2022/07/22

高齢化が進む現代、「健康寿命」という言葉がキーワードになっています。

私たちが年齢を重ねても元気でいるために、重要なのが「骨」です。体を支える骨が元気でいれば、活動的な生活を送ることができますが、骨がもろくなり骨折してしまうと生活の質は大きく下がってしまいます。

他人事ではない、身近な疾患である骨粗鬆症。健康寿命を延伸するため対策が欠かせない疾患です。さまざまな薬剤が開発され、今日も使用されています。しかし、薬剤を使用していても骨折が起きてしまった、薬剤を開始したものの効果を実感できず、治療を自分で中断した結果骨折が起きた、などのケースが少なくありません。

そのような状況の中、2019年日本では世界に先駆けて「ロモソズマブ」という薬剤(商品名イベニティ®︎)が新しく承認されました。新しい治療薬であるロモソズマブ、臨床試験の結果から、早くて強力な効果が確認されています。

ここでは、新しい骨粗鬆症治療薬ロモソズマブについて紹介していきます。

国内の骨粗鬆症患者数、約1300万人!

世界有数の長寿大国である日本。加齢が主なリスクとなる骨粗鬆症の患者さんの数が多いのは当然のことで、現在国内には約1300万人の患者さんがいると言われています。その内訳は男性300万人、女性1000万人と圧倒的に女性に多い疾患であることがわかります。

なぜ女性に多いのか。それは女性ホルモンが閉経を期に急激に減少してしまうことが理由です。

もともと人の骨では常に新しい骨が作られ、古くなった骨は吸収されるという新陳代謝が起きています。骨は2-5ヶ月程度で新しいものに入れ替わるため、新しい状態を維持できているのです。

骨が作られることを骨形成、骨が吸収されることを骨吸収と呼びますが、骨形成と骨吸収のバランスがとれていると、骨密度は一定に維持されます。ところが、閉経を期に女性ホルモンが減少すると、骨吸収が優位になり、骨がどんどん薄くなってしまうのです。これが大きな原因となるため、骨粗鬆症は女性に多い疾患となっているのです。

骨粗鬆症の治療が必要な理由

骨粗鬆症自体は痛みなどの自覚症状が特にないため、自分の骨密度が減っていても気付くことはありません。そのため、骨粗鬆症になっていても治療を受けていない方が多くいると考えられています。

骨密度が減っても症状はありませんが、骨折を起こすと当然激痛が起こります。骨粗鬆症の方に多く起こるのは、足の付け根(大腿骨近位部)や腰ぼね(腰椎)の骨折です。足の付け根や腰に激痛が起こると体を起こすこともできず、歩くこともできなくなり寝たきりの状態になってしまいます。

骨折が治癒するには2-3ヶ月程度必要であるため、その間に体力が奪われ元の生活に戻れず介護が必要になってしまいます。骨折は健康寿命を短くしてしまう、重要な原因なのです。それこそが、骨粗鬆症の治療が必要な理由です。

骨粗鬆症の方の多くは、つまずいて転んでしまった、バランスを崩してよろめいてしまった、場合によっては車に乗っていて段差を乗り越えた時の振動、またはくしゃみをしたなどささいなことで骨折を起こしてしまいます。骨粗鬆症の治療を受けて骨密度を維持し、骨折を予防する治療が必要です。

ロモソズマブは、これまでの薬と何が違うの?

骨粗鬆症の治療薬はこの20数年、さまざまな薬が相次いで承認、発売されています。1996年に登場したビスホスホネート製剤、2004年に承認をうけた選択的エストロゲン受容体モジュレーター、2013年に発売されたデノスマブは、骨吸収を抑えて骨を強くする治療薬です。

2010年に発売された副甲状腺ホルモン薬は、骨形成を促すことで骨を強くする治療薬です。

ロモソズマブは、骨の代謝に関わるスクレロスチンというタンパク質の働きを抑えることで骨を強くする効果があるのですが、その結果として骨吸収を抑えると同時に、骨形成を促すという両方の働きをもつ薬剤なのです。

骨粗鬆症薬は飲み薬やゼリー状の薬、注射(病院で行うもの、自己注射)などいくつかのタイプがありますが、ロモソズマブは月1回病院で注射をする投与法となっています。

ロモソズマブは、どれくらい効くの?

