役割 ―

  親が子どもに教えるべきこと そのねらい
1 生活のリズムをつくらせる。 自分で自分をコントロールできる力を育てる。
2 家で仕事を分担させる。 家族集団の連帯とその一員であることの自覚を育てる。
3 スマホとゲームへの依存とたたかえる子にする。 自分とのたたかいに勝てる力を培う。
4 勉強でわからないことを先生や友達に質問できる子にする。 「自ら求め、自ら学ぶ」力を培う。
5 家族の中で豊かな会話を作り出す。 家族全体に、戦技の文化とモラルの風土をつくる。
6 親の思う働くことへの大切さと苦労を事実を教える。 お金の大切さ、ものを無駄にしない心、労働の価値を身近な事例を通して伝える。
7 性に目覚めた頃や恋愛、結婚の親の経験を語って聞かせる。 愛とは性は一体のものであることを教える。

3 重要なのは「自分とたたかえる子」に育てること

この表の上位に「1生活のリズム」「2家での仕事」「3スマホ、ゲームとのたたかい」を挙げたのは、最も重要なことはわが子を「自分とたたかえる子」に育てていかなければいけないと考えているからです。

今の子どもたちの最大の弱点は、内面的な力が弱いことです。内面的な力というのは、頑張る、粘る、耐える、悩む、考える、挑戦する、持続させる、やり直すという力ではないかと私は考えます。これらは全て自分とのたたかいに使う力です。この力が現代の子どもは弱いのです。そのために、自律ができずに周りに流され自分を失ってしまっているように感じます。家庭教育という観点に立てば、生活日課を自分自身で律していける力を育てることが非常に大切であるということです。 この3月は急遽、長い休みとなりました。親は仕事で家庭にはいないという状況が夏休み以上に起こっていることでしょう。子どもは学校がないからといって昼過ぎに起きて、適当にコンビニで買ったものを食べて、好きなだけゲームをして遊ぶというのでは自分を律する力をつけるどころか全く逆のことをしているのではないでしょうか。ダラダラして怠けることが楽で楽しいのだよと教えているようなものなのです。

まずは「起きる」「着替える」「食べる」「働く」「寝る」という生活リズムを確立するように親が仕向けなくてはいけません。 最も重要なものは「起きる」です。 学校があれば8時20分までに学校に行くとなると逆算して7時に起きるとなるでしょう。学校の存在そのものが「隠れた教育機能」を果たしているのです。しかし、休校ならまさに自分との戦いを自分だけでしなければなりません。逆に考えればこの「3月」は自分だけで「起きる」ことを教えるチャンスなのです。

これがなかなか難しい作業となるでしょう。

例えば、「朝7時に起きる」と決めたとしましょう。目覚ましが7時に鳴る。「起きるべきか」「もう少し寝ていようか」と自分自身と幾度となく自問自答して悩みぬいた挙句に「やはり起きなければならぬ」と悲壮な決意でやっとの思いで起きるという方も多いと思います。起き上がるという決意を強い意志で実行できる子は遅刻もしないし非行にはしるようにもならないでしょう。「もっと寝ていたい」という感情に支配されてだらだらしてしまう子は、遅刻が多くなりやがて学校を休みがちとなり、時として非行にはしるような場合もあるのです。

したがって、親がまずやらなければいけないのは生活リズムを確立できるように子どもを仕向けることなのです。そして自分とたたかえる子に育てる取り組みをしなければいけないのではないでしょうか。そして、仕事を与えて毎日それを自分の責任でやり遂げさせながら、粘り強い意志を育てる。「お風呂掃除」でも「犬の散歩」でも「お米をとぐ」でも係を決めたら手伝ってはいけません。子どもが忘れたのならお風呂に入らない、夕食は「お米」は食べないぐらいの心意気で取り組んでください。米をといでいなければ家族全員がご飯抜きの夕食となり、上手にといでありご飯が美味しければ「上手にお米がといであるね。いつもありがとう」と感謝をする。この日頃のやり取りから家族の連帯が生まれるのではないでしょうか。

スマホやゲーム漬けに子どもをさせないように時間でスイッチを切らせて、わがままや誘惑に負けないような内面の強さを育てるということも親の役割といえます。子どもの認識や自覚というものは、身近なことを通して芽生えていくものであり、指導というのは子どもの目の前にある事実に基づいて教えたときに最も効果があり定着するものといえます。休校で教師に助けを求められない今だからこそ取り組む絶好のチャンスなのです。

学校に時間割があるように家庭でも時間割を作って居間やキッチンなど家族がいるところに掲示しましょう。掲示することにより共通認識となるものです。

4 勉強ではなく「生きる力」となる学力を

「4勉強」については、勉強していてわからないところがある時には先生や友だちに質問する力を子どもに育てたい。休校でも先生は学校にいます。電話で学校に連絡して質問したり、友達に聞いたりすることはこれからの人生において重要といえます。塾や家庭教師に習っているのなら正解不正解を答え合わせするだけでなく「なぜ?」「どうして?」と質問するように子どもに働きかけることこそ本当の「生きる力」となる学力形成につながります。ただ頭ごなしに「勉強したか?」「ゲームばかりしていたのか?」「ダラダラして!」と注意だけをする会話からの脱却を図る必要があります。そのためには、例えば「今日はどんな質問をしたの?」と聞いてみる。「〇〇〇〇〇はなぜなのだろう?」と先生に聞いたよと返ってくる。「先生はどう答えたの?」と興味深げに聞いてみる。得意げに「〇〇〇〇〇だから何だって」と答えてくれる。すかさず親は「偉いね、そこのところに疑問を持ったんだ。お母さんは思いもよらなかったわ。」と褒めてみる。子どもはさらに疑問点を的確に質問するようになる。これこそ本当の学力なのだと思いませんか。これが、「5家族の豊かな会話」です。

