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広島県インクルーシブフットボール連盟(HIFF)松本 由香さん

サッカーがみんなとつながる架け橋になるように

「インクルーシブ」とは、全てを含んだ、包含するという意味。広島県の障がい者サッカーの総括団体として活動する「一般社団法人 広島県インクルーシブフットボール連盟(HIFF)」の理事を務め、障がいの有無に関わらず「誰もが」「共に」サッカーを楽しめる「インクルーシブ」な環境づくりを通して、活力ある共生社会を目指す松本さんの活動について聞きました。

障がい者サッカーに関わるきっかけは?

長男が高校に上がるタイミングで、子育ても一段落したし何か新しいことをやってみたいと思っていました。そんな2013年の春に目にしたのが、広島で「アンプティサッカー」のチームを立ち上げたという新聞記事。「アンプティサッカー」とは、事故や病気による切断や障がいで手足が不自由な選手が競技するサッカーのこと。それまで障がい者との関わりやボランティアなどの経験はありませんでしたが、2人の息子がサッカーをやっていたこともあり、何か自分に手伝えることがあるのではないかと、記事に掲載されていた代表の坂光徹彦さん(現:HIFF会長)の電話番号に連絡をしました。

障がい者サッカーとはどのような競技ですか?

パラリンピックなどを通して、一口に「障がい者」と言っても状態やレベルが様々であることは、少しずつ知っていただけているのではないかと思います。いろいろな人が自分に合った条件で参加できるように、日本においては7つの障がい者カテゴリーの団体が活動をしています。

  • アンプティサッカー

    足や腕に切断障がいのある人が行う7人制サッカーです。
  • CPサッカー

    脳性麻痺によって運動障がいがある人が行うサッカーです。
  • ソーシャルフットボール

    精神障がいのある人が行うフットサルです。
  • 知的障がい者サッカー

    知的障がいのある人が行うサッカーやフットサルです。
  • 電動車椅子サッカー

    重度障がいの方々が多くプレイしています。電動車イスを使用した足を使わないサッカーです。
  • デフサッカー

    聴覚障がいのある人が行うサッカーやフットサルです。
  • ブラインドサッカー

    視覚障がいのある人の5人制のサッカーです。GKは晴眼者や弱視の方がつとめます。

    ロービジョンフットボール

    弱視(ロービジョン)者のフットサルです。

日本では珍しい障がい者サッカーのクラブチームA-pfeile広島(アフィーレ広島)には、現在6つのチームがあります。切断障がいのアンプティ(AFC)の立ち上げから始まり、ニーズに応えて視覚障害のブラインド(BFC)、電動車椅子(PFC)、歩いて行うウォーキングフットボール(WFC)と増えていき、さらに歩行器(フレーム)を使って行うフレームフットボール(FFC)、精神障がいのソーシャル(SFC)にも取り組んでいます。

  • アンプティサッカー

    アンプティサッカー2013年〜

    アンプティサッカー

    アンプティ(amputee)とは、「切断」のこと。フィールドプレーヤー6人は片脚に切断または麻痺等、ゴールキーパーは片腕に切断または麻痺等の障がいがある選手がつとめます。それぞれ、ボールを扱えるのは片脚または片腕だけ。フィールドプレーヤーはクラッチ(杖)で体を支えて移動したりボールを蹴ったりしますが、クラッチでボールに触れると「ハンド」の反則となります。

  • ブラインドサッカー

    ブラインドサッカー2015年〜

    ブラインドサッカー

    視覚に障害を持った選手がプレーできるように考案されたサッカーで、音が出るボールを使用します。1チームはゴールキーパーを含めて5人。ゴールキーパー以外の4人のフィールドプレイヤーは、視覚障害の程度によりB1~3のクラスに分けられます。

  • 電動車椅子サッカー

    電動車椅子サッカー2016年〜

    電動車椅子サッカー

    電動車椅子で行なうサッカー競技で、足元に取り付けられたフットガードを用いてボールを蹴ります。競技は体育館など屋内で行われ、ボールは通常のものより大きい直径約32.5cmのボールを使用。1チームはゴールキーパーを含む4人で、男女混合チームもOK。

