円形脱毛症ってどんな病気なんですか?
円形脱毛症 (Alopecia areata: AA)は、主として頭髪に(ひげや鼻毛・わき毛なども抜けることがあります)硬貨大ほどのまるい脱毛を生じ、良くなったり悪くなったりしながら経過する病気で、特に重症な場合は髪の毛全体まで抜け落ちてしまうことがあります。治療が難しく治療の効果がみられるのも遅いため、生命にはかかわらないものの、患者さんの悩みは深く、生活の質に大きな影響を及ぼします1)。
円形脱毛症はご自分の毛包組織に対して自らのリンパ球が障害を与えるという自己免疫性疾患(じこめんえきせいしっかん)の一種であると考えられており、その病態の背景には遺伝子多型とよばれるDNA配列の個体差が関与しているとされています1)。毛包組織の周囲にはリンパ球が集まっている組織像が確認され、これらの細胞からはIFNγやIL-15といったサイトカイン(細胞間の情報伝達のシグナルとなるタンパク)が増加していると報告されています。アトピー性皮膚炎の患者さんは円形脱毛症を合併する傾向が高いとされ、その他に甲状腺機能低下症や膠原病などと関連することが報告されています。遺伝はしませんが家族内の発症は8.4%と高いと報告されています2)。
頭部の円形脱毛症は、脱毛斑の数や範囲から
に分類されます1)。
一般に自覚症状はありませんが脱毛前や活動期に軽い痒みや違和感を覚えることもあります。多発型の場合には脱毛斑の融合や拡大・縮小,再発を繰り返ししばしば慢性に経過します。ダーモスコピー像(拡大鏡検査、とくに円形脱毛症の像はトリコスコピーと呼ばれます)では、活動期には感嘆符毛や漸減毛、黒点などをみとめ、進行期かどうかの指標になります3)。急速に進行している場合では試しに髪の毛を引っ張る検査では広範囲に容易に抜けるのが特徴です(牽引試験;pull test陽性といいます)。
重症度を表す指標として、米国のAA評価ガイドラインでは頭部全体の面積に占める脱毛面積の割合(S)と、頭部以外の脱毛の程度(B)により重症度を決定しています4)。
円形脱毛症の概念として、脱毛症状を自覚してから急速に病変が進行する〝進行期〟と症状がおおよそ半年を越え炎症が落ち着き休止期に近い病態となった〝固定期〟に分けられ、それぞれ病態や治療反応性が異なります。
円形脱毛症の病態は毛包の炎症ですので、毛包病変部に対して免疫の過剰なはたらきをおさえる治療が必要となります。もっとも一般的なのはステロイド剤の外用ですが、治療効果は十分ではないことがあります。ステロイド剤を脱毛部局所に注射する治療は痛みを伴いますが、より有効で早い治療効果が期待できます。また、炎症をおさえたり髪の毛のメラニンを増やしたりする紫外線(ナローバンドUVB)を照射することも有効とされています。近年は紫外線波長のわずかに異なるエキシマ光線がさらに高い有効性を持つと報告されており、とくに症状が固定してからも有効性が期待できます5)。
進行期で脱毛面積が25%を超える場合は全身療法の適応となります2)。ガイドラインでは重症度に応じてステロイドの全身投与の推奨がされています。さらに、重症例にはJAK阻害薬(オルミエント®︎)という先に述べたIFN-γやIL-15といった標的を効果的に抑える分子標的治療薬が2022年6月に適応追加となり、有効な成績を収めています6)。
治療経過に関して、一般に少数の脱毛斑の場合80%の患者さんが1年以内に毛髪が回復するとされていますが再発することは少なくありません1)。経過が長い全頭型や汎発型の場合は一部の症例でかつらの選択もガイドラインで推奨されています1)。
円形脱毛症の症状と治療は経過が長期にわたることが多いため、重症度と進行期をよく見極めてもらい、どの治療が適切か主治医の先生とよくご相談のうえ最適な治療を受けていただくようお願いいたします。
ガイドラインは執筆当時(2023年)のものです。
みなさま、はじめまして。
このたび2023年4月、広島市中区紙屋町に「紙屋町やなせ皮ふ科クリニック」を開業いたしました。
私は広島大学病院や広島総合病院で皮膚科の基礎を研修後、東京虎の門病院に国内留学する機会を頂き、診断学やレーザー、皮膚外科の研鑽を積みました。広島大学病院ではたくさんの重症なやけどや皮膚がん患者の皆様の手術・治療を最前線で行う一方で、大学院では悪性黒色腫など皮膚がんの新規診断法の研究にも従事しました。尾道総合病院、安佐市民病院では地域基幹病院の部長としておよそ10年間勤務し、お子さんからご高齢のかたまで診察し、皮膚のかゆみからアトピー性皮膚炎、乾癬、じんましん、膠原病にいたるまで、特に治療が難しい患者の皆さまを対象に最前線で治療に取り組んで参り、また皮膚がんや皮膚の良性腫瘍をはじめとした手術も数多く執刀いたしました。
開業後は、以下のことをお約束したいと思います。
①常に高い専門性をもち正しい検査と診断のもと、わかりやすいご説明をいたします。
②医師、スタッフともに患者の皆さまに寄り添ったあたたかい診療を心がけます。
③肌の若返りや脱毛、シミ取りなどの美容診療もご希望に応じて対応します。
④さまざまな皮膚のできものの手術にも対応します。
皮膚の治療を通じて、患者の皆さまを明るく元気にしたいと考えています。よろしくお願いいたします!
専門分野
皮膚外科、皮膚悪性腫瘍、乾癬、アトピー性皮膚炎、レーザー治療
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