2024/08/23

近年は、歯周病への関心が極めて高くなっています。それは厚生労働省や歯科医師会が歯周病の危険性を強く発信するようになったからなのでしょう。株式会社Zenyum Japanが行った「新社会人の歯に関する意識調査」でも、歯周病に悩んでいる人は全体の23.6%を占めています。

歯周病は、中高年がかかる病気というイメージが強いため、22~23歳の新社会人がなぜ悩むのか不思議に思われている方もいらっしゃるかもしれません。今回はそんな歯周病の症状や放置するリスク、歯科医院で治す方法などを詳しく解説します。

歯周病は中高年の病気ではない?

はじめに歯周病は、「中高年だけの病気」ではないことを強調しておきましょう。確かに歯周病は、中高年になると急激に発症率や重症化率が高まりますが、実は10~20代でもかかる人が一定数いるのです。

令和4年度に実施された歯科疾患実態調査では、歯周炎と診断される「4mm以上の歯周ポケットを持つ者」の割合は、47.9%に達しています。そして、新社会人も含まれる15~24歳の階級では、17.8%がこの症状に該当していたのです。

ここで注意が必要なのが歯周炎の位置づけです。詳細は後段で詳しく解説しますが、歯周炎はある程度まで進行した歯周病なので、その手前の段階に歯肉炎まで含めると、歯周病を発症している人の割合はかなり高くなることが予想されます。ですから、今回のアンケートで23.6%の人が歯周病に悩まされていると回答した点は、何ら不思議なことではないのです。

ちなみに、45~54歳の階級では43.7%、75歳以降の階級では56%の人が「4mm以上の歯周ポケットを持つ者」に該当しています。しかも75歳以上では、その割合が年々増加していることから、国や歯科医師会もことあるごとに歯周病への注意喚起を行っているのです。

歯周病とは?

歯周病とは、歯茎(歯肉)・歯根膜・歯槽骨といった歯周組織に炎症反応が起こる病気で、P.g菌をはじめとした歯周病菌への感染によって引き起こされます。歯垢や歯石が歯の表面に形成され、そこに細菌が定着して繁殖することで歯周病を発症します。歯周病はサイレントディジーズ(沈黙の病気)とも呼ばれており、自覚症状に乏しいのですが、今回のアンケートで2割強の人が悩みとして回答しているということは、比較的わかりやすい症状が見られたのでしょう。具体的には、歯茎が赤く腫れる、歯茎から出血する、歯がグラグラ動揺するなどです。いずれにしても自覚症状がある場合は、できるだけ早く歯科を受診した方が良いです。

歯周病の種類

歯周病は、歯肉炎と歯周炎の2つに大きく分けられます。

【歯肉炎】

歯肉炎は、進行度の浅い歯周病で、炎症反応が歯茎だけにとどまります。歯茎が赤く腫れ、歯磨きの際に出血する症状は、歯肉炎でも見られますが、早期に歯周病治療を受けることで、歯茎を元の状態に戻すことが可能です。

【歯周炎】

歯肉炎を放置していると、炎症反応が歯茎だけでなく、歯根膜や歯槽骨にまで広がります。この状態を歯周炎といいます。歯周炎でも歯茎の腫れや出血は引き続き認められます。それに加えて歯周組織の破壊が起こるのが歯周炎の特徴です。例えば歯科疾患実態調査では4mm以上の歯周ポケットを調べていますが、これは歯茎が壊されて、歯と歯茎の境目の溝が深くなっていることを意味する症状なのです。

重症化した歯周炎では、歯周ポケットが10mm以上になることも珍しくありません。歯を支えている歯槽骨の破壊が起こると、歯がグラグラ揺れ動くようになります。これは歯周炎の末期症状で、歯を保存できないことの方が多くなります。まとめると、歯周炎では治療をしても元に戻せない“不可逆的”な症状が現れるようになるのです。

歯周病が疑われる症状

上述したように、歯周病は自覚症状に乏しい病気であるため、自分が歯周病にかかっているかどうかよくわからないという方もいらっしゃることでしょう。そんな方は次の項目をチェックしてみてください。ひとつでも当てはまるものがあれば、歯周病が疑われます。

