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一般社団法人パルク 代表理事 小田原 かおりさん

不登校に悩む児童に居場所を、保護者に安心を

学校に来ることが難しい子どもが年々増えていること、その子 たちを支える受け皿が不十分なことに心を痛め、教員を辞して「不登校支援センターパルク」を立ち上げた小田原かおりさん。モデルケースのない取り組みとその思いを聞きました。

不登校への支援を思い立ったきっかけは?

大学を卒業してから36年間、教育に携わってきました。そのうち最後の9年間は小学校の校長を務めました。教員をしながら気にかかっていたのは、年々学校に行きづらくなる子どもが増え、また低年齢化していること。2023年度の最新の調査では、小学校で50人に1人、中学校で16人に1人の割合にまで高まっています。しかも、これは都会に限った問題ではなく地方でも高い傾向が見られ、現代の日本社会全体の問題と言えるでしょう。

コロナ禍でさらに加速する傾向に現場で直面して、居ても立っても居られなくなったというのが活動を始めたきっかけです。教員という立場ではできることが限られていたことと、自分の心身に余力があるうちにと考えたことから、定年まで2年を残して退職しました。

「令和4年度の広島県における生徒指導上の諸課題の現状について:広島県」より
「令和4年度の広島県における生徒指導上の諸課題の現状について:広島県」より。平成30年からの広島県における不登校児童生徒数の推移。グラフの変化からコロナ禍でさらに加速している傾向が見て取れる。

パルクはどんな思いで立ち上げた施設ですか?

学校に行くことが難しくなった児童の居場所です。以前は、不登校児童が学校に通えるように働きかける動きが強かったのですが、最近は無理に行かせず、その子の個性やペースを尊重するという考え方に推移しつつあります。

一方で共働きの家庭も増えているので、子どもを一人で家に置いておくことが難しく、仕事を続けられないなどの保護者の負担も増え、家庭全体で疲弊していくケースも多く見られます。

そうした受け皿の一つ、「フリースクール」は子どもの心身や金銭的な負担が大きいという家庭もあります。また「放課後デイサービス」の利用には、医師など専門家の意見書が必要となります。そこの壁もやや大きくて、通所受給者証を得るために、明らかに何らかの障害の傾向が見られるとは言えない子どもに医療機関を受診させることや、診断が下されることに違和感を覚えていました。

そこで、もっと気軽に「よかったら、ここに居てもいいよ」と声をかけられる居場所をつくろうと考えました。

パルクはフランス語で「公園」。誰でも自由に出入りできて、緑の下で太陽の光を浴びて遊んで元気になれる公園のような場所にしたいとの願いを込めて命名
ロゴは小田原さんの友人がデザイン。閉じていない円の中に、色も形も様々な星を描いたのは、閉ざさない場所でそれぞれの個性がキラリと輝くイメージ

前例のない事業にどのように取り組まれたのですか?

まずは専門知識と資格が必要だと考えて、公認心理師の国家資格を取りました。資格を取得するためには講習を受けに行く必要があり、在職中は難しいと考えていましたが、ちょうどコロナでオンラインでも受講できる特別措置期間があり、休日を利用して受講して取得することができたんです。

それから場所探しとカリキュラム作り。なにぶん前例のない事業で補助金も得られず、資金は持ち出しして手探りで始めました。3人の子どもたちは全員独立したタイミングで、家族が「母さんらしい」と応援してくれたことが何より心強かったですね。

周囲にこうした場所の必要性を伝えているうちに、共感して手伝ってくれたり、応援してくれる人とも出会えました。場所は教会の一角を貸していただいて始めましたが、やがて利用者が増えて手狭になり、今の場所に移りました。

段原のビルの1階を間借りして開設しているパルク
フロア内に教室と事務所を併設

子どもたちはパルクでどんなふうに過ごしますか?

1年から6年まで学年もバラバラですが、学習の遅れをカバーすることも目的で、主に1、2時間目はそれぞれのペースでプリントやワークを使って学習します。家の中だけで過ごしていると人とのコミュニケーションが不足しがちなので、3時間目はグループで言葉遊びをしたり、読み聞かせをして感想を言い合ったり。体験不足を補うため、4時間目には焼きそばやホットケーキなど簡単な調理をして一緒に食べます。また地域の企業の協力で工場見学などに行ったりすることも。お好み焼店の八昌の方がお好み焼き教室をしてくださるなど、外部の人たちにはたくさん出入りしていただきます。学校や家だけでない社会を知り、人と触れ合うことで、内に向きがちだった視点を外に向ける一助にしたいと考えています。

