慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫とは、頭蓋骨の内側で脳を覆っている膜(硬膜)と脳の隙間に血液が溜まる病気で、頭部外傷の後に1~2ヶ月かけてゆっくりと進行します。比較的短期間で認知機能の低下、頭痛、半身に力が入らなくなる(片麻痺)等の症状が現れます。
発症人数は年間10万人に1人~2人と言われていますが、70歳以上ではこの2倍以上の頻度で高齢者に多く見られる疾患です。
慢性硬膜下血腫の原因
主な原因は軽い頭部外傷と言われていますが、頭部外傷があったかどうかわからない(酔った状態で転んだ場合、ドアに軽く頭をぶつけた場合、元々認知症があり本人が覚えていない)というケースは、全体の10~30%にも及びます。
50歳以上の男性に多くみられますが、頭部外傷がなくても発症することが稀にあります。
発症のリスクを高める要因としては、過度な飲酒や肝臓疾患、抗凝固薬の服用で出血傾向がある、透析中、水頭症の手術をしている人などが挙げられます。
慢性硬膜下血腫の症状
頭部を打った直後は特に症状はなく、早くて2週間、一般的には1~2か月後に症状が出始めます。
始めは元気が出ない、ぼーっとしている等の軽い症状から始まるのが特徴です。次第に歩行時のふらつき、片側の手足が動かし辛い、頭痛がする、しゃべりづらい、物忘れが多くなるといった症状が見られるようになります。重症の場合は、稀に意識障害が起こることもあります。
これらの症状は年齢によって違いがあります。若年者は主に頭痛や嘔吐、半身麻痺が主な症状です。反対に高齢者は認知症、意欲低下、見当識障害、認知症などの精神症状や、歩行障害等が主な症状として見られます。そのため、高齢の場合は認知症と混同し誤診されることがありますので注意が必要です。認知症の場合改善は困難ですが、慢性硬膜下血腫による認知機能低下は治療により改善が可能です。
慢性硬膜下血腫の診断
病歴・症状などから慢性硬膜下血腫が疑われた場合、まずは頭部CT・MRI検査を行うことが一般的です。CT・MRIでは、慢性硬膜下血腫は頭蓋骨と脳の間に三日月状に抽出されます。
慢性硬膜下血腫の治療と予防
慢性硬膜下血腫の治療
慢性硬膜下血腫と診断された場合、穿頭ドレナージ術という手術方法が用いられます。血種量や症状によっては早期に手術を行うことが必要な為ため、慢性硬膜下血腫が確認された当日、または翌日中には手術を行います。
穿頭ドレナージ術とは、頭蓋骨に直径約1センチ程度の穴をドリルで開け、そこから管を挿入し血腫を除去する方法です。局所麻酔で行われますが、手術時間は20~30分程度です。一度の手術で約9割の患者が改善しますが、1割程度に術後の再発が認められます。
再発した場合は症状・血種量を勘案しながら、再手術や経過観察を行います。稀に再発を何度も繰り返す患者がおられますが、その場合は全身麻酔の下、開頭・血種被膜の摘出術を行うことがあります。
血腫の量が少ない場合や、持病により手術リスクが高い場合は保存的療法(薬物療法)を行う場合があります。経過観察を行いながら、漢方薬や浸透圧利尿剤等を用いて治療しますが、高齢者等には電解質異常等の合併症リスクもあり、この治療法を選択するには慎重な判断が必要になります。
慢性硬膜下血腫の予防
慢性硬膜下血腫は原因不明の場合もあり、なかなか予防することが難しい疾患ですが、やはり一番重要なことは転倒して頭を打たないことです。
頭を打たれた方で、飲酒量の多い人や抗凝固薬を飲んでいる人、脳の萎縮が強い高齢者や腎臓の機能が低下している人は発症のリスクが高いと考えられていますので、このようなリスクを知っておくことも予防方法の1つとなります。
ながお脳神経外科クリニック 院長長尾 光史
【経歴・資格・所属学会】
平成7年5月 大阪医科大学附属病院 脳神経外科教室 入局
[主な勤務病院]
畷生会脳神経外科病院
翠清会梶川病院
弘田脳神経外科病院
大阪府三島救命救急センター
児玉病院
大阪医科大学附属病院 麻酔科
みどりヶ丘病院
新生病院 部長
荒木脳神経外科病院 副院長
平成22年12月 ながお脳神経外科クリニック 開院
免許・資格
平成7年5月 医師免許取得 平成13年7月 医学博士号取得 平成13年8月 日本脳神経外科学会専門医取得