性交渉の際に重要となる生理現象、それは勃起不全(ED:Erectile Dysfunction)です。
EDの原因には加齢・生活習慣・心理的背景など様々な問題が存在し、複雑に関係することで起こる病気です。一方で相談・治療の恥ずかしさから一人で悩み、個人的に薬品やサプリメントを購入して使用している方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、以下のことを紹介します。
いわゆる「下ネタ」として扱われることも多いEDですが、EDはほかの病気との関連も指摘されており健康のバロメーターとして役立つ可能性も。記事を通じて、EDについて学びましょう。
勃起不全(ED:Erectile Dysfunction)とは『満足のいく性行為を行うための十分な勃起が得られず、それを維持できない状態が続くこと』と定義されます[1]。EDに関する国際会議では十分な勃起が得られない状態が少なくとも3カ月持続することを診断の条件としているため、3か月以上症状が続く場合は医師に相談しても良いでしょう[2]。ただし、けがや手術などによってEDが起こった場合は3ヶ月の待ち時間は短縮可能です。
ペニスには尿道の両脇に陰茎海綿体と呼ばれるスポンジのような組織が存在し、勃起に重要な働きをします。まず性的刺激を受けると副交感神経を通じて刺激が陰茎に伝わり、一酸化窒素(NO)が放出されます。NOは海綿体につながる血管を広げ、平滑筋も緩むことで海綿体に血液が流入。流れ込んだ血液が海綿体を満たし、ペニスが勃起します。
一般的にEDになる人の割合、つまり有病率は年齢とともに増えていきます。ボストンで行われた40歳から70歳の男性を対象とした調査ではEDの有病率は52%だったと報告されました[3]。またケルンで行われた30歳から80歳の男性を対象とした調査ではEDの有病率は19.2%で、年齢とともに2.3%から53.4%に増加したそうです[4]。世界の成人男性の5%から20%が中等度から完全なEDであると報告する論文もあり、EDは誰にでも起こりうる病気といえるでしょう[5]。
EDの原因は「器質性」「心因性」「混合性」の3つに大きく分類されます[6]。ただし、EDの原因の多くは器質性・心因性・混合性の3つが混ざりあって関係しているほか、明らかな原因が見つからない場合の多くが「心因性」と診断されている可能性もあるため注意が必要です。
器質性EDとはペニスそのもの、神経、組織、血管などの問題によって勃起が障害される状態です。器質性EDは、早朝勃起(朝勃ち)や自慰行為による勃起が困難なケースも。器質的EDはケガや手術など直接のダメージによって起こるほか、年齢、肥満、喫煙、糖尿病、慢性腎臓病、排尿障害なども原因となって起こります。
心因性EDとは、精神的・心理的な原因によって引き起こされるEDです。早朝勃起や自慰行為では勃起することがあっても、パートナーとの性行為では勃起しないケースも珍しくありません。心因性EDには様々な原因が考えられますが、ストレス、パートナーとの関係、精神疾患などが挙げられます。
器質性・心因性がまざりあったものです。飲んでいる薬によっては、副作用や薬の相互作用などによってEDは起こります。まずはかかりつけの先生に相談していただいたり、専門の医師に相談する際は飲んでいる薬のリストを用意していただいたりする必要があるでしょう。
EDは問診、身体検査、臨床検査などの基本的な診察によって大部分の原因を見つけることができるとも言われています。EDの治療にあたっては患者さんの評価が重要と言えるでしょう。
まずは国際勃起機能スコア(IIEF)や男性用性健康調査票(SHIM)などの記入式の点数表を用いて、客観的な現状評価をおこなうことが必要です。治療を始めた後に点数票を見なおすことで、自分の症状が改善した点を確認することもできます。[7][8]。問診の際に記入を求められた際には感じたままに点数をつけてください。
問診では、過去と現在の性生活、現在の心理状態、EDの出現と経過、治療歴などについてうかがいます。
プライベートな空間でじっくりと症状を聞くことが必要ですが、クリニックによってはそのような時間的・空間的余裕がない場合も。可能であれば事前にクリニックに問い合わせるか、ホームページで確認することをおすすめします。
