手を使いすぎたら腱鞘炎になってしまい整形外科で治療した、という良くある話。経験者の方もいらっしゃるのでは?
手を使いすぎたり細かい作業をしたりするとなる、女性に多い・・色々なイメージがあるかと思いますが、細かい話はよくわかりませんね。いつ自分がなるかも分からない、腱鞘炎について学んでいきましょう。
腱鞘炎というのは、文字の通り腱鞘の炎症です。腱鞘というのは、腱の鞘(さや)。腱をおさめる部分という意味です。
腱とは筋肉と骨をつなぐ硬い組織で、体中にあります。代表的なのはアキレス腱。アキレス腱は太めのうどんのような形をしていますが、手や足には5mm程度の細い腱が多数あり、連携して動くことで指を曲げたり伸ばしたり、細かい動きができるような作りになっています。手を大きく広げた時に手の甲に浮き上がるのは、手にある腱の一部です。
腱は体の中でスムーズに動き、効率よく力を伝えるために腱鞘の中を通っています。腱鞘は腱全体を包むわけではなく、ポイントとなる部分に短いトンネルのようにして存在しています。
腱鞘は体中で腱の周りに多数ありますが、特に炎症を起こしやすいのが、手首と手のひらにある腱鞘。そのため一般的に腱鞘炎といえば手首・手のひらを指すことが多く、手首に起こる腱鞘炎をドケルバン病、手のひらにおこる腱鞘炎をばね指と呼んでいます。
腱鞘炎は、腱とそれを包むトンネル(腱鞘)の間でこすれや細かい傷が原因となり、炎症を起こす病気です。指や手首を動かすたびに腱は腱鞘の中をスライドして動くため、手の使いすぎが発症の原因になるのです。
実は、腱鞘炎は近年増加の一途をたどっていると言われます。原因は、スマホ・PC・ゲームなど指を酷使する作業の増加です。特に親指の酷使はドケルバン病・ばね指両方の原因となるため、長時間のスマホ使用(親指を使用した文字入力、ゲーム操作)は腱鞘炎のリスクを高めます。
ドケルバン病は親指を伸ばして外に広げるための腱が、手首にある腱鞘を通るところでおこる炎症です。親指の使いすぎなどが原因になります。
親指を立てるジェスチャー(サムズアップ)をしてみてください。親指の付け根から手首のところにかけて2本の腱が浮き上がって見えませんか?左手で言えば、右側にあるのが「短母指伸筋腱」といいます。この腱に沿って手首までなぞっていくと手首の骨の出っ張りがあり、そのあたりに痛みを起こすのがドケルバン病です。
親指を手に握り込んで手首を小指側に曲げると痛みが強くなります(フィンケルシュタインテスト変法(1))。
手の指を曲げるための腱が、指の付け根にある腱鞘を通るところでおこる炎症です。全ての指に腱鞘があるため、どこでもおこる可能性がありますが、特に多いのは親指と中指です。
手のひらの各指の付け根近くで痛みが発生します。症状が進行すると、腱鞘の中を腱がスムーズに通過できなくなり指を曲げることができなくなったり、一度曲がった指が元通りに伸ばしづらくなったりします。曲げた指を伸ばす時にカクン、とばねのような動きをするためばね指という名称がついています。
腱鞘炎は手をよく使う方やスポーツで手を酷使する方だけでなく、妊娠出産期の女性や更年期の女性に多く発生することが以前から知られていました。その原因として女性ホルモンとの関係が想定されています。
代表的な女性ホルモンがエストロゲンです。エストロゲンは腱の細胞を増やしたり、腱のダメージを修復したりする作用に関係している可能性があります(2)。出産前後のホルモンバランスの変化や、更年期におこる女性ホルモンの減少が腱鞘炎の発症につながるのかもしれません。
腱鞘炎は症状が軽いうちであれば、自然に軽快することがあります。手や指の酷使が原因であるため、繰り返しの細かい作業を避けて安静にすることで、症状が軽くなる可能性があります。
スマホは片手で操作せず両手を使う、キーボードやマウス操作では手首の負担を軽くするクッションを使用する、長時間続けて作業せずに休憩をはさむ、などの対策が考えられます。スポーツが原因と考えられる場合には、回数や強度を減らす、またはフォームの矯正が必要かもしれません。
また妊娠出産期や更年期におこる腱鞘炎に対して、エストロゲンの補充が有効である可能性があり(2)、女性ホルモンに似た作用をする成分(エクオールといいます)の摂取(サプリメント)を進める意見もあります。
腱鞘炎はそのうち治るだろう、などと思われ放置してしまいやすい疾患の一つです。確かに重病とは言えないかもしれません。ただし、長期間放置すると思わぬ後遺症を残す可能性があることに注意が必要です。
痛みが強かったり、腱のひっかかりが原因で指を伸ばしたり曲げたりする回数が減少し、それが長期間に及ぶと指の関節が徐々に硬くなります。指の関節は複雑な構造をしているため、一度硬くなってしまうと改善するのは難しく、永続的な症状となってしまうことがあります。
せっかく腱鞘炎が治っても、結局指が動かなくなってしまった・・では意味がありません。指が十分に動かせない場合には早めの受診が必要です。
細菌が原因となって起こるのが、化膿性腱鞘炎です。手のけがや腱鞘炎に対して行われる注射が原因となります。細菌が腱鞘の中や周囲で非常に強い炎症を起こし、短時間で腱に沿って広がり、腱を強く障害し時には腱を溶かしてしまいます。
激烈な痛みを起こし、時には全身状態を急激に悪化させるため緊急の対処が必要な状態です。手のひらに強い痛みや発赤があり範囲が急速に拡大している、指をまっすぐ伸ばそうとすると腱鞘付近に激しい痛みがある、痛みに伴い発熱があるなどの場合は救急病院を急いで受診しましょう。
病院では安静を図るため、添え木をあてて短期間固定することがあります。必要に応じてリハビリテーションやテーピングの実施が検討され、炎症による痛みが強い場合や腱のひっかかりが強い場合には腱鞘内にステロイドを含む薬剤の注射が行われます。
それらの保存療法を行っても症状が改善しない場合、症状を繰り返してしまう場合には腱鞘を切開する手術が行われます。
その他ハイドロリリースといって、ステロイドを使用せず生理食塩水を腱鞘内に注射する方法、自分の血液の成分を利用した注射、体外衝撃波など主にスポーツの分野で使用される方法を腱鞘炎の治療に応用している施設もあります(保険外診療)。
今ひそかに増加中の腱鞘炎について解説しました。スマホやPC作業で指や手首が疲れたな、と誰もが感じたことがあると思います。適度に休憩をはさみながら、余裕をもって作業したいですね。
患者さんやご家族が病状や治療について十分に理解し、医療職と協力しながら本人にとって最善の治療を選択していくこの時代。
医師も積極的に正しい情報発信をするべきと考え、医療ライターとして活動しています。
「よく分からないけど、お医者さんの言うことだから聞いておけば安心。」
「医者の言うことは、難しくて分かんね。」
そんな思いを抱えながら治療を受けることも多いでしょう。
しかし医療に絶対はありません。
どのような治療結果になったとしても、そのプロセスや治療内容を理解することで次に進むことができます。
医療の進歩はめざましく、施設によって方針が異なる場合もあります。
記事を参考にして、主治医とよく相談し後悔のない治療を受けてほしいと願っています。
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