2022/09/22

今回は『欲望のままに食べたい放題にしていては、体のために良くない。何とか理性を持って食欲を調整しましょう』というお話です。

食べ物は身体の養分になる。食べ過ぎなければ、身体の健康を維持する。
でも食べ過ぎると、身体に良くない。植物でも、水や肥料をたくさん与えると枯れてしまうのと同じである。命の長短は、身体の強弱よりも慎みをもって生きるか欲望のままに生きる のかによるところが大きい。
知っていてもそれを行動に移さないのであれば知らない者と何ら変わりはない。

これらは100年以上も前に儒学者で本草学者の貝原益軒の著した『養生訓』にある内容です。

世界では人口が79億人に達しようとしており、2050年には90億人になると言われています。

日本栄養士会でも今年は持続可能な到達目標(SDGs)を取り上げていましたが、今後世界規模でフードロスや水資源、環境負荷の少ないたんぱく源など解決すべきさまざまな問題があります。

世界では一部の地域では貧困や飢餓が問題となっているのに、20億人の人が肥満か過体重と言われ、1975年からほぼ3倍になっているそうです。

わが国での肥満者(BMIが25以上の人)※の割合は男性33% 女性22.3%で、年齢別では男性は40歳代が39.7%、50歳代が39.2%と多く、女性は60歳代で28.1%と最も高くなっています。この10年ほど肥満者数は横ばいの状態で推移しています。 少し古くなりますが、令和元年の「国民生活基礎調査」によると20歳以上で過去1年間に健診や人間ドックを受けたことがある人は男性74.0%、女性65.6%いるという事です。ここ数年はコロナ禍の影響もあり少なくなっているようですが、思ったより受診率が高いことに驚きました。

検診でBMI25以上あった方は「肥満です。生活習慣病予防のためにも体重を減らしましょう」と検査結果報告書でアドバイスされませんでしたか? または腹囲で男性85cm以上、女性90cm以上で引っかかり血圧や血糖が高くて保健指導を受けるように勧められている方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

きっと『痩せたほうが良いのだろうな・・・・。』と思われたことでしょう。

思っていても直ぐに実行に移す方は少ないようです。減量対策としては、少し前までは「ウォーキングしています」とか、「なるべく階段を使うようにしています」「カロリー0の飲み物に変えました」等とても分かりやすい健康対策を聴くことが多かったのですが、最近では「ジムに通っています」とか、「ヨガをしています」「水泳を始めました」等もよく耳にしましたが、コロナ影響で少し通いにくくなったようです。

しかし相変わらず『ヘルシー』という言葉は魅力的なようで、大したエビデンスもない商品に引き寄せられているようです。その証拠に必ずと言ってよいくらいその商品のコマーシャルの下に小さな字で『個人の感想です』と書かれています。そもそも私たちの体はたった一つの食べ物によって左右されるほど単純にはできていません。

何か一つのものを食べて体重が減るのでしたら、大変だと思います。何度も繰り返し書いていますが、人間の体はその人が食べたものでできています。『You are what you eat』直訳すれば、貴方はあなたの食べたものでできている。何を食べるかによって体や健康・精神状態が違ってくるという意味にとっても良いと思います。

思いつくまま、食べたい放題に食べて体調が悪くなったり太ったりしたら、量が多すぎたり、食べるものの内容が良くないのだと思いませんか?

例えばご飯を必要以上にたくさん食べた場合はエネルギー源として使って余った糖質は、脂肪に変えて蓄えようとします。また脂肪の多い食品を摂り過ぎたら、炭水化物やたんぱく質が1gで4kcalの熱量を作り出しますが、脂肪は1gで9kcalの熱量を作り出しますので、益々エネルギーが余って蓄えようとします。生物としてはとても優れた飢餓に対抗するための能力が備わっているのですが、食べ物が沢山手に入る場合にはかえってマイナスの働きになります。

食事の在り方が、社会生活の変化に伴って急速に変わってきています。単身世帯が増えてきたこと(若い人も高齢者も)や働き方が様々に変化してきたことで、中食(買ってきたものを自宅で食べる)が増えてきているように思います。少し前までのおしゃれな食事を楽しみましょうという状況が変わりつつあるような気がします。

健康や栄養に関する情報は溢れています。その気になれば栄養学を学んだことがなくても色々な知識を得ることができます。行政も躍起になって健康診断を受けるように促しています。

しかし本当のところ健康診断で見つかった項目を解決するために、すぐに行動に移す人はまだまだ少ないようです。たとえデータが悪くて引っかかってしまっても、1ヶ月もすれば日常の忙しさに忘れてしまいます。その証拠に2008年から40歳~74歳を対象に「特定健診」が実施されてからも糖尿病や脂質異常症は一向に減りそうにありません。分かっていてもそれを日常の生活に落とし込むというのは難しいことなのでしょうか?

分かっていても(知っていても)それを行動に移さなければ、知らないのと同じなのです。欲望を抑えて意識しながら生活をするのは大変なことかもしれません。

まず、少し体重を減らしてみましょう。

そうすることで、あなたの体にはたくさんのメリットがあります。食事を制限すると思うとしんどいし、嫌なイメージですが、現在の食生活をちょっと振り返って、何となく習慣になっていたことをひとつづつ見直してみませんか?

肥満についていろいろ書いてきましたが、肥満はいろいろな病気を引き起こす元です。

次回はあなたの食習慣を見直してみることで、太る原因を探してみましょう。

※BMIとは

BMIとは、体重(kg)÷身長(m)の2乗で算出される値のことです。
肥満度を表す指標として国際的に用いられている体格指数で、計算方法は世界共通ですが、肥満の判定基準は国によって異なります。WHOの基準では30以上が肥満とされています。
日本肥満学会の定めた基準では、
18.5未満が「低体重」、18.5~25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」です。
肥満はその度合いによってさらに「肥満1」から「肥満4」に分類されています。
BMIが22の体重が標準体重で、最も病気になりにくい状態であるとされています。
25を超えると脂質異常症や糖尿病、高血圧などの生活習慣病のリスクが2倍以上になり、30を超えると高度な肥満としてより積極的な減量治療を要するものとされています。

コラムニスト

管理栄養士  伊藤 教子 

長年、管理栄養士として病院の給食管理・栄養管理に従事後、現在、内科糖尿病専門医院にて糖尿病を中心とする生活習慣病、高齢者の低栄養等の栄養食事指導をしています。
ライフワークとして「あなたの体は、あなたの食べたものでできている」ということを意識した「食」の啓発活動を行なっています。

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