パルクは、来ることも来ないことも自由で、いつまでも居ていい居場所。だから学校に戻れるように、こちらから働きかけることはありません。子どもにもよりますが、一定期間をここで安心して過ごしていると、不思議なことに突然「学校に行こうかな」と言い出すことがあります。念のために籍は残したまま学校に行ってみてもらって、問題がなさそうでもその後一年はフォローアップ会員としていつでも戻って来られるシステムにしています。

けれども、自分から「学校に行こうかな」と言い出した子は、ほぼ戻ってくることがありません。この4月は12人いた子どものうち、半数が学校に通い始めましたが、約2ヶ月が過ぎた現在もみんな問題なく学校に通えているようです。

それぞれの子が持つ成長する力に改めて感動しながら、安心できる居場所と見守る時間の大切さを実感しています。

ある週のカリキュラム
パルクの本棚
近くにある現代美術館や比治山公園、まんが図書館に出かけることも

不登校で悩んでいる人にもそうでない人にも知ってほしいことは?

不登校は特別なことでなく、どこの家庭にも起こり得ることです。近年は情報があふれている上に間違いを許さない社会になってきています。そんな中で、保護者も子育てに対して「失敗したくない」「こうあるべき」という思いに囚われがち、子どもも「間違えたらダメだ」「失敗したって言えない」という殻に籠りがち。常に過緊張状態を強いられ、真面目で気遣いができる親子ほどストレスを溜める傾向が見られます。

私たちがパルクという居場所の提供以上に大事にしている活動は、不登校という悩みについて誰にも言えない、あるいは誰に相談していいかわからないという親子との面談。一口に「不登校」と言っても、その背景や状況は様々なので、必ずお会いして話を聞きます。

パルクについてもお伝えして見てもらった上で、保護者と子どもの双方が「行かせたい」「行ってみたい」と思ってもらえる場合のみ、利用のご案内をします。「話を聞いてもらえただけでも楽になった」という方も多くいらっしゃいます。

お伝えしたいのは「自分のままでいいんですよ」ということ。全員に好かれる必要はないし、他人の評価を気にする必要もない。物差しは自分の中に作ればいいんです。パルクの子どもたちを見ていても、「間違えた」と言えるようになると、だんだんと笑顔が増えてきます。そうした変化を見ながら、周囲ももっと寛容な世の中になってほしいと願います。

一人一人の思いを聞く相談窓口の役割を大切にしており、
利用者の数十倍の相談が寄せられています

これからやってみたいことがあれば、教えてください

パルクは今、段原にある一箇所だけで、行きたいけれど距離の問題で難しいという親子もおられるので、パルクをもっと増やして、必要としている人のそばに寄り添えるようにしたい。今の人数でできることには限りがあるし、私も年齢的にいつまでも続けられる訳ではありません。だから、パルクのこれまでのノウハウを伝える研修の場と資格制度を設けようとしています。何か社会の役に立つ仕事をしたいと考えている人に知っていただいて、もっと多くの力で悩んでいる親子を支えることがこれからの目標です。もちろん善意だけでは継続できないので、きちんと仕事として成り立つ仕組みづくりもしているところです。

それから中学生の受け入れについても相談を受けることがありますが、パルクの対象は小学生に限られているため、その対応についても何か役に立てる動きを考えているところです。

個人でも企業でも、「何か手伝えることはない?」「自分たちにできることなら協力するよ」という支援のお声掛けを大変嬉しく受けております。一つの家庭の問題として見過ごすことなく、地域社会で支えていけるように、ご理解とご協力をいただけたら大変心強いです。どうぞよろしくお願い致します。

不登校支援センターパルク
不登校支援センターパルク
https://parc2022.jp
広島市南区段原2丁目5-11 シャルム山田101号
【開所日】 月曜日~金曜日
【開所時間】9:00 ~14:20 ※月・水・金は12:20まで
小田原 かおり(おだはら かおり)

小田原 かおり(おだはら かおり)

一般社団法人パルク代表理事
公認心理師
教員普通免許状【小・中(国)・高(国)】

1964年広島市生まれ
大学で教育学を学び、府中町の中学校、熊野町、黒瀬、呉市の小学校で教諭を歴任。呉市教育委員会、海田町教育委員会を経て、熊野町、府中町で小学校長を経験。2022年6月に一般社団法人パルクを立ち上げ、同9月に不登校支援センターパルク開校。

第6回中国地域女性ビジネスプランコンテスト『SOERU』にて優秀賞(一般社団法人中国地域ニュービジネス協議会長賞)を受賞

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