最近、若い人から高齢者までビール腹がやたらと目につきます。
ちょっと横から見たらふっくらサイズのお腹から、もうベルトが止まらないのでお腹の下にベルトをしている方まで、そこまで大きいと動くのも大変でしょうと心配になるようです。先日、糖尿病の指導をさせていただいた患者様から靴紐が結べないという話を聞いたばかりです。
私の子供時代には愉快なお話の世界でしか、飛び出たお腹は見たことがありませんでした。
ビール腹を初めて意識したのは20数年前に沖縄の空港へ降り立った時です。おじさんのお腹を次々目にして『食生活がアメリカナイズ?されているからなの‥‥』と思ってしまいました。
沖縄へは、人間ドック学会で『宿泊ドックの受診者に対する食事指導の効果』を発表するために行きました。
まだ、メタボ検診が計画段階であったこともあり、大変褒めてもらいました。
琉球大学の先生に『沖縄に来て、お腹が膨れた肥満の男性が沢山居てびっくりした』という話をしたら、『沖縄では、高カロリーなものを食べる割に、皆が車で移動しますから、運動が足りていないのです』ということでした。夏だったせいもありますが、道路は誰も歩いていませんでした。歩いているのは観光客だけでしょうか? 歩いて窯元を訪ねたらびっくりされました。健康で長寿という沖縄のイメージが一気に崩れたのを覚えています。
ビール腹は、英語「beer belly」を直訳した語で、英語でも大量にビールを飲むことで隆起した腹を意味するということらしいです。ビール腹の語源は、お腹の出っ張り具合がビールの樽の形に似ていることや、大量にビールを飲んだ時に膨らんだ腹を指したところからきているようです。。腹の突き出た太った人を「ビヤ樽」と例えて言うらしいので、ビール樽に由来する説が有力でしょうが、まあ、ビールをジョッキでぐびぐびと何杯も飲む人を見ていると風船に息を吹き込んだように、ビールでお腹が膨れたのでしょうという気もしますね。
お話に出てくる太っちょのビール腹のおじさんは愉快で楽しいのですが、現実にはそう笑ってもいられなくて、あのお腹は風船ではなく内臓脂肪がぎっしり詰まっているのです。
日本では2005年に医学系8学会が合同してメタボリックシンドロームの診断基準を策定しました。下記のように、内臓脂肪が蓄積されていて、尚かつ血圧、血糖、血清脂質のうち2つ以上が基準値から外れている状態を指します。海外では異なる基準が用いられているようです。
男性と女性のウエスト平均値の調査報告を見ると男性のウエスト平均値はほぼ85cmで、中高年の男性は2人に1人で、かなりの人が引っかかるということになります。それに対して女性の方はというと90cmというとかなり甘い数値になり5人に1人ということらしい。
そもそもこのメタボ検診では肥満や高血圧など、幅広い生活習慣病のリスク因子の早期発見を目的としたものです。最大の特徴は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪が多く、糖尿病や高血圧などの生活習慣病になりやすい状態のこと)にターゲットを絞った健診及びその指導を実施することです。2017年のデータでは、日本全国で約5400万人がメタボ健診の対象となっており、そのうち53%の約2900万人が実際に受診しているようです。
メタボロックシンドロームという考え方が一般的になり始めたころは、まだそこまでビール腹の人は見かけませんでした。肥満のうちでも、お腹に脂肪がたまり腹囲が大きくなる『内臓脂肪型肥満』が、高血圧や糖尿病、脂質異常症などをひきおこしやすくし、これら内臓肥満と高血圧や糖尿病、脂質異常症が重複し、その数が多くなるほど、動脈硬化を進行させる危険が高まるというのがメタボリックシンドロームの考え方です。
女性でも手や足がほっそりして一見スマートに見える方も、洋服マジックで上手にカバーしておられる方がいらっしゃいます。案外体重が重くて驚きます。女性も更年期を過ぎると、今まで女性ホルモンでカバーされていた色々な特典が少なくなって内臓脂肪がつきやすくなり、お腹にもポッコリと脂肪がついてきます。外見だけの問題ではありません。例え素敵にカバーできても内臓脂肪を増やしてしまうことは、生活習慣病をすすめることになります。
その結果、脂質異常症、糖尿病、高血圧、さらにはこれらが重なったメタボリックシンドロームなどを起こしやすくなります。つまり、内臓脂肪型肥満はさまざまな生活習慣病の元凶ということができます。
どうですか?『ビール腹』って笑っていられなくなったでしょう?
ビール腹が危険ということが分かっていただけたところで、次回はこの予防と対策について書いてみたいと思います。
長年、管理栄養士として病院の給食管理・栄養管理に従事後、現在、内科糖尿病専門医院にて糖尿病を中心とする生活習慣病、高齢者の低栄養等の栄養食事指導をしています。
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