【歯茎の症状】

歯茎が赤く腫れている

歯周病の初期段階では、歯茎が赤く腫れてくることがあります。これは、歯垢や歯石が溜まり、細菌が歯茎を刺激して炎症を引き起こすためです。

歯磨きした時に歯茎から血が出る

歯磨き中やフロスを使った際に歯茎から出血するのは、歯周病の典型的な症状の一つです。炎症が進行すると、出血しやすくなります。

歯茎が下がってきた

歯周病が進行すると、歯茎が下がり、歯根が露出してくることがあります。この状態は歯を支える骨の減少を示唆しています。

歯茎を押すと膿や血が出る

歯茎を軽く押した時に膿や血が出る場合、歯周病が進行している可能性があります。これは歯茎の中で感染が広がっているサインです。

【歯の症状】

歯が伸びたように見える

歯周病が進行すると、歯茎が下がるため、歯が伸びたように見えることがあります。実際には歯根が露出している状態です。

歯と歯の間に食べ物が詰まりやすくなった

歯周病により歯茎が後退すると、歯と歯の間に隙間ができ、食べ物が詰まりやすくなります。これによりさらなる炎症を引き起こすことがあります。

歯が浮いたような感覚がある

歯周病が進行すると、歯がしっかりと支えられなくなり、歯が浮いているような感覚を覚えることがあります。これは骨の減少によるものです。あるいは、歯周組織に膿の塊が生じることでも、歯が浮いたように感じることがあります。

最近、歯並びや噛み合わせが変わったように感じる

歯周病の進行により、歯を支える骨が失われることで、歯並びや噛み合わせが変わって感じることがあります。これも早期に対処すべき兆候です。

硬い食べ物や弾力性の高い食べ物が噛みにくくなった

歯周病の影響で歯が弱くなり、硬い食べ物や弾力性の高い食べ物を噛むのが難しく感じることがあります。これも歯周病の進行を示しています。

歯を舌で押すとグラグラ揺れる

歯周病が進行し、歯を支える骨が減少すると、歯がグラグラと揺れるようになります。これは重度の症状であり、早急な治療が必要です。

【その他の症状】

口臭が強くなってきた

歯周病の初期段階から口臭が強くなることがあります。これは歯周病菌が産生するメチルメルカプタンという揮発性ガスが原因です。メチルメルカプタンは腐った玉ねぎのような臭気を放ちます。

起床時に口の中がネバネバして気持ちが悪い

歯周病が進行すると、朝起きた時に口の中がネバネバして不快に感じることがあります。これは口内の細菌活動が活発なためです。

歯周病を放置するとどうなる?

続いては、歯周病の危険性についての解説です。歯周病はある意味で虫歯よりも怖い病気といえます。なぜなら歯周病を放置して重症化させると、歯を失うだけではなく、全身の病気を誘発するからです。そこでまずは歯周病で歯を失う理由から確認していきましょう。

日本人が歯を失う原因第一位は「歯周病」

口腔の2大疾患は、虫歯と歯周病ですが、一般的な日本人の感覚からすると、虫歯の方が深刻な病気と捉えられがちです。今回の新社会人に対するアンケートでも虫歯で悩んでいる人が29.2%と上位に位置しています。確かに、虫歯は目に見える形で歯が溶けて、崩壊していくので、その分、危機感も強まるのでしょう。けれども実際は歯周病の方がより深刻な病気といえます。なぜなら日本人が歯を失う原因第一位は歯周病で、第二位が虫歯となっているからです。

虫歯は、細菌に感染した歯質を削り、レジンや銀歯、セラミックなどで補うことで完治させることが可能です。しかも自覚しやすい症状が見られることから、治療も早期に受けるケースが多いと言えます。一方、歯周病は虫歯で生じる強い痛みや目に見える形での組織の崩壊が認められないため、自覚および歯科への受診が遅れる傾向にあります。気付いた頃にはもう手遅れで抜歯を余儀なくされるケースも少なくありません。歯周病では、歯を支える組織の破壊が目に見えないところで着実に進んで行く点に注意が必要です。

歯周病で誘発される全身の病気について

歯周病を放置していると、次に挙げる全身の病気を誘発することがあるため、十分な注意が必要です。

動脈硬化

歯周病菌が血流に乗って全身を巡り、血管内壁に炎症を引き起こすことで動脈硬化を誘発することがわかっています。炎症が続くと血管壁が厚くなり、血流が悪化します。これにより、血管が狭くなり、血栓ができやすくなる点にも注意しましょう。

心筋梗塞、脳梗塞

歯周病菌が血流に入り込むと、心臓や脳の血管にも影響を及ぼします。血管内で炎症が起こると、血栓が形成されやすくなり、これが血管を詰まらせる原因となります。結果として、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすリスクが高まります。

糖尿病

歯周病が重症化すると炎症性物質が血管内に放出され、インスリンの働きを阻害します。これにより血糖値が上昇し、糖尿病の症状が悪化する可能性があります。また、糖尿病患者さんは免疫力が低下しているため、歯周病にかかりやすくなり、相互に悪影響を及ぼし合う関係があります。