ロモソズマブが承認される根拠となった、2つの大規模な臨床試験を紹介します。

1つはFRAME試験と呼ばれるもので、50-90歳の骨粗鬆症患者さん約7000人を対象として、ロモソズマブ、または偽薬(薬剤の入っていない注射をする)を月1回、12ヶ月投与して比較した試験です。その結果骨密度が上昇し、期間中の(腰ぼねの)骨折発生率を偽薬群と比較して74%減少させています。

他の骨粗鬆症治療薬の多くは投与2年以上での骨折予防効果を検討しており、ロモソズマブでは1年ではっきりした差がでたということから、この新薬が早く効くという意味で優位性をもつと解釈されています1)。

もう1つはARCH試験と呼ばれるもので、55-90歳の骨粗鬆症患者さん約4000人を対象として行われた試験で、ロモソズマブとアレンドロネートという従来からあるビスホスホネート薬を比較した試験です。詳細は割愛しますが、この試験でもロモソズマブを使用した群でより骨折の発生が抑えられており、もともと効果が実証されている薬と比較しても、より強力な効果があると解釈されています。

私もロモソズマブの治療を受けられる?

骨が強くなるなら私もその治療を受けたい!と思うかもしれません。しかしロモソズマブはあくまで骨粗鬆症の治療薬。サプリメントとは違います。

ロモソズマブを使用する対象になるのは、「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」であり、基準が厳格に定められています。骨密度の検査やレントゲン検査などから医師が総合的に判断し、ロモソズマブの適応となるかどうかを診断していきます。

また、一言に骨粗鬆症と言っても患者さんによりタイプが異なります。女性の方が閉経後になる頻度が高いものの、男性でも骨粗鬆症になることもありますし、糖尿病や薬剤などが原因で骨粗鬆症になることもあります。タイプや生活環境などにより適した骨粗鬆症の治療が異なるため、希望したから受けられるというものではないことに注意が必要です。

ロモソズマブの治療を受ける上で注意したいこと

ロモソズマブは、薬価が25061円(1筒)です。通常1月に1回、2筒投与するので自己負担額は3割負担の方で月に約15000円、1割負担の方で月に約5000円となります。費用負担がやや重いことに注意が必要です。

また、ロモソズマブの大規模な臨床試験であるARCH試験において、ロモソズマブを使用した群で心血管系の有害事象が多く発生しました。そのため、ロモソズマブの添付文書には、「過去1年以内の虚血性心疾患又は脳血管障害の既往歴のある患者に対して、本剤の投与は避けること2」」と記載されています。

狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを過去1年以内に発症している方は、原則として受けられない治療ということになります。

まとめ

骨粗鬆症の新たな治療薬、ロモソズマブについて解説しました。治療を開始して早期に効果が期待できるため、すでに骨折を起こしてしまった方など、急いで次の骨折を予防したい場合に適した薬剤と考えられます。

ただしこの薬剤がすべてにおいて勝るというものではありません。また、骨粗鬆症の治療は薬剤だけでなく日常生活から食事や運動に気をつける必要があります。

女性では50歳くらいから、男性では70歳くらいから骨が薄くなり始めるため、早いうちに骨密度検査を受けておくことをおすすめします。骨粗鬆症についての解説は、次のコラムをごらんください。

1) 骨粗鬆症:ロモソズマブ 関節外科40(3), 2021
2) イベニティ皮下注105mgシリンジ 添付文書

コラムニスト

  現役医師医療ライター Dr.Ma 

患者さんやご家族が病状や治療について十分に理解し、医療職と協力しながら本人にとって最善の治療を選択していくこの時代。
医師も積極的に正しい情報発信をするべきと考え、医療ライターとして活動しています。

「よく分からないけど、お医者さんの言うことだから聞いておけば安心。」
「医者の言うことは、難しくて分かんね。」

そんな思いを抱えながら治療を受けることも多いでしょう。
しかし医療に絶対はありません。
どのような治療結果になったとしても、そのプロセスや治療内容を理解することで次に進むことができます。

医療の進歩はめざましく、施設によって方針が異なる場合もあります。
記事を参考にして、主治医とよく相談し後悔のない治療を受けてほしいと願っています。

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