全身性エリテマトーデス
全身性エリテマトーデスは、自己免疫が全身の関節や皮膚、神経系、血液、粘膜、腎臓や肺、心臓等、さまざまな組織や臓器を攻撃することで、炎症や障害を起こす病気です。膠原病の一種で、男性に比べて圧倒的に女性に発症することが多いという特徴があります。全ての年齢で発症しますが、特に20歳から40歳代に発症しやすいことも特徴のひとつです。皮膚にできる発疹がオオカミに噛まれたような赤い紅斑であることから「全身」を意味するsystemicと「狼に噛まれた痕のような赤い斑点」を意味するlupus erythematosusという病名が付けられました。頭文字を取ってSLEと呼ばれています。また、全身性エリテマトーデスは、国が指定している難病のひとつです。
全身性エリテマトーデスの原因
全身性エリテマトーデスは自己免疫疾患のひとつです。人間の身体には、自身の身体を守る為に、細菌やウイルスなど体内に侵入した外敵を攻撃する「免疫」という防御機能が備わっています。しかし、何らかの異常が免疫の働きに起こると、身体の細胞や組織を自身で攻撃してしまいます。そのために起こる病気を「自己免疫疾患」と言います。免疫システムの異常や遺伝的な要因、紫外線やウイルスなど環境的要因、性ホルモンなどいくつかの要因が複雑に重なって全身性エリテマトーデスが発症すると考えられています。しかし、根本的な原因は、今のところ明らかになっていません。
免疫システムの異常
免疫はウイルスや細菌等が体内に侵入した時に、本来であれば、それを異物と認識して「抗体」を作って攻撃、排除しようとします。しかし、全身性エリテマトーデスを発症すると、自身の細胞の中にある核の成分に反応して抗体が作られます。その抗体が、異物と認識した自身の細胞の核の成分や、抗体からの攻撃を助ける「補体」という成分と結合することで免疫複合体ができます。免疫複合体が身体の中で増え、皮膚や臓器などに沈着して炎症や臓器障害を引き起こすと考えられています。
遺伝的な要因
一卵性双生児など同じ遺伝子を持つ場合、2人ともが全身性エリテマトーデスを発症する確率が25%から60%程度と言われています。そのため、全身性エリテマトーデスの発症には、遺伝的な要因もあると考えられていますが、遺伝的な要因だけでなく、環境など何らかの要因も複雑に絡んでいる可能性があると見られています。
環境の要因
海水浴や日光浴、スキー等、長時間にわたり日光(紫外線)に晒されることが、全身性エリテマトーデスを発症するきっかけになることがあります。また、ウイルスや細菌等による感染症、妊娠や出産、けがや外科手術、特定の薬剤の使用等も発症の誘因になると考えられています。
性ホルモン
全身性エリテマトーデスでは、患者の約9割が女性です。また、中でも20歳から40歳代の妊娠が可能な年齢で発症が大半です。そのため、全身性エリテマトーデスの発症に女性ホルモンが関与していると考えられています。
全身性エリテマトーデスの症状
一般的にほとんどの患者に皮膚や関節症状、発熱や全身倦怠感などの全身症状がみられます。そこにさまざまな内臓や血管の病気が加わります。しかし、症状の現れ方には個人差があります。軽症の場合、内臓の症状が全く現れないこともあります。
全身症状
発熱、全身倦怠感、食欲不振、易疲労感など
関節症状
手指や肘、膝などが腫れて痛むといった関節炎が起こります。痛む場所が日によって変わる移動性の関節炎であることが特徴です。
皮膚症状
もっとも有名な皮膚症状が、バタフライ・ラッシュと呼ばれる蝶型紅斑です。頬にできる湿疹で、蝶が羽を広げたような形をしています。発疹が重なりあって少し盛り上がっています。また、頬にできる発疹でも薄紅色の絵具を刷毛で塗ったような盛り上がりのない紅斑もあります。顔面や耳介、頭部、上腕、体幹などにできる円盤状のディスコイド疹も全身性エリテマトーデスの特徴のひとつです。
日光過敏症
強い紫外線に当たったあとに、皮膚に赤い発疹や水ぶくれが出たり、熱が出たりする場合があります。日光過敏症といいます。全身性エリテマトーデスでよくみられます。この症状が病気の始まりであることも多いです。ただし、日光過敏症を起こす病気は他にもあるため、それらと区別しなければなりません。
口内炎
口の奥や上顎側、頬にあたる部位に、粘膜面がへこんだ口内炎ができることが多いです。痛みがないため、気づかないこともよくあります。しかし、ときに痛みを伴うこともあります。
脱毛
朝起きると、これまで経験したことがないほどの毛髪が枕につくようになります。部分的に髪の毛が抜けて円形脱毛症のようになったり、髪の量が全体的に減ったりすることもあります。髪が傷みやすくなり、途中で髪が折れてしまうこともあります。また、頭部にディスコイド疹ができると、その部分に起こった脱毛は治らなくなることが多いです。そのため、積極的な治療が欠かせません。
臓器障害
さまざまな症状があります。起こる症状やその組み合わせ、障害される臓器などは人それぞれで、全ての症状が起こるわけではなく、軽症の人もいれば、臓器障害が全く起こらない人もいます。ループス腎炎と呼ばれる腎臓の障害や神経精神症状、肺病変、消化器病変、心病変、血液異常などは、生命にかかわる重い障害を起こすことがあります。正確な診断と治療が必要です。
全身性エリテマトーデスの治療
自身に対して攻撃する免疫を抑えるために、免疫抑制効果のある薬を用います。ステロイド(副腎皮質ホルモン薬)が治療の中心です。病気の広がりや重症度などにより、治療に必要な用量は異なります。プレドニゾロンが代表的です。また、ステロイドだけでは十分な効果が得られなかったり、ステロイドでは副作用が強かったりする場合には、アザチオプリンやシクロフォスファミド、サイクロスポリンA、タクロリムス、ミゾリビンなどの免疫抑制薬を用います。2015年より日本でもヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)の使用が承認されました。全身倦怠感などの全身症状や関節痛、皮膚症状の軽減に効果が認められています。また、リンパ球が抗体を作るのを強力に抑える作用を有し、ループス腎炎に効果が見込めるミコフェノール酸モフェチルの適応拡大も承認されました。全身性エリテマトーデスは、完治させることは難しい病気です。しかし、さまざまな薬を組み合わせて用いることで、ほとんど症状のない寛解の状態を目指して治療を行います。
慢性疾患である全身性エリテマトーデスでは、症状が良くなったり、悪くなったりを繰り返します。医師や薬剤師の指示を守り、服薬を続けることが大切です。また、定期的な受診を欠かさないようにしましょう。自己判断で服薬を中止することは症状の悪化につながります。また、薬の副作用が出た場合には、医療機関に連絡し、医師の指示を受けましょう。
病気の悪化につながるため、紫外線対策を普段から心掛け、強い紫外線に当たることは避けましょう。また、手洗いやうがい、マスクの着用など感染症対策も大切です。
安佐南内科リウマチ科クリニック 院長舟木 将雅
【経歴・資格・所属学会】
○安佐南内科リウマチ科クリニック 院長
※資格など
○日本リウマチ学会リウマチ専門医・指導医
○日本呼吸器学会呼吸器専門医•呼吸器内視鏡専門医
○日本内科学会認定医
※所属学会
○日本リウマチ学会
○日本呼吸器学会
○日本内科学会