ED(勃起不全:Erectile Dysfunction)の原因には加齢・生活習慣・心理的背景など様々な問題が存在し、複雑に関係することで起こる病気です。
一方で、相談・治療の恥ずかしさから個人的に薬品やサプリメントを購入して使用している方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。また薬を飲むほどではないものの少し元気がなくなってきた、何かできることはないかとお考えの方もいるはずです。
今回の記事では以下のことを紹介します。
健康のバロメーターと呼ばれることもある病気、ED。自宅で試すことのできる対策について紹介します。
アメリカ泌尿器科学会(American Urological Association:AUA)によると、EDは「満足な性行為をおこなうのに十分な勃起が得られない、または維持できない状態が持続または再発すること」とされています[1]。
性的刺激を受けると副交感神経を通じて刺激がペニスに伝わり、一酸化窒素(NO)が放出されます。NOは海綿体につながる血管を広げ、平滑筋も緩むことで海綿体に血液が流入。血液は海綿体に圧力をかけてペニスを膨張させ勃起が起こります。逆に、勃起にかかわる仕組みのどこかに問題が生じるとEDが生じるわけです。
健康な方にEDが生じる理由としては以下のようなものがあげられます。
適切な治療を受けないと命にかかわる病気もあるため、必要に応じて医療機関を受診してください。
では、自宅でも対策できるED対策はなにがあるでしょうか。ED対策の目的は、大きく分けて3つです。
酸化ストレスと血管の炎症は一酸化窒素(NO)の産生を阻害し、勃起不全を含む血管疾患の中心的な要因です。動脈硬化の対策をしたり抗酸化力を上げて酸化ストレスを下げるような努力をしたりすることで、EDの改善が期待できます[2]。また一般的には年齢とともにテストステロン(男性ホルモン)は低下し、LOH症候群とよばれる男性更年期症状の一つとしてEDを起こすことも[3]。LOH症候群のようにテストステロンの低下をともなったEDにはテストステロンの補充は有効です。テストステロンを維持するような生活習慣を心がけることは、ED対策に一定のメリットがあると言えるでしょう[4]。
EDを改善させる可能性があると報告されている生活習慣は以下の通りです。
精の付くものとして古来からさまざまなものが食べられてきましたが、真偽が定かでないものも多く存在します。EDに悩む方が元気が出るようであればどのような食品であっても良いと思いますが、一定の証拠(エビデンス)があるものとしては地中海食が有名です。地中海食とは地中海沿岸の国々で食べられている伝統的な食事を指し、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が少なく、オリーブ油、魚介類、鶏肉、全粒穀物、豆類、脱脂粉乳、果物、野菜などの摂取量が多い食事です。心不全の方を対象にした研究では、地中海食を心がけていた男性はテストステロン値が高く、動脈硬化も進行しておらず、EDの重症度が低い可能性が示されました[5]。地中海食は心臓病・糖尿病・高血圧・高脂血症などと言った病気予防にも効果があるとされるため、生活習慣病の予防の面からもおすすめです。
太っている方がダイエットをすることは、ED対策に有効です。カロリー制限だけではなく、有酸素運動を併用した運動によるダイエットは勃起機能が改善することが示されています[6]。またPDE5阻害薬などのED治療薬を用いる場合でも、有酸素運動を取り入れることはさらなる勃起機能の改善に効果があると示されました[7]。運動によってテストステロン値が上がるとも言われているため、運動をすることはペニスにとってさまざまなメリットがあるでしょう[8]。無理のない範囲で、生活の中に運動を取り入れてください。
タバコは海綿体に流れ込む血管の流れを弱めて勃起力を低下させます。また副交感神経を抑える可能性やペニスの筋肉の減少などについても指摘されているため、ペニスのことを考えると禁煙しましょう[9]。紙タバコはやめたからと思っている方、電子タバコについてもEDとの関連は指摘されているため注意してください[10]。また、タバコはEDは全死亡および心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心不全などの要因による死亡を予測するとも報告されています[11]。性行為には早歩きを続けるのと同じ程度の負荷が心臓にかかると考えられており、心臓のことを考えても禁煙は重要です。
EDには睡眠の質も重要で、睡眠時無呼吸症候群の存在はEDと関連があると言われています[12]。睡眠中に酸素吸入(continuous positive airway pressure:CPAP)を用いた研究では約3割の方でEDが改善しており、睡眠中のいびきが気になる方は医師に相談してください。また、新型コロナウイルスの蔓延に関連した睡眠障害もEDに関連するとの報告も[13]。パンデミックが早く終息することは、EDにとっても望ましい可能性があるでしょう。
EDの原因は「器質性」「心因性」「混合性」の3つに大きく分類されますが、多くの場合では原因が混在しているため注意が必要です[14]。心因性EDは心因性要因、パートナーとの関係、ストレスなどさまざまな原因から起こります。EDの原因が心因性である場合、カウンセリングを含めたさまざまな治療や性教育、マスターベーションの訓練などがおこなわれます[15]。ご自身で対処できない心理的要因は専門家に相談してください。
シルデナフィル(バイアグラ)の登場以降ED治療は大きく変わりましたが、EDに効果がある食品やサプリメントは昔からさまざまなものが販売されて来ました。医学論文を検索し、一定の効果があったと報告されたものを4つ紹介します。
葉酸、L-アルギニン、L-シトルリン、ビートルートはNOの体内での産生を増やし、ED対策に効果的ではないかと考えられています[16][17][18]。特にアルギニンは複数の論文で有効性が報告されている成分。葉酸の多い食品はレバー、アルギニンの多い食品は大豆、シトルリンの多い商品はスイカが有名です。ビートルートは赤カブのような根菜で日本ではあまり馴染みはありませんが、缶詰などであれば食生活にも取り入れやすいのではないでしょうか。高麗人参、ピグノジェノール、プレロックス、トリビュラス・テレストリスなども抗酸化力などによってEDに対して一定の効果が報告されていますが、いずれもサプリメントや漢方のみで利用可能です[19]。
「どんな人にも効く」物質はいまのところ報告されておらず、飲めば必ず効果があるものではありません。また、特定の物質の摂りすぎによってはかえって有害となるケースもあるため注意してください。また、紹介したもの以外にもEDに効果があると宣伝されている商品は多く存在します。ご自身の好みや費用負担と合わせ、試していただくのも良いでしょう。
シルデナフィルを始めとしたPDE5阻害薬の登場によってED治療は大きく変わりました。ただし、生活習慣の改善などによってもともとの「勃起力」を高めるような努力をすることはご自身の健康対策としても重要と言えるでしょう。継続は力なり、まずは簡単に出来ることから始めてED対策・健康対策をおこなってください。
医師、泌尿器科専門医、性機能専門医、性感染症専門医、抗加齢専門医、医学博士。都内での初期研修・後期研修ののち、大学・基幹病院での臨床・研究に従事。国内外の論文(エビデンス)をもとにした一般向けのわかりやすい医療記事の執筆が得意。趣味が高じてファイナンシャルプランナー2級・福祉住環境コーディネーター3級を取得。
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