「ダイナマイト」の名前で広く知られるゴルフショップを創業し、広島にゴルフ文化を根付かせ広めることに貢献してきた山田一夫さん。ゴルフ黎明期から広島でゴルフショップ経営に関わることになった経緯や事業を通じての信念、会長として一線を退いてなお情熱冷めやらぬ地域やゴルフへの思いを聞きました。
姫路の刑務官の家に生まれました。父は同じ公務員になることを望んでいましたが、縁があってゴルフクラブの製造・販売を手掛ける会社に就職。神戸は1901年に日本初のゴルフ場が生まれた日本のゴルフ発祥の地、姫路には日本で最初にアイアンヘッドを作った会社があり、関西を中心に本格的なゴルフ黎明期を迎えようとしていました。まだ一部の金持ちのスポーツと思われている時代でしたが、力道山や岸信介首相がゴルフをしていることを知って、業界に将来性を感じたのです。
最初は事務で入社後、製造部門でクラブ作りに携わりました。そのうち営業の方が向いていると見込まれて、営業の仕事をするようになりました。
昭和39年(1964年)の東京オリンピックの年に、大阪、福岡、そして広島に支店を出すことになり、私はそのうちの広島を任されました。八丁堀に店があり、その上階が宿舎。25歳の時でした。
その6年後の昭和45年(1970年)の大阪万博の年に独立して、6坪の店を開きました。「自分でやったらどうか」と声をかけてくれたお客様たちとの出会いが、広島で自分の店を始めようと思った大きな理由です。
『人生は出会い』というのが、私が大切にしている言葉の一つです。
『お客様一人ひとりを大切に』ということに尽きます。物を売ろうとせず、まずは喜んでもらうこと。そしてその人に本当に合うものを作り、提案することを心掛けてきました。そうすれば自ずと売上はついてくると信じていました。
創業時は各メーカーの専門店はあっても、いろいろなメーカーの商品を取り扱う百貨店のようなゴルフショップは珍しかったのですが、その後似たような店も増え、全国チェーンも進出してきました。けれどもその信念を変えることなく、今日まで続けてくることができました。とは言っても失敗もたくさんしましたし、本当に一段一段歩んできた感じです。
ゴルフに関する仕事をしていく上では、地域のゴルフを盛り上げることはとても大切。そのために様々な企画や取り組みをしてきましたが、特に長年力を入れてきたことが3つあります。
今のゴルフプレイヤーはシニア層が中心ですが、子どもの頃からゴルフの魅力を知ってもらえれば、さらに長いお付き合いができます。また若いゴルフプレイヤーが増え、活躍すると、地域のゴルフ界が活性化します。そのために昭和47年(1972年)に高陽ゴルフセンターを開設し、ジュニアゴルフ教室を開いて若い世代の育成に力を注いできました。これまで10人以上のプロを輩出しています。「日本アマ」を17歳51日の史上最年少で制覇した金谷拓実プロも、小学生のころからダイナマイトを利用してくれていました。
日本レフティゴルフ協会元終身名誉会長 川上哲治さんから、元カープOBの故山本一義さんを通して相談を受けたことをきっかけに、広島支部の設立・運営、レフティのゴルフコンペの支援に携わってきました。当時は左利き用のクラブも少なかったため、多くのレフティプレイヤーの相談にも応じました。
気軽にゴルフの楽しさに触れる機会を設け、ゴルフを通して地域の交流に貢献したいとの思いで、地域のゴルフ大会をサポート。高陽町民ゴルフ大会は昭和53年(1978年)から続く歴史あるゴルフ大会になりました。
ゴルフは特に景気の影響を受けやすいスポーツです。バブル期にはゴルフ人口も増えましたが、ゴルフの会員権なども今では考えられないくらい高騰しました。その後ゴルフブームは一旦落ち着きましたが、その時期にゴルフに触れた人が定年して時間のゆとりができて、改めて健康づくりとしてゴルフ場に戻ってきたりしています。
クラブやボールの進化も目覚ましいです。昔は、お客さんと一緒に練習場に行って合うクラブを見極めたりしていましたが、機械で計測するフィッティングマシンをいち早く導入し、より正確にその人に合ったクラブを提供できるようになりました。
またクラブも以前は売りっぱなしでしたが、その後の修理やチューンナップ、中古クラブの引取や販売なども手掛けるようになりました。半世紀以上ゴルフに携わっているといろいろありますが、その変化も楽しみながらお客様の求めることに応えていきたいと思います。
常々、70歳を過ぎたらゴルフも人生も楽しくやりたいと考えていました。今80代半ばとなりましたが、そんな自分でも飛ぶクラブを探しながら、同様のシニアゴルファーにも共有し、ゴルフを楽しんでいます。毎日素振りとアプローチ、パターの練習も欠かしません。
この歳になって改めて思うことは、若い頃のように長距離を飛ばすことはできなくても、アプローチやパターの精度を上げることでハイスコアも目指せること。だから、会社でもクラブを購入したお客様に、アプローチやパターのレッスンの機会を提供してフォローする大切さを伝えています。
また18ホール全部を回ることが体力的に負担を感じることもあるので、ハーフだけを回ってその後は温泉に入ったりカラオケを楽しんだりする送迎つきプランも考えています。やっぱりいくつになっても、ゴルフもお客様を喜ばせることを考えるのも楽しいです。