―学校の先生だけでなく、新入生の親にこそ考えて欲しい―
今回はLGBTQと制服問題についてお話しさせていただきます。
入学試験シーズン真っただ中ですね。読者の皆さんの中にはご家族に受験生がいる方も多いと思います。無事合格した暁には、輝かしい新学期が待っています。真新しい制服に身を包みにこやかに通学する学生の姿は、私たち枯れてきている中高年にとってはまぶしいばかりです。
制服といえば、みなさんにも数々の切ない思い出があるのではないでしょうか。
私は今から45年前に広島県立廿日市高等学校に入学しました。当時の廿高(私たち同窓生は廿日市高校を親愛の情を込めてこう呼びます)、男子は詰襟の黒いオーソドックスな制服でした。学ランというものです。
女子は黒いボックス姿のめずらしい制服でした。セーラー服の進化形かもしれません。男子と違って女子は、日本で唯一の斬新なデザインでした。とてもかわいい制服です。大きめの黒いボタンが一つ、首のところで止めてかぶるような制服です。幼稚園児が着るボックスタイプのエプロンを黒にして制服にした感じです。スカートはフレアではなく少し絞った感じのタイトなスカートです。当時、自分のことを「山口百恵」と勘違いした女子達はさらにこのスカートを絞って、「バカにしないでよ」と突っ張っていました。裾をロングにしているのでさらに歩きにくい感じです。みんな、ペンギンのように歩いていました。靴はリーガルもどきの黒のコインローファー。今思えば、黒いマントのペンギンの行列です。もちろんかばんはペッちゃんこ、何も入っていません。教科書はどこにいったのでしょうか。「ちょっと待って、プレイバック、プレイバック」って感じです。
この制服、とてもかわいらしくて地元の中学生の憧れでした。この制服着たさに、入学を志願する女子中学生がたくさんいました。なかなか伝わりにくいのでスタッフの方に当時の写真を提供してイラストを描いていただきました。
どうですか?可愛いでしょう
先日、取材方々この制服見たさに廿校の正門付近に行ってみました(危ない行為です。皆さんはなさらぬように)。しかし、何ということでしょう。ショックで、咳が出て止まらなくなり、涙が出てきました。
なんと紺のブレザーに替わっていたのです。内心、「こんな制服、廿高じゃない。こんなブレザー、どこでも一緒じゃないか。僕の青春を返せ。」と思ってしまいました。現在の廿高の名誉のために書いておきます。このブレザー姿の制服もとても人気があって、どこも同じではなく独自のデザインを施した「苦心の作」なんだそうです。現在はこのブレザーが地元の中学生の憧れの的なのだそうです。
しかし、お許しください。枯れたオジサン的には45年前のあの黒いマント。リーガルもどきのコインローファーを履いたペンギン姿。キラキラ光り輝く同級生の思い出を捨てられません。この中に淡く切ない初恋の相手もいたのですから。
その女子高生たちも今ではいいオバサンなのですが。(失礼しました)
前置きが長くなりました。
今日のテーマは「制服」です。「LGBTQ」との関係について解説いたします。
人口の約5~7%程度がLGBTなどの性的マイノリティーであると言われています。この数字は決して少なくありません。11人に1人いるという数字です。しかし、一般社会や学校現場においての対応は遅れており、性的マイノリティーの子どもたちは多くの困難に直面しています。なかでも、中学校入学の時期が最初の試練の時となります。皆さんもご存じのように日本全国のどこの中学校でも男女別の制服が採用されています。小学校では私服の学校もたくさんあります。制服を採用している小学校でも男女にあまり差がありません。スカートが半ズボンになるぐらいの差です。しかし、中学校の制服の男女差は明らかなものです。性的マイノリティーの子どもたちにとって自分の意思とは異なる性自認の制服を着用しなければならなくなるのです。不登校の原因となることも多くあります。
今から10年以上も前の時期でさえ、こういった事例がありました。私は当時広島市教育委員会の主任指導主事をしていました。校長からの相談を受けて学校現場に出向いたことが何度もあります。いずれも中学校でしたが、性的マイノリティーと考えられる生まれつきの性でいうと女子の生徒が男子の学ランを着て登校したいと要求している事例の対応をしたことがあります。もちろん逆のケースもあります。生まれつきの性が男子の生徒が女子の制服で登校したいという事例もありました。
いずれの事例も最初は、性自認とは違う制服で登校することに抵抗を示し、他の生徒の目を盗むように遅く学校に行き、個室で勉強をして、他の生徒より早めに下校するということをしていました。そして、自分の生まれつきの性とは違う自己の性自認にあった方の制服を着るという要求をすることになっていったという事例です。今思えば当たり前の要求なのですが。当時、自分も含めて教員も親も理解に苦しんでいました。1年間に同様のケースを何度も経験しました。表に出てこない事例も含めればかなりの数に及ぶものと予想できます。
