2024/09/06

自然ゆたかな環境でのびのび子育てしたい…という希望を叶えてくれる地方移住。興味はあるけど、仕事はどうしよう?子どもの進路は?などの疑問や不安について、今回は2名のパパ・ママによる体験談をご紹介します。

子連れ移住のハードルは昔より下がっている

「子連れ移住」というと、過去には電気も水道もない山間部で自給自足の生活…といったイメージを抱く人も多かったかもしれません。

しかし2020年の新型コロナ感染症による外出自粛をきっかけに、多くの企業がテレワークやリモートワークを取り入れるようになった結果「地方移住したいけど、現地で働ける場所がないから無理…」という状況が大きく変わり、転職することなく地方に移住できる可能性がぐっと高まりました。

大都市圏、とくに東京への人口集中はいぜんとして続いているものの、国の実施したアンケート調査では東京在住者の約半数(49.8%)が地方暮らしに「関心がある」と回答しています。

今回、話を聞いたのも、東京からお子さんとともに地方へ移住したご家族のパパ・ママです。なぜ移住を決めたのか、お子さんの成長にどのような影響があったのか、いま移住を考えている人へのアドバイスなどを以下に紹介します。

本格的な受験の前に子どもらしい時間を過ごさせたくて、東京都内から北海道札幌へ

【お話を聞いた方】Hさん(40代・IT系自フリーランス・小学校2年生の女の子のパパ)

東京都内で暮らしていたHさん一家は、お子さんが本格的な進学を迎えるまでは自然の中でのびのびと成長してほしいと考え、期間限定で北海道札幌市に移住したそうです。

――移住を決めた理由を教えてください。

もともと都内に住んでいて、中学生以降の教育の選択肢を考えると、やはり東京で進学させたいと思っていました。ただ、そのメリットが生かせるのは小学校高学年くらいからだと思うんですね。当時、娘はまだ4歳だったので、小さいうちは自然豊かな環境で過ごすメリットの方が大きいと考えたんです。
もう少し成長してたとえば小学校入学後になってしまうと、特に女の子は友達と離れるのが大きな負担になる可能性もあるので、今のうちだと夫婦で合意して移住を決めました。

――なぜ札幌を選んだのですか?

妻が札幌を気に入っていたことが大きいですね。涼しい気候も良かったですし、都会的な生活を送りつつ自然が身近にあることや、様々な地域から人が集まる土地柄で昔からの閉鎖的な文化や慣習が強くない点も移住に向いていると感じました。

――移住の準備はどのくらいの期間で行いましたか?

決断してから実際の引っ越しまで、3〜4ヶ月程度でした。おもにウェブ検索で情報を集めました。移住者のブログやYouTube動画が参考になりましたね。

――休日はどのように過ごしていますか?

カーシェアを利用して、3人で北海道中をドライブで巡っています!東京にいた頃は大がかりな準備が必要だったスキー旅行も、こちらでは気軽に行けるのが良いですね。

――お子さんへの影響はいかがでしたか?

娘は北海道の自然をごく普通のものとして受け入れていて、私や妻が「うわぁ~」と感動するような景色や、街はずれの森に行くとキツネや鹿と出会うことも、娘にとっては日常の風景になっているようです(笑)。

――今後の予定を教えていただけますか?

娘が中学受験を迎える小学4年生か5年生頃には東京に戻ることを考えています。最初からそう決めていて、娘にも伝えています。さいわい札幌の小学校の同級生にも、同じように東京から来ている家族が多く、娘も違和感なく過ごせているようです。

――いま同じように移住を検討している人へ、アドバイスがあれば

うちの場合、街や住まいには全く問題なかったのですが、小学校の学区については十分に調べられず、後で引っ越すことになりました。移住前に学校や学区の情報はしっかり調べておくことをおすすめします。
転勤族が多い地域を選ぶのも良いかもしれません。意外と地元の人よりも、転勤で来ている人の方がおいしい店や観光スポットに詳しかったりするんです。同じように移住してきた人たちと情報交換ができる環境は心強いですよ。

不登校の子と都会から那須へ移住し「この子ってこんなによく笑うんだ!」と実感

【お話を聞いた方】Sさん(30代・自営業・小学校4年生の男の子と女の子の双子のママ)

東京23区内で双子のお子さんを育てていたSさん。双子の1人が不登校になり、その後お子さん自身からの「田舎に住みたい」という希望にこたえて、Sさんの出身地でもある栃木県那須塩原市へと移住を決めたそうです。

――どのような経緯で移住を決められたのですか?

双子の子どもたちが小学校に入学後、息子のほうが学校になじめず、やがて完全に不登校になってしまったんです。息子の気持ちも大切にしたかったので、まずは「無理せず転校してもいいよ、おばあちゃんちの近くに引っ越す方法もあるよ」と選択肢だけを伝えて様子をみました。
1年以上経った頃でしょうか、息子から「田舎で猫と暮らしたい」という言葉が出てきたんです。それで「じゃあ、行こう」という感じで即行動して移住しちゃいました。

――ご家族の反応はいかがでしたか?

