産後には、心身共にさまざまな不調の現れることがあります。育児や家事に追われて疲労が蓄積し、睡眠不足もあって充分に休息できない方がほとんどでしょう。
ただの疲れだと思ってしまうかもしれませんが、産後うつを発症している可能性があるため、よくよく注意しなければいけません。
そこで今回は、産後うつの概要や原因、症状や予防方法などを解説します。産後うつについて知って、万が一発症したかもしれない時に、初期の対処ができるようにしておきましょう。
産後うつによって影響を受けるのは母親だけではありません。赤ちゃんにも悪影響を与える可能性があるため、決して軽視できない病気です。妊娠中から出産後にかけて、十分に注意する必要があるでしょう。
マタニティーブルーは、一過性の抑うつ状態で、出産後の女性に見られる症状としては共通しています。気持ちの落ち込みや不安感、不眠といった情緒不安が発生します。マタニティーブルーは産後3-10日以内に発症し、約2週間経てば自然と回復する事がほとんどです。一方で、産後うつは自然回復しにくく、治療が必要です。
また、マタニティーブルーに悩む女性は多く、およそ30~70%の母親が経験します。
育児うつは「育児ノイローゼ」ともいわれるものです。思考能力や注意力の低下、食欲の増加または減少といった症状があらわれます。主な原因は、育児によるストレスや疲れです。
しかし、産後うつには、ホルモンバランスの乱れといった要因も関係しています。
なお、育児うつは出産直後だけでなく、子どもが4歳になるくらいまで発症する可能性があります。
産後うつの原因は様々に分類がありますが、主に4つに分類する方法があります。中には、赤ちゃんが原因で発症すると思っている方がいるかもしれません。
しかしながら、要因はさまざまです。外的要因だけでなく内的要因も関係しているため、さまざまな可能性を考える必要があります。
妊娠中~出産後にかけて、女性ホルモンのバランスは急激に変動します。妊娠中には、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが増加。しかし、出産後には一気に減少するため、体や精神に大きな影響を与えます。
また、妊娠中に増加したホルモンが減少する代わりに、プロラクチンという乳汁分泌ホルモンが増加します。このように、産後には女性ホルモンが増加や減少を繰り返すため、体が順応できません。その結果、情緒不安定や体調不良につながります。
出産後の母親は十分な休息時間を確保できません。数時間ごとに授乳する必要があるため、何度も起きなければいけません。どうしても寝不足の状態になって、披露はどんどん蓄積します。 そして、心身への疲労が限界に達すると、産後うつになる可能性が高まるでしょう。
女性は、出産することで突然「母親」という存在になります。母親として赤ちゃんを守らなければいけないという気持ちが生じて、緊張状態に陥るでしょう。 しかし、自分が母親になったことに気持ちがついていかず、プレッシャーによるストレスに襲われます。
母親は、産後間もないとても繊細な赤ちゃんにずっと向き合い続けなければいけません。そのため、さまざまなことで普段よりも敏感になります。 場合によっては、家族からの何気ない言葉に傷つくケースもあるでしょう。また、家族からのサポート不足が誘因にもなります。
産後うつを発症すると、体や心にさまざまな症状が出ます。疲労によって出る症状と似ているものもありますが、ただの疲れだと思って放置することは危険です。 悪化を防ぐためには、産後うつの症状について正しく理解する必要があります。
産後うつによる身体的な症状としては、食欲の変化、頭痛や全身の痛み、疲労感、睡眠障害などが挙げられます。 さらに、精神的な症状として極度の悲しみや怒り、無力感、罪悪感といった症状もあらわれます。悪化すれば、自殺願望が出てくることも注意が必要です。
産後うつによって、赤ちゃんへの感じ方が変わる可能性はあります。たとえば「赤ちゃんに対する愛情を感じられなくなる」「赤ちゃんに対応する余裕がなくなる」といった変化が生じます。 また、赤ちゃんへの感じ方が変わることに対する罪悪感を覚えるかもしれません。
産後うつを発症した時に「赤ちゃんに危害を加えたらどうしよう」と不安になる方もいるでしょう。しかし、産後うつの症状によって赤ちゃんを傷つけることは、非常に稀なケースです。
疲労の限界を感じて絶望状態に陥っている時には、赤ちゃんを叩きたくなるかもしれません。しかし、イライラしてつい暴力的な感情が生まれる可能性は、父親にもあります。産後うつの母親だけがこのような感情を持つわけではないため、安心してください。
また、このような感情を持ったとしても、実際に危害を加えることはほとんどないでしょう。赤ちゃんに憎しみなどの感情が生まれた場合は、迷わず誰かに相談することが重要です。
産後うつの症状が現れる目安は、出産後1~3ヶ月以内です。ただし、半年後に発症するケースもあり、タイミングは人それぞれ。適切な治療を行わなければ、数ヶ月~数年は症状が持続するため、早めに医療機関に受診することをおすすめします。
産後うつの診断を行う時には、一般的なうつ病の診断基準(DSM-5)が使用されます。診断基準として用いられることの最も多いものが「エジンバラ産後うつ病質問票」(EOPS)です。産後うつの検査を行うために開発されたものであり、世界中で利用されています。日本では日本語版として質問文が翻訳されています。
