気温が低くなってくると流行し始める風邪。早めに治そうと風邪薬を手に取る方も多いのではないでしょうか。
「高い風邪薬ほどよく効く」「風邪薬を飲めば早く治る」と思われている方もいるかもしれません。
しかし実は、風邪薬はよっぽど症状がつらくない限り「飲まなくてもいい薬」なのです。今回は市販の風邪薬について誤解されがちな4つのポイントと、風邪を引いたときの正しい対処方法などを紹介します。
あなたは風邪薬に対してどのようなイメージをおもちですか?飲めば症状が楽になる、早く治るなど、人それぞれイメージがあることでしょう。残念ながら、市販の風邪薬に対しては誤った認識をされている方が少なくありません。
風邪薬を飲んでも風邪は治りません。これを言うとびっくりされる方が多いのですが、風邪薬は風邪の症状を「抑える」だけのものです。風邪の80~90%はウイルス感染が原因で起こります。市販の風邪薬には鼻水や咳、熱を抑える成分は入っているものの、ウイルスに効く成分は入っていません。そのため、風邪そのものを治すことはできないのです。
「それなら病院で抗ウイルス薬を貰えばいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、風邪の原因となるウイルスは200種類以上もあると言われているため、原因ウイルスを絞ることは現実的ではないのです。
「早めに飲んだからよく効いた」と、いかにも早く飲めば早く治るかのような印象をもたせる風邪薬のCMがときどき流れています。しかし、早く飲んだからといって、風邪の症状がその分早くよくなることはありません。
風邪薬は対症療法といって出ている症状を抑えているだけなので、早く飲んでも遅く飲んでも効果に変わりはほぼないのです。そもそも、風邪薬に風邪を治す効果はないことから、早めの服用に何か意味があるとは考えづらいでしょう。
風邪の症状が、どんな症状から始まったのかは市販薬を選ぶうえではあまり関係ありません。大事なのは、今なんの症状が出ているかです。基本的に、今ある症状を見て風邪薬は選んでいきます。
風邪薬と聞くとどうしても風邪を治してくれそうな薬、というイメージをもちます。しかし、世界中のどこを探しても風邪を治す薬はありません。あったらどんなに嬉しいことかとは思いますが、原因ウイルスが非常に多いためなかなか難しいのが現状です。
風邪薬を飲んでも風邪が治らないなら飲む意味がないのか、と言われるとそうではありません。たしかに風邪そのものを治すことはできませんが、つらい症状を楽にして体力の消耗を抑えることはできます。
しかし、さまざまな風邪の症状に効く総合風邪薬を選んでしまうと、本来なら必要としない薬効成分まで飲んでしまうことになり、副作用が出やすくなることがデメリットです。そのため、できれば総合風邪薬ではなく出ている症状に合わせた市販薬を選ぶようにしましょう。
鼻水や鼻づまりなど、鼻の症状がメインのときはいわゆる鼻炎薬を選んでみてください。鼻に特化した成分が配合されているため、総合風邪薬よりもしっかりと症状を抑えてくれるものがほとんどです。
花粉症の場合はアレグラやアレジオンなど第2世代の抗ヒスタミン薬が配合された飲み薬が人気ですが、風邪の場合は第1世代の抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミンやジフェンヒドラミンなど)のほうがよく症状を抑えてくれます。
1日1回の服用でも効いてくれる持続タイプの市販薬です。鼻水と鼻づまりの症状をしっかり抑えます。
無水カフェインが配合されているため、鼻水や鼻づまりが原因で頭痛も出ている方に向いている市販薬です。
のどの痛みには、解熱鎮痛剤やトローチなどが主な選択肢となります。速やかに痛みを取り去りたい方は鎮痛剤、炎症を抑えつつのどに爽快感が欲しい方はトローチを選ぶとよいでしょう。
鎮痛作用のあるイブプロフェンのみが配合された市販薬です。イブプロフェンには炎症を抑える働きもあります。熱や頭痛にも使えることが特徴です。
炎症を抑えるグリチルリチン酸と、殺菌作用のあるセチルピリジニウムが配合されています。5歳から服用可能です。
熱や頭痛がつらいときは、解熱鎮痛剤を選びましょう。いろいろと種類がありますが、熱の程度や自分に合ったものを選ぶことが大切です。
液体カプセルタイプになっており、素早く溶けて解熱鎮痛作用を発揮します。15歳以上から服用可能です。
胃に優しいアセトアミノフェンが配合されているため、空腹時でも飲めます。食事がなかなか取れていない方におすすめです。
咳がつらいときは、咳を鎮めたり痰を取り除いたりする成分が入っているものを選びましょう。ただし、痰が絡む場合は咳を止めることで痰の排出がしづらくなり余計に症状が悪化する場合があります。そのため、痰がからむ湿った咳には去痰薬の使用がおすすめです。
