食事量は足りている?ジュニア選手はスポーツ貧血に要注意!
何だか疲れやすい、それは夏バテではなく“貧血”かもしれません。ジュニア選手の多くは、夏に目標の大会を終え、新たな目標を立てたり、新チームが始動したりする時期でもあります。そんな時こそ、身体作り、コンディション作りとして食事にも目を向ける時間を作ってみてはいかがでしょうか。
今回はある競技のジュニア選手の保護者の方から「“スポーツ貧血”の選手が多くて、やっぱりサプリメントが必要なのですか?」というお声を頂いたので、スポーツ貧血について解説していきます。女子のジュニア選手だけでなく、男子選手でもスポーツ貧血になっている可能性は否めません。
スポーツや運動が起因して起こる貧血を「スポーツ貧血」といいます。貧血があると、息切れ・動機・疲れやすいなどパフォーマンスの低下を引き起こします。通常、貧血は血液検査でヘモグロビン値を測定し、男性13g/dℓ以下、女性12g/dℓ以下によって診断されます。
ヘモグロビンは赤血球を構成する成分で、酸素や栄養素を全身に運ぶ役割をしています。スポーツ選手は酸素の需要が多くなるため、一般の方よりも多くのヘモグロビンが必要になります。そのためスポーツ貧血を予防するためにヘモグロビン値が男性14g/dℓ以上、女性13g/dℓ以上になるよう練習量や食事面の見直しが必要といわれています。
ヘモグロビンを構成する成分に「鉄」があり、鉄が不足することによって起こる貧血を「鉄欠乏性貧血」といいます。鉄欠乏性貧血は、赤血球の大きさを示すMCVや血清鉄、フェリチンの低下がみられます。
フェリチンは「貯蔵鉄」と呼ばれており、貯鉄が少なければ貧血の改善には時間を要します。鉄がお金だとすると、手持ち現金が「ヘモグロビン」、銀行口座に預けている鉄が「フェリチン」という役割になります。
貧血症状はあるが、ヘモグロビン量は正常という場合でもフェリチンが低いことがあり、これを「隠れ貧血」といいます。症状がある方や鉄欠乏性貧血と診断された方はフェリチンの検査もおすすめします。
この他、スポーツ貧血にはジャンプ競技などで赤血球が圧迫破壊され起こる「溶血性貧血」や一時的に起こる「希釈性貧血」があります。
スポーツ貧血のうち、最も多いものが「鉄欠乏性貧血」です。鉄が不足する原因として以下の事が考えられます。
赤血球(血液)をつくる鉄は、全身に酸素や栄養素を運び、私たちのスタミナを支えてくれています。貧血がひどくなると疲れやすくなったり、イライラしたり、朝の目覚めが悪くなったりと「機嫌が悪い」「さぼっている」と勘違いされがちな症状が出てきます。食事も偏っていて普段と違うなと感じた場合、「貧血」を疑ってもいいかもしれません。
また鉄は、脳内で分泌される神経伝達物質を作る酵素を補う、補酵素としても働きます。鉄が豊富であれば幸せホルモンの「セロトニン」や快楽・やる気を得る「ドーパミン」などをたくさん作ることができ、心の健康にも密接に関係しています。
さらに鉄は骨作りにも関わっています。骨を構成する材料に「コラーゲン」がありますが、このコラーゲンはたんぱく質、ビタミンC、鉄が材料となり合成されます。鉄不足によって骨作りがスムーズにいかなかったり、成長期の子供たちの骨の成長(身長の伸び)に影響する可能性もあります。
スポーツや運動、成長期には鉄の需要が増加します。しかし、発汗量が多い場合や月経による損失、胃腸の不良により吸収率が下がるなどの理由で、必要な量は増加しているのに必要な鉄を摂ることができず貧血が起こる場合があります。これは、鉄の需要と供給のバランスが崩れた状態と言えます。
貧血が起こる仕組みはイメージがつくと思いますが、実はそれだけでなく「エネルギー不足によっても貧血」は起こります。 「しっかり食べていて鉄も意識しているはずなのに貧血になった」という声が多いですが、エネルギーが不足している場合、体は機能や働きをできるだけ縮小し省エネ稼働をしようとします。体内のヘモグロビン濃度を下げて酸素の運搬などを減らすことで仕事を削減してしまうのです。
成長期の選手は発育・発達期間であり、「身長の伸び・体重増加と成長に必要なエネルギー」や「骨格筋量の増加に伴う基礎代謝量の増加により必要になるエネルギー」が増加しています。さらに、運動時間や運動強度が増えることで、運動に必要になるエネルギー量も増えている場合が多いです。
そんな中、食事量を把握できていない選手や競技によって必要な食事量を摂りきれていない選手はエネルギー不足になる可能性があります。
以前のコラム(トップアスリートだけ食事が重要なのか?)でもご紹介したように、相対的なエネルギー不足は体の機能を低下させてしまい、成長期の選手は発育・発達不足やケガの増加、心身の不調、練習の質やパフォーマンスの低下を招く可能性が高くなります。
ジュニア選手の皆さんは、まずは「自分がどのくらいの食事量を食べているか」をチェックしてみましょう。3日分又は1日分の食事内容・量を書き出してみてくださいね。
重度の貧血の場合、鉄剤が処方される場合もありますが、貧血の改善は基本的には「食事」です。貧血の程度にもよりますが、改善までに時間を要する場合がありますので「貧血にならない」ように食事も意識していくことが重要です。
主食・主菜・副菜・汁物・果物・乳製品の品数をそろえた食事を目指したいですが、エネルギー不足にならないためには主食量がポイント。
競技や年齢、練習量にもよりますが必要な主食量をお米で換算すると1日3~5合は食べられる力を身につけましょう!