日本においては性的マイノリティーの子どもたちは中学校入学の際の制服の着用で最初の大きな困難に突き当たることが分かってきました。 そこで、今回は「LGBTとは何か」についてわかりやすく解説して、まずは「制服問題」を検討する中で私たちにとって誰もが住みやすい社会を作るために何が必要かについて考えてみたいと思います。「制服問題」には、その周りには「トイレ問題」「出席簿問題」など多くの問題があることも付け加えておきます。
「LGBT」とよく言いますが、「制服問題」を考えるときは「LGBTQ」と言った方がいいと私は考えています。さらに「LGBTAQ」という方もいます。以下、この言葉の解説をしていきます。
性の多様性についての4つの視点についてまとめておきます。この4つの視点をまず押さえておかないと、「LGBT」の理解はできません。世の中では「LGBT」という言葉は一般的になっていますが、この4つの視点を押さえることなく議論しているので単なる知識を問うクイズ番組のような議論になっているのです。ぜひ、この機会に押さえていただければと思います。
4つとは次のものです。
(1)性自認、(2)性表現、(3)出生時に割り当てられた性別、(4)性的指向。
この4つの要素についてまず説明します。
「LGBTAQ」の中の「L」「G」「B」「A」は、(4)性的指向による多様性による分類に元づく頭文字をとったものです。次に性的指向による多様性について詳しく書きます。
レズビアンの英語表記の頭文字のL、ゲイの頭文字のG、バイセクシュアルのB、アセクシュアルの頭文字のAで表記しているのです。ヘテロセクシュアルは「H」ですが、少数派ではないのでこの議論では出てこないわけです。
「T」「Q」は、性自認による多様性の分類に出てくる「トランスジェンダー」の英語表記の頭文字です。次に性自認の多様性について詳しく書きます。
以上により、「LGBTQ」はレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングということになります。 みなさん、整理できたでしょうか? 国際的にはSOGI(SexualOrientationandGenderIdentity)が注目されていますが、我が国においては、「性表現」について表の議論に出る傾向があるように私は考えています。
トランスジェンダーについてもう少し詳しく解説します。トランスジェンダーは次の2つに分類できます。
ひとつは、「トランス女性」です。これは、出生時に割り当てられた性別は男性で、性自認は女性という人です。「MTF」と表記します。出生時に割り当てられた性別は男性なのですが、性自認が女性であり性表現はいわゆる女性的なものになる可能性があります。したがって、女子の制服を着たいと考えます。 もうひとつは、「トランス男性」です。これは、出生時に割り当てられた性別は女性で、性自認は男性という人です。「FTM」と表記します。性表現はいわゆる男性的なものになる可能性が高く出席簿上は女性でも男子の制服を着たいと考えます。
ちなみにトランスジェンダーの性的指向は様々です。女性を好きになるトランス女性、男性を好きになるトランス男性もいます。これらのケースは、日本の法制度上も見かけ上は結婚が認められると言えます。子どもを持つというのも可能です。しかし、これはあくまでも可能性の話であり、子どもを持つという行為はかなりデリケートな要素があり、まさに心の問題でもあるわけです。今回はこの問題について、議論はしないものとします。
トランスジェンダーの子どもたちは性自認と異なる性別で扱われること、すなわち性自認と異なる性別の服装や性表現を強制されることに強い心理的な負担を抱えます。たとえば、トランス男性は自分のことを「おれ」「ぼく」と言います。今まで述べてきたような科学的認識や知識を持ち合わせていない人は、このことに違和感を覚えます。悪気はないにしても「女の子なのだから、そういう言い方ではなく、わたしと言った方が可愛いよ」なんて声をかけてしまいます。
学校は出生時の書類上の性別の強制が強いと思われます。たとえば、男女別の出席簿、男女別の整列、男女別の座席配置、男女別の下駄箱などです。以前は「技術家庭科」という教科は「技術科」は男子、「家庭科」は女子しか受けられませんでした。「体育科」も男女別での授業が前提です。新学習指導要領では共修となるようです。