  • ウォーキングフットボール

    ウォーキングフットボール2019年〜

    ウォーキングフットボール

    イングランドで行われた55歳以上の高齢者の健康のためのサッカーが原点と言われる、歩いて行うサッカー。オフサイドなし、接触禁止、ボールの高さがに制限を設けるなどのルールを作ることで、年齢・性別・経験を問わず誰でも楽しく参加ができる競技となっています。

  • フレームフットボール2022年〜

    フレームフットボール

    フレーム(歩行器)を使って行うサッカー。脳性麻痺など歩行に障がいのある方を対象にしています。

  • ソーシャルフットボール

    ソーシャルフットボール2023年〜

    ソーシャルフットボール

    うつ病や統合失調症、パニック障害などの精神疾患を抱える人たちを対象としたフットサル。認知症の方にも参加していただいています

自分が参加できる種目があるのかどうか、どのように知っていただくのですか?

主に窓口の役割を担っているのは、私がチーム代表を務めるウォーキングフットボール。走らずに“歩く”ことを基本としたサッカーで、広く参加できるイベントを定期的に開催しています。他の障がい者サッカーのプレイヤーほか、昔サッカーをしていた高齢者の方、初心者だけれど身体を動かしたい方、サッカーに興味があるお子さんなどの健常者の方も多くいらっしゃいます。

その日の参加者に寄り添ったルール作りをして、年齢・性別・経験を問わず誰もが笑顔で楽しむ事を第一に活動しています。初めて参加する人の体験の場と、それぞれの種目を超え障がいの有無関係なく交流できることは、まさしくインクルーシブな居場所になっています。

参加してみて、「もっとやりたい」という希望があれば、障がいに応じたチームや、レベルに応じたフットサルチームやサッカーチームなどを紹介。できるチームがなければ、新たに立ち上げることもあります。A-pfeile広島FFC「フレームフットボール」もそうして生まれたチームです。

家族や知人に連れ出され、あまり気乗りしない様子で来られた方が、いろいろな人と一緒にボールを追いかけるうちに、だんだん表情が変わってきて、「楽しかった」「またやりたい」と言ってくれると、スポーツの力を実感します。障がいや環境の違いで閉じこもりがちな方々にも、どんどんこういう場を利用していただき、家族以外の人と触れ合う機会に役立ててほしいんです。だから悩んでいるご本人はもちろん、ご家族にも「こういう場があるよ」と広く知ってもらい、「一度遊びに来て」と伝えられるよう、定期的な体験会やイベントを通して取り組んでいます。

ウォーキングフットボールについて詳しく知りたい方は、日本ウォーキングフットボール連盟のサイトをご覧ください。

松本さんがこれまで関わってきて感じる魅力は何ですか?

サッカーを通じて前向きに変わっていく成長や変化を見守ることでしょうか。例えばある男性参加者は長くうつ病を患っていて、家に引きこもりがちで、歩くのがやっとという状態でした。心身共に「スポーツができる状態ではない」と思われていましたが、次第に楽しそうに参加するようになり、自分の意思で身体を鍛えて体力をつけ、体型も表情も変化。やがて華麗なトラップを決められるまでに至った様子を目にした時は、「やったぁ!」と大声で叫び、感動しました。

そのほかにも、選手一人ひとりにドラマがあります。「障がいがあったから来たのであって、サッカーがしたくて来たんじゃない」と言っていた人が、障がい者サッカーを意欲の源に変えていったり。いつしか家族に依存することが当たり前になっていた人が、家族を離れてチームに入ることで精神的にも自立し、仲間をサポートする立場になり、家族に感謝を伝えるようになったり。健常者の86歳のおじいちゃんは、サッカーを始めてから月に2回の練習が楽しみにしてくれるようになり、先日は「いつかサンフレッチェと試合をしたい」と言っていました。

松本さん自身にも成長や変化がありましたか?