認知症

歯周病菌やその炎症性物質が脳に到達すると、脳内でアルツハイマー型認知症の原因物質が蓄積しやすくなります。これが認知症の発症や進行を促進する要因となります。

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

歯周病菌が口腔内に多く存在する場合、これが唾液とともに肺に入り込むことで誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。特に高齢者や嚥下機能が低下した患者さんはリスクが高いです。適切な口腔ケアを行うことで、誤嚥性肺炎の予防につながります。

早産・低体重児出産

妊娠中に歯周病を重症化させると、炎症性物質や歯周病菌が血流に乗って胎盤に到達し、子宮収縮を引き起こすことがあります。これにより早産や低体重児出産のリスクが高まります。妊娠中は特に口腔ケアを徹底し、定期的な歯科検診を受けることが重要です。

このように、歯周病は口腔内の健康だけでなく、全身の健康にも大きな影響を与える可能性があります。早期発見と適切な治療が、健康維持のためには不可欠です。気になる症状がある場合は、ぜひ歯科医院で相談してみてください。

歯周病を治す方法

歯周病の症状は、歯科医院での治療で改善することができます。進行した歯周病では、治療が終わるまでにやや長い期間を要しますが、放置すると上段で解説したようなリスクを背負うことになるため、新社会人の方は仕事が忙しくてもできるだけ早く歯科を受診するようにしましょう。そんな歯周病を治す方法は「歯周基本治療」と「歯周外科治療」の2つに大きく分けられます。

【歯周基本治療】

歯周基本治療は、歯周病の初期段階から中等度の進行段階にかけて行われる治療です。まず、患者さんの口腔内の状態を詳細に調べるために、歯周ポケットの測定やX線撮影を行います。次に、スケーリングとルートプレーニングという手法を用いて、歯の表面や歯根の部分に付着した歯垢や歯石を徹底的に除去します。これにより、炎症の原因となる細菌を取り除きます。

さらに、患者さんに対して正しい歯磨き方法やフロスの使い方を指導し、自宅での口腔ケアを強化します。治療は通常、数回に分けて行われ、期間は患者さんの症状や進行度に応じて異なりますが、おおむね数週間から数ヶ月かかることが多いです。治療後は定期的なメンテナンスが重要で、再発を防ぐために3〜6ヶ月ごとの定期検診が推奨されます。

【歯周外科治療】

歯周外科治療は、歯周基本治療だけでは改善が見られない重度の歯周病患者さんに対して行われる治療法です。歯周ポケットが深くなり、歯を支える骨が減少している場合、フラップ手術が行われます。この手術では、歯茎を切開して持ち上げ、直接目視で歯根や骨のスケーリング(歯石除去)を行います。また、骨移植や組織再生誘導法(GTR)を用いて、失われた骨や組織の再生を促進することもあります。

その他、歯周外科治療には歯肉整形手術や歯肉移植術など、審美的な改善を図るための手術も含まれます。治療期間は手術の種類や患者さんの状態によりますが、手術後の回復期間も含めて数ヶ月かかることが一般的です。治療後は、定期的なメンテナンスと口腔ケアの継続が不可欠です。

まとめ

今回は、新社会人の2割強が悩んでいる歯周病について解説しました。歯周病は自覚症状に乏しい病気ではあるものの、軽度の段階でも歯茎の腫れや出血が認められますので、心当たりのある方はできるだけ早く歯科を受診してください。歯周病ではペリオ臭という腐った玉ねぎのような臭いが生じるため、業務上でもさまざまな場面で支障をきたしかねません。そのまま放置していると歯を失うだけでなく、糖尿病や脳梗塞、心筋梗塞といった社会人でよく見られる全身疾患を誘発するリスクも高くなることから、可能な限り早く歯周病治療を開始した方が良いといえます。

コラムニスト

院長  佐々木 博昭 

なないろ歯科クリニック院長の佐々木博昭です。
私自身、子供の頃から歯医者が苦手でした。少し痛がりなところもあり、こうやって歯科に携わることがなければずっと歯医者から足が遠のいていたかもしれません。
そんな私が創りたい歯科医院、それは「私たち自身が受診したい歯科医院」です。歯医者嫌いなあなたに歯医者を好きになってもらうことを真剣に考えています。患者さんの「歯医者=痛い・怖い」というイメージを少しでもなくしていけるように、そして患者さんが少しでも歯科治療を受けやすくなるように無痛治療を日々探究しています。
そして常に患者さんの立場に立ち、分かりやすい説明と、優しく丁寧な診療のご提供に全力を尽くします。
お口の健康や治療について不安に思うこと、またお気づきのことがございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。

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