また、EDの診察・治療にはパートナーとの関係も重要です。
パートナーの方を通じて患者さんが気づいていない問題点について知ることができるほか、診断や治療法の説明もお二人におこなった方がスムーズになります。性交渉はパートナーあって成り立つもの。お一人で悩んでいるだけではなく、パートナーの方とともに受診した方がより良い結果が得られるでしょう。
そのほか、身長・体重の計測や陰部の診察、必要に応じて採血をおこないEDに影響する項目を評価します。ペニスの大きさや精巣の大きさ、陰毛の生え方などを確認し、ホルモン分泌の異常が疑われた場合はテストステロンを中心としたホルモン値の測定が必要です。
必要に応じて、以下のような特殊な検査を行うこともあります。
特殊な検査を行うかどうかは、主治医の判断にしたがってください。
治療としてはシルデナフィル(商品名:バイアグラ)などのPDE5 阻害薬が良く知られていますが、生活習慣の改善やEDのリスクになる原因を取り除くことも重要です[9]。
EDのリスクとなる要因はさまざまで、以下のようなものがあります。
加齢、喫煙、高血圧、糖尿病、肥満・運動不足、うつ病、慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群などはEDの危険因子ですが、これらはすべて循環器疾患の危険因子です。EDの存在は心臓や血管の病気が存在することを疑わせるほか、EDは心血管疾患の前兆と考えられており、性的に活発であることが寿命を延ばすとの意見も[13]。喫煙、高血圧、糖尿病といった心血管疾患のリスク対策をすることはEDにとっても有効だと言えるでしょう。
EDの薬と言えばバイアグラ、一般の方もご存じではないでしょうか。1998年に発売されたPDE5阻害剤、シルデナフィル(商品名:バイアグラ)はED治療に革命を起こしました。その後、タダラフィル(商品名:シアリス)、バルデナフィル(商品名:レビトラ)が発売され、現在では3つの薬のジェネリック医薬品も登場しています[10][11][12]。
3つのED治療薬には効果や副作用に多少の違いがあります。例えばシルデナフィルはフィルム剤が存在し簡単に内服できること、バルデナフィルには即効性があり性行為直前でも効果が期待できること、タダラフィルは持続時間が長いこと、といった点が特徴です。治療薬を決める際は、内服する方の状況にあわせて処方してもらいましょう。
PDE5阻害剤は血管を拡張することにより勃起を促進しますが、不整脈を誘発する可能性があるほか血圧を下げる薬などリスクのある患者さんには慎重に投与する必要がある薬剤です。また、いずれの薬剤も心臓の血管を広げる硝酸薬を飲んでいる方には使用できません。PDE5阻害薬を使用する際には日常の運動の強度や頻度を検討し、患者さんがどの程度の運動に耐えられるかを判断することも重要でしょう。
購入の簡便さや受診の恥ずかしさからインターネット等を通じた個人での購入が多いこともPDE5阻害薬の特徴です。しかしインターネットサイトから入手した PDE5 阻害薬は 50%以上が偽造薬であったとの報告もあり、トラブルが多いことにも注意してください[14]。
ED関連の市場は歴史が古く巨大で、古くから滋養強壮を目的とした様々な商品が販売されてきました。特にバイアグラの発売以降、インターネットの普及とともに「オンライン薬局」が世界中で大盛況となっています。しかし、EDの原因や治療法は内服薬以外にも存在するほか、診察を通じて隠れた健康問題が見つかる可能性も。 みんなが悩む可能性がある病気、ED。医師の診察のもと治療をおこなうことをおすすめします。
医師、泌尿器科専門医、性機能専門医、性感染症専門医、抗加齢専門医、医学博士。都内での初期研修・後期研修ののち、大学・基幹病院での臨床・研究に従事。国内外の論文(エビデンス)をもとにした一般向けのわかりやすい医療記事の執筆が得意。趣味が高じてファイナンシャルプランナー2級・福祉住環境コーディネーター3級を取得。
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