夫は東京でお店をやっているので、私と子どもたち3人での移住になりましたが「子どものために一番いい方法なら」という感じで反対はありませんでした。双子の娘には障がいがあり、支援学校には楽しく通っていましたが、この子にもむしろ田舎の方が合っていると感じていました。

――移住の準備はどのように進めましたか?

かなり急発進で決めたので、準備期間は短かったです。まずは子どもたちの学校が最優先と考え、現地の教育委員会に行って子どもたちの状況を説明したら、とても親身になって探してもらえたんです。
物件が少なく最初は実家に身を寄せましたが、ようやく賃貸の一戸建てが見つかり、子どもたちと3人で新生活をスタートさせました。

――移住後、お子さんたちにどんな変化がありましたか?

子どもたちがすごく楽しそうなのが一番嬉しいですね。マンションと違って隣近所への足音を気にすることもなく、窓を開けたら田んぼが見える環境で、子どもたちものびのびとしています。
特に驚いたのは、息子は都内にいた時は遊びの内容もなんとなく大人びていたのですが、こちらに来てからはいかにも子供らしい遊びをするようになり、ゲラゲラ笑っているのを見て「この子、こんなに笑う子だったんだ」と。大人が思っているよりも抑圧された精神状態だったのかもしれません。
でもこちらに来てからはイライラする様子も減り、自発的に家事を手伝ってくれるようになったのも大きな変化です。ある時「僕は今日から毎日料理を手伝う」と言い出して、ほんとうに実行しています。娘も色々と手伝ってくれるようになって、よく3人で並んで台所に立っていますよ。

――お子さんたちの学校生活はいかがですか?

息子は今も時々登校しづらくなることもあります。でも東京とは違って一歩も家から出られないようなことはないですし、学校や先生との距離感も近いおかげか連携も取りやすく良好な関係を作れていると思います。娘も新しい環境にすぐになじんでいます。

――移住して予想外だったことはありますか?

私の生まれ育った土地ということもあって、悪い意味での予想外はあまりないですね。良い意味では、子どもたち、特に娘の食べる量が変わったことです。空気がよく新鮮な食材が食卓に並ぶからでしょうか、ご飯がとても美味しいようで、半年くらいでぐっと身体が成長しました。
また行動範囲が広がったのも予想外でした。都内では子ども2人を連れて遊びに行くのはハードルが高かったのですが、こちらでは大きな公園や山や牧場など、車で気軽に行けるようになりました。

――同じように移住を考えている方へのアドバイスをお願いします。

「学校を変わる」ということをあまり重く捉えすぎないでほしいと思います。私も周囲から「よくできたね」と言われたりもするのですが、大人が仕事を変えるように、子どもの環境を変えるという選択肢をもっと気軽に考えてもいいと思うんです。
移住にあたってお子さんのことで心配なことが多いのであれば、事前に教育委員会に相談に行くのもおすすめです。実際に短期滞在して雰囲気を感じてみるのも良いと思います。
そして意外と知られていませんが、移住に対する補助金制度も各自治体で色々あります。家族全員で移住する場合は数百万円の補助が出ることもあるので、経済的な負担も軽減できるかもしれません。私も楽しみながらいろんな制度を調べて比較検討しましたよ。

おわりに

今回のお2人の話を聞いてみて、状況は人それぞれでも、移住のしやすさや情報の集めやすさといった点は確実に昔よりも増していると感じました。お子さんが移住先でのびのびと過ごしている様子も伝わってきますよね。

移住するタイミングや調べておくべきことなど、いまお子さんを連れての移住を検討している方は、ぜひこの体験談も参考にしてみて下さいね。

コラムニスト

認定子育てアドバイザー/育児教育ライター  高谷みえこ 

私が結婚・出産を経験したのは今から20年前の2000年。当時は今のようにインターネットやSNSが発達しておらず、育児書以外での情報源は雑誌くらいという限られたものでした。

娘たちが小さい頃はいわゆる「ワンオペ育児(核家族で平日は母親が1人で家事や育児を担うこと)」で、娘たちには喘息やアレルギーなどの持病もあり、当時は本当に毎日大変でした。

親にとって、妊娠~出産から赤ちゃんのお世話や成長発達・幼児の「イヤイヤ期」やトイレトレーニング・園や学校でのトラブル・ママ友付き合いまで、育児の悩みや苦労はその時々で大変大きなものだと思います。

しかし、せっかく工夫してその時期を乗り越えても、子どもの成長ステージにつれ受験や教育費など次々と新しい課題が現れ、過去の悩みは記憶の隅に追いやられがち。次の世代に伝えていく機会はなかなか得られません。

まさに今、かつての自分のように悩んでいるママ・パパがいたなら、自分の経験と知識から少しでも役に立ちたい…という思いから、お役立ち情報や先輩たちの体験談をもとにした解決のヒントなどを、WEBメディアでライターとして発信するようになりました。

より的確で悩みに寄り添ったアドバイスができるよう、NPO法人日本子育てアドバイザー協会の「認定子育てアドバイザー」資格も取得。発達心理学や医学・行政支援などに関する幅広い知識を身につけています。

現在は、育児教育ライターとして子育て情報やコラムを年間100本以上連載中。

かつての自分のように子育てで悩むママやパパへ、正しい知識に基づき心がふわっと軽くなるようなあたたかみのある記事をお届けしていきたいと思います。

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