2021/07/08

腰痛は、国の調査(2016年)で、からだの痛みの部位として、男性では1位、女性では2位と、男女共に悩まされている人が多い症状です。

因みに男性の2位、女性の1位は肩こりで、これらをまとめて考えると、首から腰にかけての問題であり、人間が二足歩行を始めてしまった時からの永遠の悩みとも言えます。近年生活様式や生活習慣が変化し、殊にスマホやパソコンの使用が当たり前の生活となり、子供の頃からのゲームや運動不足も相まって、若くても腰痛や肩こりに悩まされている人が多くなっています。有病率は約23%となりやすく、再発率は44~78%と一度なると中々治りにくいことがわかります。腰痛が長引く危険因子としては、交通事故後の発症、重労働、働きがいが低いことなどが報告されていて、社会的な側面もあります。

また長引くと頭の中に痛みを感じてしまう回路ができてしまい、常に痛みを感じている状態となるため気分も落ち込みやすくなり、中々そこから抜け出せなくなるという心因性の問題も起こります。それ故に、たかが腰痛ですが、中には日常生活や仕事に大きな支障をきたしてしまう人もおられ、26~37%の人が休職を繰り返すとも言われ、国も経済的、社会的な問題として対策を始めています。その一つとして、東京大学の松平浩先生が「これだけ体操」という簡単な運動を提案されており、NHKでも取り上げられていました。

さて、つい最近まで腰痛の8割は原因不明と言われていました。それらは非特異性腰痛と呼ばれ、我々整形外科医も、レントゲンやMRIで明らかな異常がなければ、「原因はよくわかりません。痛み止めで様子をみましょう。」となることが多くありました。最近ではMRIや超音波(エコー)装置などの検査機器が進化し、また研究も進み、腰痛の原因の8割が特定できるとも言われています。

しかしながら、診断や治療は容易ではなく、関連痛と言って、症状のある部位から離れたところに原因があることも多く、いくつかの検査や診断のための注射をしてみるなど、時間と手間がかかることがあります。一方で診断のための注射が効果的であったり、原因がわかれば、より精度の高い治療もできるようになります。また、腰痛に関連する症状として、お尻や足の痛み、しびれがあります。こちらも一筋縄ではないのですが、エコーガイド下注射により診断や治療に革命が起きつつあります。

それでは、腰痛や、お尻や足の痛み、しびれの原因として考えられる病気をいくつか挙げてみます。

1.腰椎椎間板ヘルニア、椎間板性腰痛、坐骨神経痛

腰椎椎間板ヘルニア、坐骨神経痛は、よく耳にされる病名だと思います。椎間板は腰骨と腰骨の間にあり、クッションなどの役割を果たしますが、年とともに傷んでいく宿命をもっています。椎間板は元々痛みを感じない組織ですが、スポーツや重労働などで一旦傷がつくと、そこに痛みを感じる神経が伸びて来て、痛みが発生するようになります。腰を曲げることや、咳やくしゃみで痛みが悪化し、椎間板ヘルニアとなると脊髄神経に当たり、お尻や足にビリビリとした痛みやしびれが走ることがあり、MRIで診断します。椎間板に由来する腰痛は、起床時に強かったり、股関節辺りに関連痛が出ることがあります。ヘルニアで脊髄神経が圧迫されると、足が動かなくなることがあり、改善しない場合は手術が必要です。

2.椎間関節性腰痛

腰痛の22%を占めると報告されており、原因としては最も多いです。椎間関節は、腰骨の後ろ側にあり、腰骨同士を連結しています。腰痛として問題となりやすいのはぎっくり腰で、時に動けないほどの痛みとなります。腰を反ったり、ひねると痛みが増強しやすく、うつ伏せで本を読む方、柔らかい布団で寝ている方、ハイヒールを履く女性の方に起こりやすいです。エコーガイド下やレントゲン透視下に椎間関節ブロックを行い、診断や治療を行います。

3.筋筋膜性腰痛

首から背中、腰にかけてあるいくつかの筋肉が痛みの原因となります。押さえると痛みがあり、痛みの範囲が広いことが多く、スポーツでの負荷や、デスクワークなどで長時間同じ姿勢でいたことにより筋肉の血流が悪くなり、痛み物質が発生し、痛くなることもあります。エコーガイド下に筋肉のハイドロリリースを行ったり、リハビリによる徒手療法や電気温熱療法で血流改善を図るなどします。広範囲の痛みの場合は仙骨硬膜外ブロック注射を行うこともあります。

