原爆で焼け野原になった広島で、戦後の復興と共に街を活気づけてきた看板やネオンサインなどの屋外広告。その事業者を取りまとめる組織として1956年に発足したのが、現在の広島広告美術協同組合の前身となる広島看板工業組合でした。内田賢司さんは父親から、広島の経済振興を支えてきた屋外広告業と共に、組合の仕事も継承。長年に渡り社会と事業者の橋渡しを担ってきました。技術や安全性、景観への配慮など、時代の変化に寄り添ってきた内田さんに、屋外広告が担う地域との関わりについて聞きました。
組合で手掛けた屋外広告や組合の技術が活かされている屋外広告の一例。
「海と島の博覧会」や「第26回全国菓子大博覧会・広島」や自治体を代表する多くのイベントなど
広島広告美術協同組合はどのような活動をしているのですか?
戦後、様々な事業組合が生まれた中でも比較的早い時期の発足で、3社で始めたと聞いています。看板なんて好き勝手に掲げていた時代でしたし、手形取引も多かったので、この事業を社会的信頼のあるものにしたいという先人の熱意が原点だったのではないでしょうか。
広島市の組織である広島広告美術協同組合の上部団体に、広島県、中国地区、そして全国の組織があり、全国で約3,000社が所属しています。これらの上部組織と緊密に連携し、屋外広告業にとって不可欠な各種の講習会の案内や資格・免許の取得についての積極的な指導を行うなど、屋外広告業の社会的・経済的地位の向上を目指して活動しています。また、相互扶助の精神に則って一体となって活動し、各種行事やイベントを通じて組合員相互の親睦を図り、情報交換等で交流を深めると共に、組合員の経営活動を支援する様々な事業も行っています。
広島県の組合では資材販売、共同購入および工事受注や取付の斡旋等をしていることも他の組合とは異なる特徴です。横川にある組合の建物の1階には鉄工所があり、看板製作や共同作業場として組合員の利用も可能にしています。さらに行政からの問合せ窓口となり、組合のネットワークを活かして対応していることも、全国的に珍しい取り組みとなっています。
上部組織である日本屋外広告業団体連合会の全国大会の様子。
2026年6月には広島で開催が予定されており、内田さんは取りまとめを任されている
近年は屋外看板にも景観や安全性への配慮が求められるようになりました
おっしゃる通りです。屋外看板は街の賑わいの創出につながると共に、景観の一部でもあります。京都の景観条例などが広く知られていますが、広島でも平和公園の周辺などには建築物と合わせて広告物にも規制があります。また規制のなかった時代に作られた広告物の中には、現在では同様のものを新たに作ることができないものもあります。そこで求められることが多いケースが、古いものを補修したり、広告面を作り変えたりする作業です。
近年、戦後に造られた建築物や橋、トンネル、道路などの補修の必要性が問題となっていますが、看板にも同様のことが言えます。高所に設置された看板、人や車両の多い場所に設置されている看板には、経年による劣化や適正な設置方法を取っていないことから大きな事故につながる危険性をはらんでいるものもあります。組合では年々変化する条例などの情報を共有すると共に、その遵守と安全性を徹底。また万が一事故で損害を発生させたり、人に怪我を負わせた場合の保険も備えています。近年はコンプライアンスも厳しいですし、台風や地震など大規模災害への備えの必要性も高まっているので、看板の安全性は設置する人の責任と考えて、正確な知識と技術を備えた組合に相談していただきたいと思っています。
組合でも、そうした屋外看板の保守・点検に携わることがありますか?