したがって、このことが原因でトランスジェンダーの子どもたちは教育を受け続けることに困難をきたして不登校になるということも起こっているのです。 特に学ラン、セーラー服タイプの制服は制服変更のハードルが非常に高いと言えます。単にどちらでも好きな方を着てよいというだけでは配慮は不十分です。中には他の人たちに自分がトランスジェンダーであるということをカミングアウトできない生徒は多くいるはずです。そうなってくると学校に行かないか、いやいや自分の性自認とは異なる方の制服を着るしかないのです。
せめて、ブレザーの制服で、スカートとズボン、リボンとネクタイなどを選択できるようにしておくと、カミングアウトできない生徒や周囲からのサポートが望めない生徒にとっても、制服の校則という制限によるストレスを軽減することができて、教育を受ける権利が守られる可能性が高まると言えます。図を参照してください。
本論の「はじめに」に書いた筆者の思い出にまつわる廿高の制服のエピソードに書きました。「こんな制服、廿高じゃない。こんなブレザー、どこでも一緒じゃないか。僕の青春を返せ」と思ったのは大きな間違いだったのです。
あの頃、今から45年前、トランスジェンダーの同級生たちはつらくて悲しい、暗黒の世界をさまよっていたのです。そのことを何も考えずに「こんな制服、廿高じゃない。こんなブレザー、どこでも一緒じゃないか。僕の青春を返せ」なんて考えた自分を今は恥じています。 学ラン、マントの制服をブレザーの形に変更した廿高の関係者の皆さんの大英断をこの場をお借りして讃えたいと思います。 前の私と同じように昔の制服の方がよかったという声を同窓生から聞きます。しかし、ここで論じたことがわかればかつて廿高で自由と寛容の校風の中で青春を過ごした同窓生はすぐに納得することでしょう。
他の学校もこの「制服問題」は喫緊の課題であることをお伝えして今月のコラムを閉じたいと思います。
私が大学を卒業してすぐに教師となって教壇に立ってから30年が過ぎ、発達障害や特別支援教育について講演をするようになって、10年以上が経ちました。特別支援教育とは、従来知的な遅れや目が不自由な子供たちなどを対象にしてきた障害児教育に加えて、「知的発達に遅れがないものの、学習や行動、社会生活面で困難を抱えている児童生徒」にもきちんと対応していこうと言う教育です。
これは、従来の障害児教育で論議されていた内容をはるかに超えて、発達障害児はもとより発達障害と診断されなくても認知機能に凹凸のある子供の教育についても対象としており、さらに子供だけでなく我々大人も含めたコミュニケーションや感情のコントロールといった、人間が社会で生きていくうえにおいてもっとも重要であり、基礎的な内容を徹底して論議しているからであるととらえています。
そのためには、児童生徒一人ひとりの教育的ニーズを把握して適切な教育的支援を行う必要があります。ここで、単に教育とせず、教育的支援としているのは、障害のある児童生徒については、教育機関が教育を行う際に、教育機関のみならず、福祉、医療、労働などのさまざまな関係機関との連携・協力が必要だからです。また、私への依頼例からもわかるように、現在、小・中学校さらに高等学校において通常の学級に在籍するLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、知的に遅れのない自閉症(高機能自閉症・アスペルガー障害)などの児童生徒に対する指導及び支援は、喫緊の課題となっており、これら児童生徒への支援の方法や指導原理や全ての幼児・児童生徒への指導は、私達大人を含めて全ての人間が学び、関わり合うための基礎といえるコミュニケーション力を考える上で必須の知識であることを色々な場で訴えています。
今までたくさんの子供たちや親、そして同僚の先生方と貴重な出会いをしてきました。また、指導主事として教育行政の立場からもたくさんの校長先生方と学校経営の話をしたり、一般市民の方からのクレームにも対応したりと、色々な視点で学校や社会を見つめてきたつもりです。ここ数年は毎年200回近くの公演を行い、発達障害や特別支援教育について沢山の方々にお話をしてきました。そして、満を持して2014年3月に広島市立特別支援学校を退任し、2014年4月に竹内発達支援コーポレーションを設立致しました。
今後は、講演、教育相談、発達障害者の就労支援、学校・施設・企業へのコンサルテーション、帰国子女支援、発達障害のセミナーなどを行っていく所存です。
今日のコラムは、「家事ハラ」と「性別役割分担」と「子育てプレッシャーにつぶされそうな母親の気持ち」について論じてみたいと思います。
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