4.仙腸関節障害

仙腸関節は上半身と下半身をつなぐ場所にある骨盤の後側の関節で、仙骨と腸骨という骨からなります。関節ですがほとんど動かないため、その上下でよく動く背骨や足の負担を一気に受けてしまいます。スポーツやデスクワークなどにより負担を受け続けると、お尻や股関節辺りに痛みが出現します。時に急激な強い痛みとなり、動けなくなり、救急車で運ばれて来ることもあります。正座は大丈夫でも椅子に座っていると痛みが出たり、股関節辺りの痛みが特徴的ですが、時に坐骨神経痛のように足まで痛みやしびれが出ることもあり、椎間板ヘルニアなどの他の病気との鑑別が必要で、診断を兼ねた治療としてエコーガイド下に仙腸関節後方靭帯部にブロック注射を行うことがあります。

5. 腰部脊柱管狭窄症

腰骨の後側にある脊柱管という脊髄の通り道が、前方の椎間板や、後方の靭帯や関節により狭くなり、主には歩く時に下肢の痛みやしびれ、だるさが出現し、座って休むと軽快します(間欠性跛行)。夜間のこむら返りや頻尿、便秘の原因にもなります。MRIを撮ると70歳以上では約7割の方に認められますが、症状の程度や発症するかはまちまちです。動脈硬化により下肢の血管が詰まっても同様な症状が起こるため(閉塞性動脈硬化症)、動脈硬化の程度を調べる脈波検査を行うことがあります。神経の血流を良くする薬や神経痛の薬を内服したり、神経痛が強い時は仙骨硬膜外ブロックを行います。間欠性跛行がひどく、歩けない人には手術を勧めます。

6.腰椎分離症、腰椎分離すべり症、腰椎変性すべり症

腰椎分離症は、学童期のスポーツ障害として起こることが多いです。一番下の第5腰椎に起こりやすく、度重なる腰への負担で腰骨の後側にある椎弓と呼ばれる部位が疲労骨折をきたし、腰を反らすと痛みが増強します。初期はレントゲンでは異常が認められず、MRIやCTで確定診断を行います。レントゲンでわかった時はすでに時遅く、分離が完成していて、骨癒合は難しいことが多いので、早期診断が大切です。初期であればスポーツを休止し、コルセットを装着して骨癒合を期待します。骨癒合せず、分離が完成した場合や、わかった時にはすでに分離していた場合は、リハビリで筋力訓練やストレッチ、スポーツ動作の見直しなどを行います。分離症が進行すると、分離すべり症となり、脊柱管狭窄症や坐骨神経痛が出現することがあります。加齢より起こるものは変性すべり症と呼びます。

7.その他

その他には、梨状筋症候群や上殿皮神経障害などの殿部絞扼性神経障害や、レッドフラッグと呼ばれる脊椎圧迫骨折、転移性骨腫瘍、多発性骨髄腫、化膿性脊椎椎間板炎、腹部大動脈瘤、解離性大動脈瘤など、重篤なものや内科的な病気もあります。

最後に

腰痛や、お尻や足の痛み、しびれの原因となる病気について説明しましたが、総じて言えることは、人間が二足歩行となって、背骨に負担がかかるようになり、スマホやパソコンなどの現代的な生活様式がさらに拍車をかけていることは間違いありません。生活様式を変える必要はないですが、姿勢に気を付けたり、上半身下半身のストレッチやラジオ体操を仕事の合間や入浴後に行うなどして、予防や改善に役立ててみてください。中にはレッドフラッグと言って、緊急性の高い病気や、専門的な検査や治療、手術が必要な病気が潜んでいることがあるので、腰痛が強い方や治らない方は早めに整形外科で診てもらいましょう。

コラムニスト|やまぐち整形外科リハビリクリニック 院長:山口 一敏

やまぐち整形外科リハビリクリニック

診療内容

整形外科・リハビリテーション科・リウマチ科・筋膜リリース(ハイドロリリース)・PRP療法(PFC-FD療法)

所在地・アクセス

〒731-0138 広島市安佐南区祇園2丁目13-20 Tel:082-874-6688
  • 広島経済大学入口バス停より徒歩1分 JR下祇園駅・古市橋駅より徒歩10分 国道183号線今津バス停より徒歩5分
  • 駐車場16台あり・駐輪場あり

院長  山口 一敏 

昭和47年に前院長が当地に山口整形外科病院を開業させていただき、私もこの祇園で育ちました。高校卒業後は県外で過ごしましたが、平成15年に広島に戻り、平成26年より山口整形外科病院・副院長として祇園に戻ってまいりました。子供の頃はまだ近所に田んぼや畑がたくさんあり、近くの野山で虫捕りや魚釣りなどをして遊んでおりましたが、今では大型商業施設もある現代的な街に変化し、時の流れと年齢を感じざるを得ません。患者様に対して専門的な言葉や用語はできるだけ使わず、わかりやすい言葉でご説明するように心がけております。説明がわかりいくい時や疑問に思われることがあれば、遠慮なくおききください。前院長が築いてきた地域に根差した医療を継承し、適切な診断・治療とともに、患者様の思いに寄り添う医療をこれからも続けてまいります。

 関連記事

column/btn_column_page
トップ