さらに家庭での会話の話し合う具体的内容についてです。「6親の仕事」「7愛と性の問題」「8いのちの大切さ」「9平和の大切さ」の4つの内容を意識的に話すのがいいのではないでしょうか。

5 9つのことを実践すると正義とモラルが身につく

刑事をしている友人から聞いた話です。

今は誘拐といってもなかなか犯人がその場でわからないそうです。犯人が無理やり子どもを連れて行くようなことはないそうなのです。いかにも優しそうな振る舞いで親子か親戚のような感じで誘拐してしまいます。 何年か前にある町で誘拐事件が起こりました。 その事件、犯人は40歳ぐらいの男性、被害者の子どもは小学校2年生の女の子です。自分はお父さんの友達であると偽って少女に近づき、一緒に遊ぼうと自分のマンションの部屋に連れ込んだそうです。

玄関での出来事です。

その少女は、自分の靴を脱ぐとかかとのところをちょこんとつまんでくるっと回転させて丁寧に自分の靴をそろえたのだそうです。

犯人はその光景を眺めていました。 それで終わらなかったそうです。 次に犯人が脱ぎ散らかした靴もかかとのところをちょこんとつまんで丁寧にそろえてくれたというのです。 そして、少女はこう言いました。

「おじさん、たくさん靴がバラバラに置いてあるからそろえてあげようか」。

そして、玄関に散在していた全ての靴をきれいに丁寧にそろえてくれたというのです。

犯人は、我に返ります。

自分は、なんていけないことをしたのだろう。 少女を家に送っていき、警察に自首してきたのだそうです。 この少女は、勉強好きの真面目な女の子。親思いの優しい子です。 親御さんは、常々嘘をつかずに正直に人のためになることの大切さを話して聞かせていたということです。 正義とモラルについて語るとはこういうことなのだと思います。

「親が子に教える9つのこと」、実行するにはなかなか困難なものかもしれません。

この3月、長期休業を利用して気楽にどこからでも試してみませんか。

コラムニスト

公認心理師・臨床心理士・特別支援教育士スーパーバイザー
  竹内 吉和 

私が大学を卒業してすぐに教師となって教壇に立ってから30年が過ぎ、発達障害や特別支援教育について講演をするようになって、10年以上が経ちました。特別支援教育とは、従来知的な遅れや目が不自由な子供たちなどを対象にしてきた障害児教育に加えて、「知的発達に遅れがないものの、学習や行動、社会生活面で困難を抱えている児童生徒」にもきちんと対応していこうと言う教育です。
これは、従来の障害児教育で論議されていた内容をはるかに超えて、発達障害児はもとより発達障害と診断されなくても認知機能に凹凸のある子供の教育についても対象としており、さらに子供だけでなく我々大人も含めたコミュニケーションや感情のコントロールといった、人間が社会で生きていくうえにおいてもっとも重要であり、基礎的な内容を徹底して論議しているからであるととらえています。

そのためには、児童生徒一人ひとりの教育的ニーズを把握して適切な教育的支援を行う必要があります。ここで、単に教育とせず、教育的支援としているのは、障害のある児童生徒については、教育機関が教育を行う際に、教育機関のみならず、福祉、医療、労働などのさまざまな関係機関との連携・協力が必要だからです。また、私への依頼例からもわかるように、現在、小・中学校さらに高等学校において通常の学級に在籍するLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、知的に遅れのない自閉症(高機能自閉症・アスペルガー障害)などの児童生徒に対する指導及び支援は、喫緊の課題となっており、これら児童生徒への支援の方法や指導原理や全ての幼児・児童生徒への指導は、私達大人を含めて全ての人間が学び、関わり合うための基礎といえるコミュニケーション力を考える上で必須の知識であることを色々な場で訴えています。

今までたくさんの子供たちや親、そして同僚の先生方と貴重な出会いをしてきました。また、指導主事として教育行政の立場からもたくさんの校長先生方と学校経営の話をしたり、一般市民の方からのクレームにも対応したりと、色々な視点で学校や社会を見つめてきたつもりです。ここ数年は毎年200回近くの公演を行い、発達障害や特別支援教育について沢山の方々にお話をしてきました。そして、満を持して2014年3月に広島市立特別支援学校を退任し、2014年4月に竹内発達支援コーポレーションを設立致しました。
今後は、講演、教育相談、発達障害者の就労支援、学校・施設・企業へのコンサルテーション、帰国子女支援、発達障害のセミナーなどを行っていく所存です。

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