ヘモグロビンの材料に「たんぱく質」もあります。食事制限をしている場合や少食の選手はたんぱく質が不足している場合もあります。特に自宅生の朝食はたんぱく質源であるおかずがない場合がありますので、必ず食べるようにしましょう!
鉄はヘム鉄、非ヘム鉄と2種類あります。肉や魚などの動物性食品に多く含まれる「ヘム鉄」と大豆や野菜、海藻類に多く含まれる「非ヘム鉄」があります。非ヘム鉄は吸収率が2~5%に対し、ヘム鉄は15~25%程度と言われています。
吸収率の低い非ヘム鉄の吸収率を高めるために、ビタミンCが豊富ないも類やブロッコリー、ピーマン、柑橘類などの食材と一緒に食べるように意識しましょう。鉄の種類に関係なく「鉄分が豊富な食材を食べるときはビタミンCが豊富な食材と一緒に食べる」と意識してみてはどうでしょうか。
鉄の吸収は腸だけでなく、胃でも吸収が行われているので胃腸の調子も要になります。睡眠、休養、ストレスを溜めないことも重要です。さらに胃腸は筋肉でできており、よく噛み口の中の唾液の分泌を促すことで胃腸のぜん動運動も活性化され胃腸の調子を整えます。食べ方も重要なポイントです。
鉄は通常の食品からの摂取では過剰摂取になる可能性はないと言われていますが、サプリメントや鉄剤の不適切な利用は過剰摂取になる可能性があります。また安易な鉄剤注射防止についても日本陸上連盟HP内にもある「不適切な鉄剤注射の防止について(リーフレット)」に記載がありますので参照ください。
栄養素はチームプレーで働いています。食事の整え方やサプリメントの利用に関しては公認スポーツ栄養士や管理栄養士などの専門職のサポートをぜひ活用し、全体のバランスも考えて計画的にすすめていきましょう。
その他、睡眠や休養も大切です。練習や学校などの生活のスケジュールと食事・補食のタイミングも、貧血予防だけでなく競技力向上につながります。選手が学び実践できる環境を私たち大人が整えていくことも大切です。疲れやすい、体力が続かないなどの症状がある際は血液検査をしてみてもいいかもしれません。
スポーツ現場では採血をせずにヘモグロビン測定を簡易的に測定し、コンディション作りをおこなうことも増えてきました。客観的な数値も意識づけの意味も含めジュニア期から活用していきたいですね。
ソフトボール部だった10代の頃からスポーツ傷害や体重管理、食事に悩まされた経験からNSCA認定パーソナルトレーナーと管理栄養士の資格を取得。
大学卒業後、大手フィットネスクラブ、パーソナルトレーニングジムでの運動・栄養指導に携わる。その後、学生から実業団アスリートの寮食献立作成や選手サポート、セミナー講師などの業務に従事。さらに専門的な知識やスキルを習得するためスポーツ栄養の専門家である公認スポーツ栄養士の資格を取得し、これまで700名以上の指導に携わる。
現在、「広島のスポーツを食で盛り上げる」をモットーに、スポーツ栄養サポート・普及教育活動・食環境整備などに力を入れ、セミナー講師、チームスタッフ、企業アドバイザー、専門学校非常勤講師など各分野で選手や広島の方を食で支える取り組みを行っている。
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