冬になると流行しやすい感染症の一つがインフルエンザです。インフルエンザと思われる症状が出たとき、市販薬で対処してもよいのか、それとも病院に行くべきか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
結論からいうと、症状の程度や重症化リスクの有無によっては市販薬でも対処できます。
しかし、インフルエンザの場合は使用できる市販薬に限りがあることに注意が必要です。今回は、インフルエンザに使える市販薬の種類や病院を受診する基準などについて詳しく解説します。
咳、鼻水、頭痛など、インフルエンザで見られる症状は風邪でも表れます。「どちらも同じでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、風邪とインフルエンザには大きな違いがあります。
風邪の原因となるウイルスは以下の表のようにさまざまです。38度以上の高熱が出ることはあまりなく、症状は比較的ゆっくりと進行します。
原因ウイルス | ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルスなど |
---|---|
症状 | 咳、鼻水、頭痛、のどの痛み、発熱、くしゃみなど |
症状の現れ方 | ゆっくり現われる |
インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することで発症する感染症です。38~40度と高熱が出ることが多く、寒気や倦怠感、関節痛などの症状も表れます。急激に症状が進み、風邪よりも症状が重く出やすいことが特徴です。
また、まれにインフルエンザ脳症や肺炎などの合併症を起こすこともあります。
原因ウイルス | インフルエンザウイルス |
---|---|
症状 | 咳、鼻水、頭痛、のどの痛み、発熱(28~40度)、寒気、倦怠感、関節痛など |
症状の現れ方 | 急激に現われる |
「病院に行くのがつらいから自宅の市販薬でなんとかしたい」と考える方もいるでしょう。高熱が出た場合は、病院に行くだけでもかなり大変です。
全員に市販薬の使用が推奨されるわけではありませんが、インフルエンザに感染したときに使える市販薬はあります。ただし、種類は多くありません。
アセトアミノフェンは、小さな子どもからでも使える解熱鎮痛薬です。インフルエンザが疑われる場合は、基本的にアセトアミノフェンを使用してください。アセトアミノフェン以外の成分が使われている解熱鎮痛薬を服用すると、インフルエンザ脳症のリスクが高まってしまいます。
市販の解熱鎮痛薬は複数の成分を組み合わせて配合しているものも多いので、必ずアセトアミノフェンのみが配合されているものを選ぶようにしてください。
麻黄湯は、インフルエンザの症状を緩和するのによく用いられる漢方薬です。熱が出ているのに寒気がするときに有効で、体を温めることで発汗を促し、熱を下げてくれます。また、免疫機能を高める働きがあるともいわれているので、早く症状を治したいときにも役立つでしょう。
ただし、麻黄湯に含まれる成分が妊婦さんや心臓の働きが落ちている方には合わないこともあるので注意してください。また、麻黄湯は発汗を促す働きがあるため、水分をあまり摂れていない方にもおすすめできません。
アセトアミノフェンと麻黄湯以外の市販薬は、インフルエンザのときにはできるだけ使用しないようにしてください。
解熱鎮痛薬には、アセトアミノフェン以外にロキソプロフェンやイブプロフェン、アスピリンなどいくつか種類があります。アセトアミノフェン以外の成分は、インフルエンザ脳症のリスクを上げる可能性があるため、使用しないようにしてください。
インフルエンザ脳症とは、インフルエンザに感染することで起こる脳症のことです。大人ならイブプロフェンやロキソプロフェンならインフルエンザ脳症になるリスクは低いといわれています。
しかし、可能性がゼロとはいえないため、アセトアミノフェンが主成分のものを選ぶのが無難です。アスピリンに関しては大人も子どもも使えないので注意してください。
子ども | 大人 | |
---|---|---|
アセトアミノフェン | 〇 | 〇 |
ロキソプロフェン | × | △ |
イブプロフェン | × | △ |
アスピリン | × | × |
市販の総合風邪薬は、驚くほどたくさんの成分が配合されています。インフルエンザ脳症のリスクを上げる解熱鎮痛薬が配合されていることも多いため、総合風邪薬の使用は控えるようにしてください。また、総合風邪薬にインフルエンザの治療を早める効果はありません。症状を一時的に抑えるものに過ぎないため、「飲めば早く治る」と安易な気持ちで手に取るのは止めましょう。
インフルエンザが疑われる場合、必ずしも病院を受診する必要はありません。ただし、すべての方が市販薬で対応できるわけでもないため、上手な棲み分けが必要です。
以下に該当する方は、インフルエンザが疑われる場合はできるだけ病院を受診するようにしてください。