ゴホゴホという湿った咳に有効な咳止め(去痰薬)です。痰をサラサラにして排出しやすくします。
コホコホという乾いた咳に使いやすい咳止めです。痰がからまない咳に向いています。風邪による咳だけでなくアレルギーによる咳にも有効です。
風邪を治す特効薬がない以上、風邪を引かないように普段から予防しておくことが大切です。
手洗いは、手についたウイルスを落とすとても有効な方法です。流水で15秒洗うだけでもウイルスの99%を取り除けます。ハンドソープを使って60秒もみ洗いをし、流水で15秒すすげば約99.99%のウイルスを取り除くことが可能です。
マスクは感染を防ぐだけでなく、マスク内の湿度を上げることで体の防御機能を高める効果も期待できます。また、自分がほかの人へ感染させてしまうリスクを下げることも可能です。風邪やウイルスが流行しているときはマスクを着用するよう心がけましょう。
多くのウイルスは、湿度が高い環境を嫌います。冬に流行しやすいことで知られるインフルエンザウイルスは、湿度を上げると生存率が低くなることが明らかです。
6時間後の生存率 | |
温度20.5~24度、湿度20~25% | 66% |
温度20.5~24度、湿度49~51% | 3~5% |
ウイルスの多くはインフルエンザウイルスと同様に湿度に弱いため、乾燥しやすい時期は湿度に注意しましょう。
風邪の予防に「手洗いうがい」と言われることが多いですが、はたしてうがい薬にはどれくらいの効果があるのでしょうか。ある実験によると、うがい薬には大きな効果がないことがわかっています。
うがい薬がどれくらい風邪の発生リスクを下げるのか調べるために、次の3つのグループにわけて調査が行われました。
すると、うがいをしないグループと比べて水だけのグループは風邪の発生が35%抑えられていましたが、ポビドンヨードを使ったグループではわずか7. 7%しか減少していませんでした。このことから、うがい薬を使わず水だけでも十分に効果があると言われています。
のどが痛いからといってうがい薬を購入される方は少なくありません。しかしポビドンヨードに代表されるうがい薬は、あくまで感染を予防するものでのどの痛みを抑える効果はあまり期待できません。
風邪の症状が出てからうがい薬を使いたい場合は、炎症を抑えるグリチルリチン酸が配合されたもののほうが症状は和らぎやすいでしょう。
病院に行ったとしても、ほとんどは出ている症状を抑えるお薬が処方されます。そのため、もし日常生活に支障がない程度でしたら病院に行かず自宅でしっかり休むことが基本です。ただし、次のような症状があったら病院を受診するようにしてください。
水分が摂れずぐったりしている場合はすぐに受診しましょう。放っておくと脱水を起こし、悪化すると力が入りづらくなったり意識障害を起こしたりします。口からの水分摂取が難しい場合は点滴もしてもらえますので、はやめに受診するようにしてください。
市販の風邪薬を飲んでも症状が改善しなかったり、何日も寝込んでしまったりするくらい症状がつらいときは受診して適切な治療をしてもらいましょう。風邪ではなく肺炎や扁桃炎、喘息などの可能性も考えられます。
風邪薬は風邪の症状を抑えるものであり、決して治すものではありません。早く飲んだからといって症状が早く治るわけではないので注意しましょう。また総合風邪薬は必要でない成分を服用してしまうリスクが高いため、できれば症状に合わせて個別に市販薬を用意するのが望ましいと考えられます。
脱水を起こしていたり日常生活に支障が出たりするほど症状がつらい場合は早めに医療機関を受診しましょう。
薬剤師としてドラッグストアで働いていくなかで「このままではいけない」と日に日に強く思うようになっていきました。なぜなら「市販薬を正しく選べている方があまりに少なすぎる」と感じたからです。
「本当はもっと適した薬があるのに…」
「合う薬を選べれば、症状はきっと楽になるはずなのに…」
こんなことを思わずにはいられないくらい、CMやパッケージの印象だけで薬を選ばれている方がほとんどでした。
市販薬を買いに来られる方のなかには「病院に行くのが気まずいから市販薬で済ませたい」と思われている方もいるでしょう。かつての私もそうでした。親にも誰にも知られたくないから市販薬に頼る。でもどれを買ったらいいかわからない。
そんな方たちの助けになりたいと思い、WEBで情報を発信するようになりました。この症状にはどの市販薬がいいのか、どんな症状があったら病院に行くべきなのか、記事を通して少しでも参考にしていただけたら幸いです。
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