女性アスリートの三主徴(Female Athlete Triad:FAT)は、1997年にアメリカスポーツ医学会にて提唱された概念です。
当初は「摂食障害」「骨粗しょう症」「無月経」の3つを指していましたが、2007年に「利用可能なエネルギー不足(摂食障害の有無に関わらず)」「視床下部性無月経」「骨粗しょう症」に変更されました。
激しいトレーニングにより生じる健康問題で、多くの女子アスリートが悩まされています。これはトップアスリートだけではなく、中高生や大学生など競技に励むアスリートをも取り巻く重要な問題です。
2014年国際オリンピック委員会(IOC)では、スポーツにおける相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport;RED-S)という概念を提唱し、エネルギー不足に対して警鐘を鳴らしています。RED-S(エネルギー不足)は女子アスリートの三主徴にある月経機能や骨の健康だけでなく、免疫や代謝、心血管系、成長・発達などといった生理的機能の健康問題を引き起こすとされています。さらに慢性的なエネルギー不足は、パフォーマンス低下につながります。
女性アスリートに限らず男性アスリートやジュニアアスリートにも当てはまるので、食事量と必要なエネルギー量が見合っているかどうかなどを見ていくことは選手のパフォーマンス向上だけでなく健康や発育発達からみても重要なことです。
以前、ご紹介したコラム内(コラム:トップアスリートだけ食事が重要なのか?)にRED-S(エネルギー不足)による健康問題やパフォーマンスへの影響が起こることについて解説しました。エネルギー不足は、必要なエネルギー量(消費エネルギー量)に対して、食事からの摂るエネルギー量(摂取エネルギー量)が不足した状態のことを言います。消費するエネルギー量の約6割は基礎代謝量という私たちが生命を維持するために体温を維持したり、心臓や臓器を動かしたりするために最低限必要なエネルギー量です。運動するために必要なエネルギー量が増え、食事からのエネルギー量が少ない状態では、運動にエネルギーが使われ、基礎代謝に必要なエネルギーが足りなくなってしまい、健康問題を生じてしまうのです。
運動量が多すぎて、たくさん食べていても食事量が追い付かずエネルギー不足になるケースと食事量がそもそも足りない又は食事制限をしていてエネルギー不足になるケースがあります。前者は、ジュニア選手や野球・ラグビーなど増量な必要な競技選手に、後者は減量が必要な競技や運動をしていない若い女性・子供にも見られます。
そして、女性アスリート三主徴の月経異常や骨粗鬆症はエネルギー不足が起因して引き起こされるので、食事の量はパフォーマンス発揮や向上のためだけでなく、健康であるために重要な役割を担っています。月経異常が起こる前に、食事量の不足による鉄欠乏性貧血になっていることも多くありますので、疲れやすい、息が切れる、集中力が続かいないなどの症状がある場合は、内科等での血液検査を行い早期発見・介入できることが望ましいです。
これらの問題は女性アスリートにとどまらず、運動をしている人全員に当てはまります。特に成長期でのエネルギー不足の問題は発育発達だけでなく将来の健康にも大きな影響を与えるので、選手本人だけでなく指導者や保護者の理解も大切になります。「線が細い子が多い」そんな声が現場から聞こえてきますが、食べている量が足りていない子の可能性はあります。
女性アスリートの活躍とともに2010年頃から文部科学省やスポーツ庁の女性アスリート支援事業がJISS(国立スポーツ科学センター)をはじめ、大学、病院等で行われています。特に順天堂大学や東大病院で実施されている事業は、講習会やコンディションノート・アプリなど女性アスリート・成長期のアスリートに関わる保護者や指導者、トレーナー、Drなどの皆さんが学び、活用できるツールがあります。
これまで述べてきたように、アスリートの健康や発育発達を支える要は「食事」です。広島県には公認スポーツ栄養士が9名(2021年10月現在)おります。私たちスポーツ栄養の専門職は知識を伝えるだけでなく、対象者が実践できるように環境作りや栄養教育、目標設定などを通してサポートしています。皆さんも、学ぶだけでは実践に繋がらなかった経験も多くあると思いますが、それには理由が必ずあり、選手や選手を支える皆さんが行動変容できるように私たちも日々学び、試行錯誤しております。強くなるために練習も大切ですが、元気に健康にスポーツに取り組むためにも、競技レベル問わず食事や栄養について考える機会を作っていただければと思います。
ソフトボール部だった10代の頃からスポーツ傷害や体重管理、食事に悩まされた経験からNSCA認定パーソナルトレーナーと管理栄養士の資格を取得。
大学卒業後、大手フィットネスクラブ、パーソナルトレーニングジムでの運動・栄養指導に携わる。その後、学生から実業団アスリートの寮食献立作成や選手サポート、セミナー講師などの業務に従事。さらに専門的な知識やスキルを習得するためスポーツ栄養の専門家である公認スポーツ栄養士の資格を取得し、これまで700名以上の指導に携わる。
現在、「広島のスポーツを食で盛り上げる」をモットーに、スポーツ栄養サポート・普及教育活動・食環境整備などに力を入れ、セミナー講師、チームスタッフ、企業アドバイザー、専門学校非常勤講師など各分野で選手や広島の方を食で支える取り組みを行っている。
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