毎年屋外広告の日(9月10日)に、市の担当職員と組合員が一緒に路上違反広告物除去活動を実施し、路上の違反広告物の減少に取り組んでいます。違反広告物等まとめた資料を市役所に提出するなどの実績も重ねています。また以前国土交通省の依頼で、繁華街などの路上違反広告物調査を行いました。
街を元気づける看板が、街づくりにそぐわないものであったり、安全を損なうものであったりすることは、事業者の社会的責任として回避すべき課題だと考えています。そのために組合にて屋外広告物点検技能講習などを実施し、当組合の専門知識を幅広い自治体や企業、社会団体に活用していただけるように働きかけています。2020年には、中国地方では初となる良好な景観形成と屋外広告物の安全確保のための連携協定を廿日市市と締結しました。
路上違反広告物調査の様子
ドローンを用いた点検なども手掛けると聞きました
新しい技術を活かした取り組みとしては、赤外線搭載ドローンを使った屋外広告物点検事前調査の提案にも力を入れています。
ドローンによる事前調査の活用は、修繕や点検を効率的に行う上での有効な選択肢の一つです。例えば、高所の異常確認も事前にドローンにて行えば、コストや道路使用許可申請を必要とする高所作業車の出動に至らずに済むケースもあり、異常があった場合でも本点検をせずとも効率的な改修を進めることができます。
高所作業車による点検作業(従来工法)
ドローンによる支持部撮影
また、サビは塗装面より熱量を持ちやすく、塗膜劣化箇所は適正な塗膜面より温度が高くなるという点を活かして、ドローンの赤外線調査にて、破損・変形・サビ・歪み等の診断が可能となります。加えて、チョーキング現象・細かなひび割れ・漏電・雨漏り箇所・タイル外壁の浮き等、赤外線を利用することでその他の異常も発見できるという利点があります。
コスト、安全性共に優れた点検技術ですので、今後周知と普及に力を入れていきたいです。
通常撮影
赤外線撮影
通常撮影
赤外線撮影
内田会長がこの世界に入った頃と比べて、屋外広告の技術も変わってきたのでは?
我が社は1960年に父が創業しました。家業を継ぐ気も興味もなかったのですが、諸事情の末、1987年に入社しました。この世界に入って改めて感じたのは、父の偉大さと職人さんたちの技術のすごさです。当時はまだ映画の看板を手描きする職人たちもいて、大きな看板でも2日ほどで描き上げていました。ネオン管を自在に曲げて加工する職人の技術も見事でしたが、今では広島にはいなくなってしまいました。近年は軽いアルミなどのキットの普及で、溶接職人の需要も減ってきています。
そうした廃れゆく技術を継承するために、我々の上部団体で全国組織の日広連(日本屋外広告業団体連合会)では、技能オリンピックなどを設け、カッティングシートを切り抜く技術などを若い世代に伝えています。
LEDやプリンターによって表現の幅が広がったことは、広告に携わる者としてはとても面白いです。しかし一方で、屋外広告に関する知識がない人でも簡単に製作して設置できるようになった側面を生み出しています。利益だけを追求すれば容易なことは多々ありますが、「屋外広告業」として登録した組合の事業者は、法令遵守や安全対策に沿った施工を行う社会的な責任と信頼を担っているため、そうはいきません。「正直者が馬鹿を見るよのう」などと笑い合いながらも確かな仕事に取り組んでいることを、こうした場を通してより多くの人に知っていただきたいと願っています。
最後に、個人的に今後取り組んでみたいことなどがあれば教えてください
次男の妻が鞆の浦の出身だった縁で、古い町並みの良さが残る一方で、空き家のまま手つかずの建物も多く残る現状を目にしました。古い建物には、今では得ることが難しい建材や職人の技術がそのまま残されています。機会があれば、そうした古民家再生などに取り組み、地域の景観や活力の維持に貢献したいと思っています。
㈱共美工芸創業者で組合の発展にも深く関わったお父様の内田義昭様の旭日双光章
国土交通省にて国土交通大臣表彰を受賞(2021年7月12日)
1963年広島生まれ
㈱共美工芸 代表取締役
2018年〜 広島広告美術協同組合 理事長
同年〜 広島県広告美術協同組合連合会 会長
2020年〜 中国広告美術業組合連合会 会長
2017年〜2020年 日本屋外広告業団体連合会 理事
その他、広島広告協会 理事、広島県職業能力開発協会 理事、
広島県中小企業団体中央会 理事、広島市景観審議会 委員などを務める
広島広告美術協同組合:https://kanban.or.jp/
株式会社 共美工芸:https://k-kyobi.co.jp/