質問項目は全部で10個あり(それぞれ0-3点)、合計9点以上で産後うつ疑いだと判断されるものの、あくまで指標であり確定ではありません。最終的には医師の判断を仰ぎます。
なお、体の痛みや疲労感といった産後うつの症状は、他の病気によっても起こるかもしれません。別の病気であることも考えられるため、必要に応じて血液検査などが実施されます。
では、産後うつと診断された場合にはどのような治療が行われるのでしょうか。病院の方針や症状の程度によって異なり、主に3つの治療方法があります。 希望する治療があれば、あらかじめ医師に相談しましょう。
はじめに精神療法を取り入れます。産後うつに限らず、うつ病になった時に重要な対策は自分の気持ちを人に話すことです。話すだけで自分の状態を客観的に理解できたり、気持ちを落ち着かせたりできるでしょう。そのため、まずは家族や友人などの信頼できる人に相談する必要があります。
しかし、親しい人だからこそ話せないこともあるでしょう。この場合は、臨床心理士などの専門家に話すことをおすすめします。全く知らない人が聞き手であれば「嫌われるかもしれない」といったことを考えずに相談できるかもしれません。
精神療法で改善しなければ、抗うつ薬や漢方を使用するケースもあります。授乳中の場合、できるだけ薬を摂取したくないと思う方もいるでしょう。いつも以上に薬の成分が気になるのは、決して珍しいことではありません。
しかし、母親のうつ病が悪化することは、赤ちゃんにとっても好ましくありません。育児を行う上で悪影響を与える可能性があります。そのため、できれば治療を受けて、体調を優先しましょう。
薬の服用が心配な場合は医師とよく話し合って、母乳に影響しにくいものを活用することがおすすめです。
心理士や医師による治療だけでなく、自らの生活を見直すことも必要です。適度な運動(ヨガなど)は、治療の補助になり得ます。
最も重要なことは「無理をしない」ことです。
たとえば、育児や家事は家族と協力しながら行う、適度に手を抜く、一定時間赤ちゃんと離れるといった工夫ができます。
産後うつを防ぐためにはまず、子育て、家事ともに完璧である必要はないことを理解しましょう。最初から育児を完璧にできる人は、まずいません。手を抜ける部分はある程度適当に行って、家族に少し任せて一人で悩まないことが大切です。
また、赤ちゃん以外の大人とコミュニケーションを取る時間も必要です。24時間赤ちゃんとだけ向き合っていると孤独感を覚えます。時には家族や友人と会話して、ストレスを発散してください。
家族が赤ちゃんの面倒を見ている間は、遠慮せず寝たり、自分へのごほうびを与えたりしましょう。
最も身近な存在である家族に頼りましょう。仕事で忙しいとしても、父親にできることはたくさんあります。育児を行う時間が取れない場合は、話だけでも聞いてもらってください。 自分や夫の両親が近くに住んでおり、協力を得られる場合は、適度に委ねることをおすすめします。せめて休日だけでも家事や育児を任せて、休む時間を確保しましょう。
悩みの共有できる友人を作ることもおすすめです。できれば妊娠中にママ友を作って、同じ年齢の子どもを持つ母親同士で情報共有を行いましょう。
身近に頼れる人がいない場合は、まずお産した病院や公的機関を頼りましょう。たとえば、地域によっては産婦人科と精神科がタッグを組んだ専門外来があります。専門外来では、専門知識を持った医師による治療を受けられます。
精神保健福祉センターに相談するという選択肢も考えられます。精神保健福祉センターとは、都道府県や政令指定都市に設置されている施設です。育児などに関する悩みがあって心身共に辛い場合は「こころの電話相談窓口」に電話してください。
産後うつかもしれないと思ったら、すぐに医療機関に相談することが大切です。産後うつは単なる体調不良でなく、治療が必要な病気です。適切に治療すれば改善が見込めるため、躊躇せずに専門家を頼ってください。
予防のためには、父親をはじめと周囲の人からの協力が必要です。とにかく一人で抱え込まず、多くの人からの支援を受けながら育児を行いましょう。
みなさんこんにちは、ひらた女性クリニック院長の平田英司です。
長崎大学医学部を卒業し広島大学産科婦人科学教室に入局して以来、25年以上にわたり総合病院勤務医として婦人科腫瘍、産科、女性医学、不妊と産婦人科の四つの診療分野につき幅広く研鑽を積んで来ました。婦人科は広島県の代表的な婦人科腫瘍専門医として手術執刀を含め診療の中心的役割を担い、産科はNICU 設置病院に主に勤務し総合的周産期医療に従事してきました。
しかし、こと外来診療に関しては、仕方がないことですが、総合病院の外来はどこも効率優先から待ち時間が長く診療時間が短くなりがちで、病気や問題の本質にせまり難く、これがストレスになっていました。
患者さんも医師も納得する診療、とにかくていねいな診療、これを実現するべく自分のクリニックを開院させて頂く運びとなりました。一見軽微に思える症状でも、また症状がなくとも抱えた問題について気軽に相談でき、かつ専門的診療まで実施可能で、さらに広島市内県内のみならず全国の高次医療機関への紹介が可能な「究極のかかりつけ医」を目指します。
「どうせうまく治らない」「どうせわかってくれない」「女性医師でないからわからない」と思いつつでもいいから、気軽に受診して下さい。必ずや、あなたの問題を一緒に解決し、快方に向かわせられると思います。
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