このような方は、インフルエンザを発症すると重症化するリスクがあります。健康な方であれば通常は1週間ほどで回復しますが、重症化リスクのある方では肺炎やインフルエンザ脳症などを起こしやすいため注意が必要です。
上記の重症化リスクをもたず、健康で若い方なら病院を受診しなくても自然に寛解するケースがほとんどでしょう。水分をしっかり摂れており、日常生活が困難になるほどの症状が出ていなければアセトアミノフェンを服用してゆっくり休むのも一つの方法です。
とはいえ、仕事や学校を休むためにはインフルエンザだと診断される必要がある方も多いかと思います。状況に応じて受診するかどうかを判断してください。
インフルエンザの治療薬として使われているタミフルやリレンザなどは、発症から48時間以内に服用しないとウイルスの増殖を抑える効果が十分に発揮されません。しかし発症してからすぐに病院を受診しても体内のウイルス量が十分ではなく陽性にならないこともあります。
発症して6時間以上経つと検査を正確に行いやすくなりますので、遅すぎず早すぎずちょうどよいタイミングでの受診を心がけましょう。
以下のような症状がある方は、重症化リスクの有無にかかわらず、早めに受診するようにしてください。
では、最後にインフルエンザに対してよく聞かれる質問にお答えします。
卵アレルギーの方がインフルエンザワクチンを打っても問題ありません。インフルエンザワクチンは製造過程で卵が使われているため、以前はアレルギーがある方は打たないようにといわれていました。しかし、近年ではとくに問題ないことがわかっています。
インフルエンザワクチンには、重症化を予防する効果があります。65歳以上の高齢者を対象に行った国内の研究では、発症を34~55%予防し、死亡を82%阻止する効果が確認されました。
タミフルは市販では購入できません。医師の処方箋が必要です。
ロキソニン(ロキソプロフェン)を飲んだ後もとくに体調の悪化が見られないようでしたら気にする必要はありません。意識障害やけいれん、異常行動などが見られる場合はインフルエンザ脳症を発症している可能性があるので、すぐに医療機関を受診してください。
アセトアミノフェン以外の解熱鎮痛薬は避けてください。インフルエンザ脳症のリスクが高まるといわれています。病院では医師の判断によりロキソプロフェンやイブプロフェンが処方されることもありますが、市販で購入する際は念のため避けましょう。
インフルエンザは、市販薬でも対処できます。解熱鎮痛薬のアセトアミノフェンや、発汗を促して熱を下げる麻黄湯が代表的な選択肢です。健康で重症化リスクがない方であれば、インフルエンザが疑われるからといって必ずしも病院を受診する必要はありません。
ただし、タミフルやリレンザなどウイルスの増殖を抑える薬は病院で処方してもらわなければ手に入らない薬です。タミフルやリレンザを服用すると症状が表れる期間が1日ほど短縮できます。体調に応じて、市販薬で対応するか病院を受診するか判断しましょう。重症化リスクがある方は、できるだけ受診するようにしてください。
薬剤師としてドラッグストアで働いていくなかで「このままではいけない」と日に日に強く思うようになっていきました。なぜなら「市販薬を正しく選べている方があまりに少なすぎる」と感じたからです。
「本当はもっと適した薬があるのに…」
「合う薬を選べれば、症状はきっと楽になるはずなのに…」
こんなことを思わずにはいられないくらい、CMやパッケージの印象だけで薬を選ばれている方がほとんどでした。
市販薬を買いに来られる方のなかには「病院に行くのが気まずいから市販薬で済ませたい」と思われている方もいるでしょう。かつての私もそうでした。親にも誰にも知られたくないから市販薬に頼る。でもどれを買ったらいいかわからない。
そんな方たちの助けになりたいと思い、WEBで情報を発信するようになりました。この症状にはどの市販薬がいいのか、どんな症状があったら病院に行くべきなのか、記事を通して少しでも参考にしていただけたら幸いです。
「自律神経のバランスが乱れている気がする」「なんとなく体調が優れない」とお悩みではありませんか?
とくに原因がないのに体調不良が続く場合は、自律神経に原因があるかもしれません。 自律神経を整える薬は、市販薬にもあります。今回は、自律神経に効く市販薬につ...続きを読む
気温が高い時期がやってくると気になるのが蚊やハエなどの虫。虫除けスプレーやシートを購入する際に「効果はどれが高いの?」「子供に使えるのはどれ?」と気になることも...続きを読む
過敏性腸症候群は、日本人の約10人に1人が抱えている病気です。
悪いものを食べたわけでもないのに下痢が続いたり、逆に便秘になってしまったりと症状は人それぞれ異なります。 これまでは医療機関での治療が中心でしたが、最近で...続きを読む
ビラノア(ビラスチン)は、2016年に薬価収載された比較的新しい抗ヒスタミン薬です。
1日1回の服用で効果が持続し、眠気も出にくく使いやすいことから「市販でも買えないのかな?」と気になっている方もいるのではないでしょうか。 今回は、ビラノア...続きを読む