ドラマや映画、小説やマンガなどで題材になりやすい病気の一つに、骨肉腫があります。
骨肉腫を発症した子どもを待ち受ける運命は厳しく、悲しく切ない状況で繰り広げられる心のやりとりや、病気に立ち向かう姿は私たちの心を打つものがあります。
骨肉腫は非常に有名な病気ですが、皆さんのご家族やご親戚などに骨肉腫を発症した方がいる、という方は非常に少数と思います。実は腫瘍を専門としない、一般の整形外科医をしていると、骨肉腫の患者さんと巡り合うのは医師人生で1-2回程度とも言われます。それくらい珍しい病気なのです。
ここでは骨肉腫について現時点での正しい医学情報を紹介します。大事なお子さんの命に関わるかもしれない重大な病気。だからこそ病気を正しく恐れること(怖がりすぎない)と共に、万が一の病気をいち早く発見できることに少しでもつながればと思います。
骨肉腫とは、骨にできるがんのことです。「肉腫」も「がん」も悪性腫瘍のことを指しますが、胃や肺・腸など(上皮性細胞)に発生した悪性腫瘍を「がん」、骨や筋肉、脂肪など(非上皮性細胞)に発生した悪性腫瘍を「肉腫」と呼びます。
骨肉腫を構成する細胞は、骨や骨に似た成分を産生しながら不規則に勢いよく、際限なく増殖し周囲の組織を破壊し、圧迫します。日本では年間に人口100万人あたり2-3人程度(年間200人程度)発生します。若い年齢で発生することが多く、10代が60%、20代が15%ですが、高齢の方にも一定の数が発生しています(1)。5歳以下に発生することはまれです。
遺伝子の異常が発がんに関わるという意見があるものの、はっきりした発生原因は分かっていません。ほぼ全ての骨肉腫に遺伝性はありませんが、ごく一部に遺伝性を示す特殊な病型があります。
初期には症状がないこともありますが、多くは腫瘍が発生した場所に痛みを感じます。最初は運動する時の軽い痛みや違和感程度であるものの、徐々に運動しなくても痛い、腫れや熱っぽさが明らかになるなど症状は進行性であることが多いとされています。
骨肉腫は膝周りに発生することが多く全体の約70%、次に腕の付け根に多く約10%です(2)。つまり膝や肩に痛みを感じ、症状が改善せずに徐々に悪化するという症状を起こすことが多いのです。
膝に痛みを起こすことが多い骨肉腫ですが、膝が痛いお子さんみんなが骨肉腫であるわけはありません。元気に走り回るお子さんは、知らないうちに膝をひねったりぶつけたりしてしまうこともよくありますよね。本格的にスポーツをやるお子さんでしたら、オスグッド・シュラッター病など、頻度の高いスポーツ障害であるかもしれません。
他にもお子さんに特徴的な膝から下の痛みとして、成長痛があります。はっきりした原因なく夕方から夜間に痛みを訴え、次の日にはケロッと治っていたりします。医学的には骨が伸びる時に痛みを感じることはないはずなので、原因はよく分かっていません。心因性という意見もあります。ご存知の通り、成長すればなくなる痛みです。
厄介なのは、骨肉腫で起こる膝の痛みはちょっとしたケガやスポーツ障害、成長痛で起こる痛みと非常に似ているという点です。骨肉腫を発症しやすい年齢がケガやスポーツ障害、成長痛を起こしやすい年齢と近いという点もあります。症状のみから診断を確定するのは難しく、経過などに疑わしい点があれば検査が必要になります。
明らかに打撲など原因がはっきりしている場合、部活の練習がきつかった翌日の痛みなどの場合は、症状が強くなければまず安静にして様子をみていいものと考えられます。成長痛でははっきりした原因がありませんが、症状は数時間程度など一過性で、通常腫れや運動制限は認めません。
逆に言うと、これらの典型的な経過にあてはまらない場合に注意が必要ということになります。
以上のような症状がある場合は、早めの受診をお勧めします。
骨肉腫の可能性を考えた場合にまず行われるのは、痛みがある場所のレントゲン検査です。骨肉腫のレントゲンでは骨のまわりに白いもやもやが見えたり、骨が抜けて見えたりすることがあります。骨肉腫の可能性が疑われた場合、MRIやCTなど精密検査に進みます。MRIやCTでは病変の大きさや広がりを評価することができます。
