わが国では生活習慣病患者が年々増えています。そして、罹患する年齢が低くなっているように思われます。
30代前半で太鼓腹をした男性も珍しくありません。
今や国民医療費の30%は生活習慣病が占めており、亡くなる方の2/3は生活習慣病で亡くなっています。
誰でもがご存知の原因としては①食生活の乱れ、②運動不足、③喫煙、④飲酒、⑤ストレスなどがあります。
その中でも①の食生活の乱れというものの中で、食事の時間や回数がどれ程影響するのでしょうか?
老若男女を問わず、朝食抜きの方が気になっています。不適切な食事習慣として挙げても良いでしょうか?
例えば食事の量は、生活スタイルにもよりますが、朝抜きで、昼食と夕食を食べるだけでは、単純に計算すると、2回より、3回食の方が多くなります。
しかし、エネルギー量が少ないはずの朝食抜きの方が、肥満傾向があると言われています。この理由は朝食を食べないと夕食からの絶食時間が長くなり、体が飢餓状態に備えて、余ったエネルギーを脂肪に変えて蓄えるからと言われています。この件に関して、私はずっとそういう確かな研究があるものと思っていましたし、「そうだろうな・・・・。もっともだ。」と思っていました。しかしその根拠について、私自身は実際に論文を読んだわけではありません。
しばしば朝食抜きの糖尿病患者さんにお会いすることがあります。夜が遅い患者様もいれば、子供のころから朝食は食べていないと言う方や、「朝食べると気持ち悪くなる」とか、「朝食を食べるくらいなら寝ていたい」という方まで理由はいろいろです。
最近、わが子と朝食の内容について話をする機会がありました。子供の時からしっかり朝食を用意していたにも関わらず、大人になってから、ガッツリ食べて平気な子と、朝はやっぱりあまり沢山は食べられない子がいます。どうも両親の遺伝子をそれぞれが分けて受け継いでいるようです。ですから、朝食の摂り方にはその人の消化機能の状態にもよるのかな・・・とも思っています。
三十年くらい前(まだ、学校栄養教諭の制度がなかった頃です)、小学校のPTAの会で食育に関する講演会を頼まれたことがありました。その打ち合わせで、校長先生たちを訪ねて朝食の喫食率をお聞きしたことがありました。その頃ベッドタウンと言われていた場所の小学校より、街中で「親の帰宅が遅い家庭が多い」と思われる小学校の方が朝食の喫食率が低いようでした。街中にある小学校の女性の校長先生でしたが、「毎朝、牛乳を飲みに校長室へ来る子がいます」というお話を聞いたことがありました。その子は「お母さんが夜遅い仕事で、登校時にはまだ寝ている」という事でした。優しい笑顔の校長先生のお話を聞きながら、きっと校長室での時間はその子の宝物になったのだろうなと思いました。
子供との朝食はその子の体調を見たり、ちょっとした話をしたり、きっと『お腹を満たす』という以上の意味があると思います。もちろん成長期の大切な栄養補給の機会です。2回食では十分に栄養を摂ることが出来ません。
糖尿病の場合、朝食を摂らないで昼食を食べると、朝食を食べた人より食べなかった人の方が血糖値が高くなると言われています。これは論文がありますので、確かなことです。
「朝食は必要か?」で、ネットを検索してみると、朝食を食べない人の割合は20歳代が最も多くて、男性は3人に1人、女性ではほぼ4人に1人が食べていません。朝食を食べない人は夕食が不規則だったり、その内容も偏りがちで、夕食後の間食が多いなど1日の食生活のリズムが乱れがちな人が多いようです。私がお会いしてお話をさせていただく人は何らかの疾患があって受診される方ですので、朝食の欠食者(飲み物だけ、菓子のみも含む)にお会いすることが平均より多いように思います。
小中学校の子供たちの例ですが、『日本スポーツ振興センター』が調査したところでは朝食を必ず食べている子供ほど、「だるさを感じる割合が少ない』傾向にあるという事です。朝食抜きの生活は『体のだるさ』や、やる気の低下につながるため、学力の低下にもつながります。
このことと同じように、大人であっても夜の食事が適切な時間に食べられない人は、朝食が食べられなかったり、朝なかなか起きられなかったりと言うことがあって、生活が不規則になりがちな人が多いでしょう。これらが体調の不具合につながっているのかもしれません。
朝目覚めた時、中には元気いっぱいという方もいらっしゃるでしょうが、大抵はエネルギー切れではないでしょうか?
脳や内臓の働きも低下しており、寝ている間にエネルギーを消耗してエネルギーを注入しない事には活動できないような状態ではありませんか?
朝食は寝ている間に消耗したエネルギーを補う役割と、新しい一日が始まったスイッチを入れる役割があります。
時間栄養学のおはなしでも述べましたが、朝、少しずれている時間をリセットし、新しい一日の生活リズムのスイッチを入れる役割をします。内臓にも「さあ、一日のスタートだ」と教えてあげます。睡眠中に低下した体温を高め、脳を活性化し、体の隅々まで目覚めさせます。
起床時の脳はエネルギーが枯渇した状態ですので、体を動かすためのブドウ糖が不足して、子供と同じようにだるさを感じたり、集中力がなくなってイライラしたりという事が起こるようです。また、朝食抜きで昼食を摂ると空腹の状態ですから、食べ過ぎや間食を摂ってしまう事にもなります。朝食を摂ることは太りにくい体を作ることにもつながります。
私は朝食を食べた方が良いと思っています。ですから『朝食は食べた方が良い』という研究結果を探してしまいます。
東京大学大学院の佐々木敏先生の著書の『食と健康の情報を整理する』という中で、イスラエルにおける2型糖尿病における朝食中心型と、夕食中心型の食事をした場合の調査結果がありました。これは18人による7日間づつ間をあけて、それぞれを試した調査で、その後の血糖変動を調べたところ、朝食中心型の方がすい臓への負担が少なく血糖値が低く抑えられていました。同様の研究は健康な人でも実施されていて、同じような結果が得られているようです。
しかし、ネット上には、人類は原始的な生活をしていた時代から、毎朝食事をする習慣はなかった。朝から食物を調達できなかった時代と人間の体は何ら変わっていないから、食べなくても良い。朝食を食べないほうが、頭が冴える。等々色々な情報が書かれています。しかし、我々の寿命はその頃には想像すらできなかったほどに伸びています。生活も変化しています。
今また、新型コロナウィルスという思ってもみなかった厄介な敵によって、行動が制限されています。益々テイクアウトが増えた方や自宅での食事を楽しむ方、いろいろな方がいらっしゃるでしょう。
どんな食事をしたほうが良いのか? マスコミの情報が驚くほど速く皆さんに浸透していきます。
来月から、食に関する様々な情報を、根拠となる研究は何なのか?それはどれくらい信用できるのか?
実施するメリットは?等々少しづつ解き明かしていきたいと思います。もし、知りたいことがある方はご連絡ください。
長年、管理栄養士として病院の給食管理・栄養管理に従事後、現在、内科糖尿病専門医院にて糖尿病を中心とする生活習慣病、高齢者の低栄養等の栄養食事指導をしています。
ライフワークとして「あなたの体は、あなたの食べたものでできている」ということを意識した「食」の啓発活動を行なっています。
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