たくさんありました。まずは障がいを持っている人達を特別視しなくなったことです。もちろんいろいろな人がいますが、思っている以上にタフな人が多い。最初の頃は、義足をひょいっとリュックに突っ込んで現れる姿にぎょっとしていましたが、「この義足は軽自動車くらいの値段がするんよ」とフランクに語る姿に接しているうちに、全く当たり前の光景になっていきました。

また障がい者ジョークというか、「どこを欠損したの」「足先? 全然軽いじゃん、俺は膝から下だし」「俺なんか太ももから下がないぜ」といった彼らの会話も、最初は笑っていいのか戸惑いましたが、その明るさや逞しさに、健常者と障がい者の壁を感じなくなりました。

自分も含め、誰もがいつ後遺症を伴う事故や病気に遭うれかもしれないし、高齢になって認知症や糖尿病で不自由になるかもしれない。だから誰にでも分け隔てなく接して寄り添うことが当たり前になったことは、人生で得したことだと思っています。

また私自身も40歳からフットサルを始めました。基本的なボールの蹴り方、ドリブル、パス、トラップなどを習って、みんなと一緒にサッカーを楽しめるようになり、健康維持に役立っていることも、チームに関わって得た財産の一つです。

お仕事もお忙しいと思いますが、今後の展望を聞かせてください。

プライベートでは、機械式駐車場装置の施工・メンテナンスの会社を経営しています。ずっと家業として手伝っていて、2024年から代表に就任しました。障がい者サッカーの活動は、仕事とは切り離して続けていましたが、先日ふと業務面でも障がいのある方たちのサポートができるのではないかと思い至りました。

障がいのある方たちにとって移動は一つのハードルです。車椅子利用者は、電車やバスの低床車両運行時間を常に把握してその車両に乗れるように調整しています。車を運転する場合も、思いやり駐車場が埋まっていたり、一般車両が停まっていたりすると、駐車場探しに難航することがあります。機械式駐車場や、通常の平面駐車場の利用が難しいからです。練習や試合会場に集まる参加者からそんな話を聞いて、車椅子利用者でも使える機械式駐車場装置の開発や普及の面から、皆さんの役に立ちたいと考えています。

最後に何かメッセージがあればお願いします。

先にも述べましたが、まずは障がいや環境の違いで閉じこもっている人やそのご家族に、私たちの活動を知ってほしいです。家族だけで解決しようとすると、お互いに疲弊してしまうので、思い切って外に出てきて、家族以外の人とたくさん触れ合ってほしい。その居場所になりたいと願っているので、周囲に悩んでいる人がいたら声をかけてみてください。

また健常者の方にも、彼らの頑張りを知ってほしい。興味がある人やサッカーが好きな人は、ぜひ一緒にプレーや活動を!! スポンサー企業も常時募集しています。

それから様々な交流をきっかけに、「世界同時ハミングデー2024」というイベントを知りました。言葉を発することが難しい人でも、言語が異なる人とでも歌えるハミング(鼻歌)。誰でも当たり前の選択肢があるようにスポーツをしたりハミングをしたり、自分が参加しても楽しいと思える場所を持つことがその人の居場所になると思います。10月10日の開催当日は世界同時に50カ国をリアルとオンラインで繋ぎ、ハミングで世界中の人と言葉を超えてつながりを感じる国際音楽平和イベントです。車いす席や少し静かなスペースで参加も可能ですし、人混みが苦手な方はご自宅からオンラインでの参加も可能です。ご一緒に参加してみませんか?

松本 由香(まつもと ゆか)

松本 由香(まつもと ゆか)

一般社団法人広島県インクルーシブフットボール連盟(HIFF) 理事・副会長
A-pfeile広島WFC(ウォーキングフットボールクラブ)代表
公益社団法人広島県パラスポーツ協会理事
一般社団法人日本ウォーキングフットボール連盟理事
有限会社 総真興業 代表取締役社長
1974年 広島市生まれ。

2013年5月に立ち上げられたアンプティサッカーチーム加入をきっかけに2018年4月にHIFFを数名と立ち上げる。FC バルセロナが設立した「バルサ財団」の認定障がい者サッカー指導者の講習を受け、社会教育的ツールとして、社会的インクルージョンや社会の変容、子供達の人生を変える助けとなる「SportsNET方法論」を取り入れた活動として、ウォーキングフットボールの体験会などを積極的に開催している。

【広島県インクルーシブフットボール連盟(HIFF) 公式サイト】
https://hiff.football

【A-pfeile 広島 公式サイト】
https://a-pfeile.jimdofree.com

【公益社団法人広島県パラスポーツ協会 公式サイト】
https://hpsa.info/

【一般社団法人日本ウォーキングフットボール連盟 公式サイト】
https://jwfl.jp/

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