もしこれらの検査で悪性腫瘍が疑われる場合、専門医療機関へ紹介となるケースが多いでしょう。骨肉腫の最終的な診断は、病変の一部を手術で採取して顕微鏡で観察する、病理検査によってなされます。
病理検査の結果、骨肉腫の診断が確定すれば、ただちに抗がん剤による化学療法が開始されます。骨肉腫は非常に進行が早く、発症した時点で腫瘍細胞が全身にいる可能性が高いと考えられるため、すぐに腫瘍切除や切断などの手術を行うのではなく、全身治療を先に行います。(骨肉腫による圧迫が原因で、神経麻痺など緊急性が高い症状がでている場合は手術を先に行うこともあります)
その後腫瘍切除、人工関節、骨移植などの手術が行われます。腫瘍のみの切除がどうしても難しい場合には患肢の切断術が検討されます。
骨肉腫といえば、不治の病・死に至る病というイメージがあるかもしれません。以前は患肢の切断が主な治療法であり、抗がん剤の使用は一般的ではありませんでした。その頃の5年生存率(診断後5年時点で生存している率)は20%、つまり5人に4人は5年以内に亡くなってしまう状況でした。
化学療法が進歩した現在では、治療開始時点で転移がなければ5年生存率は60-80%程度(2)と大きく向上しています。ただし肺に転移がある場合ではその数値は20-30%程度に低下します。やはり早期発見・早期治療が重要であるということが分かります。
めったにない珍しい病気ではありますが、有名な骨肉腫について解説しました。お子さんの膝の痛みというのは、非常にありふれた症状であり過剰な心配をする必要はありません。また万が一骨肉腫と診断されても、薬剤や手術が進歩し、治療成績は向上しています。しっかりと病気に向き合うことができるはずです。
とはいえ、お子さんの命に関わる怖い病気なのは間違いありません。症状が続く・悪化するなど不安がある場合には、信頼できる医療機関で相談するようにしましょう。
患者さんやご家族が病状や治療について十分に理解し、医療職と協力しながら本人にとって最善の治療を選択していくこの時代。
医師も積極的に正しい情報発信をするべきと考え、医療ライターとして活動しています。
「よく分からないけど、お医者さんの言うことだから聞いておけば安心。」
「医者の言うことは、難しくて分かんね。」
そんな思いを抱えながら治療を受けることも多いでしょう。
しかし医療に絶対はありません。
どのような治療結果になったとしても、そのプロセスや治療内容を理解することで次に進むことができます。
医療の進歩はめざましく、施設によって方針が異なる場合もあります。
記事を参考にして、主治医とよく相談し後悔のない治療を受けてほしいと願っています。
腰椎椎間板ヘルニアの治療として、保存治療と手術の中間に位置する、椎間板内酵素注入療法(コンドリアーゼによる化学的髄核融解術1))が誕生し、広まっています。
腰痛や足のしびれなどで整形外科を受診すると、しばしば診断される腰椎椎間板ヘルニア。頻度が高い疾患で、全人口の約1%、つまり100人に1人がかかっていると推定され...続きを読む
全国民がさまざまな症状に悩む中、男性では第一位、女性では二番目に多いのが「腰痛」です1)。コロナ禍でデスクワークの時間が増加し、腰痛の患者さんは急増しています。
そして腰痛の原因として多いのが、腰椎椎間板ヘルニア。つまり腰のヘルニアです。 よく聞く「腰のヘルニア」。詳しい説明を聞いたことはありますか? 腰のヘルニ...続きを読む
私たちの体重を支えて歩行や走行の土台になっている足。小さな体でがんばってくれています。非常に大切な働きをしている割に多少の変形は気にされないなど、ないがしろにされがちです。
裸足で駆け回ることの少なくなった現代の子供たちに密かに増加している足の異変。それが外反扁平足(がいはんへんぺいそく)です。 大切なお子さんが後々で足の症状...続きを読む
ドラマや映画、小説やマンガなどで題材になりやすい病気の一つに、骨肉腫があります。
骨肉腫を発症した子どもを待ち受ける運命は厳しく、悲しく切ない状況で繰り広げられる心のやりとりや、病気に立ち向かう姿は私たちの心を打つものがあります。 骨肉...続きを読む