利益とお金の流れ

利益とお金の流れ

前回は、クリニックの開業においてなぜ事業計画が必要なのか、そして事業計画を立てる上で押さえておくべき売上と費用についてご紹介しました。
しかし、売上と費用を把握するだけでは不十分です。売上と費用を計上したとしても、それが実際のお金の動きを表してはいないからです。
詳しくは後ほど述べますが、クリニックの主たる売上である保険収入は当月の売上を翌月10日までに請求し、入金があるのがその翌月となるため、売上から入金まで2ヶ月のタイムラグが発生します。
そして費用のなかには実際にはお金が出て行っていないものもあります。
たとえその月で多くの売上があったとしても、キャッシュが手元になく黒字倒産してしまうという事態は十分起こり得ます。
したがって、お金がどのように動いているかは常に把握しておく必要があります。
今回は経営において必要な利益とお金の流れについてご紹介します。

利益とは

利益と一言で言ってもいくつかの種類があり、それぞれ微妙に内容が異なります。
ここでは売上総利益、営業利益、経常利益、当期利益という4つの利益について紹介します。

売上総利益(粗利)

売上総利益(粗利)は、売上高から売上原価を差し引いたものです。クリニックで言えば、保険診療の売上から薬代や検査等の委託料を差し引いたものになります。

営業利益

営業利益は、粗利から販管費を差し引いたものです。販管費はいわゆる費用のことで、給与や家賃、交通費など多岐にわたります。営業利益では純粋な事業での稼ぐ力を知ることができます。

経常利益

経常利益は、受取配当金や受取利息といった本業以外での収益を含め、支払利息といった本業以外での費用を差し引いたものです。
経常利益では、その企業の総合的な収益力を知ることができます。

当期純利益

当期利益は、経常利益から税金を差し引いた最終的な儲けのことをいいます。

損益分岐点とは

それではどのくらいの売上と費用があれば利益が出せるのでしょうか。
これを知るためには、損益分岐点売上高を把握する必要があります。
損益分岐点売上高とは、利益がゼロになる売上高のことで、それ以上売上があがればプラス(利益)に転じていきます。損益分岐点売上高は粗利から固定費を差し引いて求めることができるので、粗利=固定費の状態とも言えるでしょう。グラフで表すと以下のようになります。

この境目を把握したうえで、どれくらいの医業収入があれば損益分岐点売上高になるのか計算してみましょう。
医業収入は診療単価×患者数で分かりますから、ご自身の診療科で一日どのくらいの患者数を見ればトントンになるのか試算してみてください。

お金の流れ

ここまで利益と損益分岐点について述べてきましたが、注意しなければいけない点があります。

それは、どの利益も実際に残るお金(可処分所得)とイコールではないということです。
利益がでているからといって、院長が自由に使えるお金があるとは限りません。
これには冒頭述べたように、お金の流れが関係しています。利益とは売上から変動費(原価)そして固定費を差し引いて計算されます(つまり、売上からすべての経費を差し引いたもの)。
しかし実際は、お金は出ているけれど経費には含めないもの、対してお金は出ていないけれど経費に含めるものなどがあり、利益とキャッシュの乖離が起こります。
経費に含めないものとは、例えば借入の返済(利息部分は除く)や税金の支払いなどがあります。これらは毎月支払が発生していますが、事業運営上必要経費と認められていませんので、利益には一切反映されません。
逆にお金の流出はないけれど費用になるものとして、設備投資にかかる減価償却費があります。
例えば1,200万円の医療機器(法定耐用年数6年)を現金で全額一括払いした場合、会計では一度に1200万円を経費にはせず、6年間で経費にしていくため、下の図のように毎期200万円ずつが費用として計上されます。
しかし、実際には一年目に1200万円の支払いは終わっているため、2年目から6年目まではお金の流出がないのに200万円の経費を計上していることになります。これが利益を減少させる要因になります。

また、前述の通り保険診療の売上は2ヶ月後に入金されます。会計上、売上は発生した時点で計上するため、ここでも利益とお金の流れに乖離が生じてしまいます。
特に最初の2ヶ月は、たとえ多くの利益がでていたとしても実際には入金がありませんので、資金繰りには注意しなければいけません。
以上のように、利益と実際のお金の流れが一致しないのは、必要経費に含まない借入金の返済や税金の納付、分割して費用にする減価償却費、発生と入金にタイムラグがある保険診療売上などの要因があります。

まとめ

今回は売上と費用を踏まえて、利益とお金の流れについてご紹介しました。
売上と費用だけでは漠然としていますが、損益分岐点売上高を求めて一日に何人の患者数を見ればよいのか計算してみると、具体的なクリニック経営をイメージすることができると思います。

この記事の執筆・監修

ユアーズブレーン

ユアーズブレーンは広島市中区に事務所を構えるコンサルティング会社です。広島県内はもとより中国・四国エリアを中心に、大学病院から地域密着型の病院やクリニックに至るまで、それぞれの規模や特性に合ったかたちで医療機関の皆様がより充実した医療を提供できるよう、各種支援コンサルティングを提供しています。病院・クリニックにおいて、開業・経営・事業承継などでお困りの際はお気軽にご相談ください。

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