スポーツ選手や運動をしている方の食事の重要性は年々周知されるようになり、スポーツ現場で管理栄養士や公認スポーツ栄養士が関わることも増えました。
しかしながら、栄養サポートへの認識に対するギャップを感じる現場も多くあり、本来の栄養サポートや私たち公認スポーツ栄養士ができる取り組みに対してまだまだ知られていないことが多くあると感じています。今コラムではスポーツ現場での栄養サポートは、どのようなものなのかを概念的なところも含めお話していきます。
公認スポーツ栄養士や管理栄養士が、選手に対してスポーツ栄養マネジメントを実施することを「栄養サポート(スポーツ栄養サポート)」と呼んでいます。「うちは栄養士さんにサポートしてもらっています。」というチームさんでも、年数回のセミナーなど単発的なところも少なくありません。これらは定期的なセミナーであっても「集団」を対象とした「栄養教育」であるため、スポーツ栄養マネジメントによる栄養サポートとは異なります。
医療や福祉の現場では栄養ケア・マネジメントが行われていますが、これをスポーツ選手や運動をしている方を対象に考案されたものが「スポーツ栄養マネジメント」です。とても簡潔に説明すると栄養・食事面から「個々」の目的や目標に向けて期間を設定しPDCAサイクルを継続的に実施していくサポートをイメージして頂けると理解しやすいのではないかと思います。
医療や福祉の現場と異なり、健康上に問題のないことも多く、また対象者が自ら行動を決定し実行していくことで、競技力向上や競技成績アップ、体組成の改善、健康の保持増進といった成果につなげていくために、スポーツ栄養学をはじめとする様々なエビデンスを理解し、対象者に合わせてアレンジしてマネジメントを実施しています。マネジメントの成果は対象者の行動計画の実施状況によって決まるといっても過言ではないことから、マネジメント従事者には高い実力が必要とされています。
スポーツ栄養マネジメントは「運動やスポーツによって身体活動量が多い人に対し、スポーツ栄養学を活用し、栄養補給や食生活など食に関わる全てにおいてマネジメント(管理)すること」をいいます。対象は、競技をしている選手から体育の授業がある小中高生、健康づくりのために運動に取り組む一般の方など、子供から高齢者まで運動やスポーツ、仕事によって身体活動量が増えたすべての方が対象となります。
スポーツ栄養マネジメントは、目的と期間を定め、図のようにスクリーニングにより対象者を抽出し、対象者に個人サポート(個人マネジメント)を実施し、対象者全員の個人サポートの結果をもとにマネジメントの評価をするという流れで行われています。
スポーツ現場での栄養サポートの目的はチームや選手の目標や目的などによって異なります。またチームの場合、選手個々によってもサポートの目的が変わる場合がほとんどです。
大きく3つの目的に分かれています。
また、パフォーマンスを最大限に発揮するためにスポーツ栄養学が活用されますが、「パフォーマンス」はスポーツシーンだけでなく、例えばビジネスのプレゼンや受験本番で実力を最大限に発揮することも当てはまります。このように日々の「パフォーマンスを最大限に発揮する」という観点でスポーツ栄養学はスポーツシーン以外にも活かすことができる栄養学という考え方もあります。
選手たちにとって怪我を予防する・怪我をしない身体作りということはとても重要なことです。そのために栄養サポートを実施している場合も多くありますが、いくら気を付けていても怪我が起きてしまうことはあります。多くの場合、病院を受診し、医師の診断を受け、安静期間や全治〇週間など指示をもらいます。症状によっては理学療法士やトレーナーの治療やリハビリを受けます。メディカルリハの後、アスレティックトレーナー等によるリコンディショニングを経て復帰する場合もあります。
多くの選手たちは怪我を早く治したいと治療に通いますが、その際食事は普段通りで良いのでしょうか。怪我をした場合はその部位の修復に必要な栄養素が増えるので、栄養素が不足していると怪我の治癒力も低下してしまい治りが遅くなる場合があります。
例えば学生スポーツや契約期間がある選手など競技期間が決まっている選手たちは早くフィールドに戻りたいと考える選手がほとんどです。必要な栄養素の過不足がないか、リハビリや安静期間中にどのようなことを食事面で意識すると治癒力をサポートできるのか、また怪我が起きた要因に食事が関連していないかなど、栄養サポートがない選手達にも食を通した身体作りを考える機会や環境も必要であると考えます。
栄養サポートとなると、厳しく栄養指導され実践していくイメージをされる方も多いかもしれませんが、実はそうではありません。
対象者は、栄養サポートを通じて目的を達成するための行動を自ら選択し実行していくこととなります。その行動を実行していくために、必要な栄養教育や個別相談等を行っており、選手たちにとって学びや振り返り・発見だけでなく、自分が進む方向性の意思決定を伴うので選手の自立を促すサポートともいえます。
勝つため、身体を大きくするためだけでなく、選手たちを育成・成長を促し支えるための1ピースとして栄養サポートを競技力に関わらず活用するチーム・団体が増えていくことを願っています。
ソフトボール部だった10代の頃からスポーツ傷害や体重管理、食事に悩まされた経験からNSCA認定パーソナルトレーナーと管理栄養士の資格を取得。
大学卒業後、大手フィットネスクラブ、パーソナルトレーニングジムでの運動・栄養指導に携わる。その後、学生から実業団アスリートの寮食献立作成や選手サポート、セミナー講師などの業務に従事。さらに専門的な知識やスキルを習得するためスポーツ栄養の専門家である公認スポーツ栄養士の資格を取得し、これまで700名以上の指導に携わる。
現在、「広島のスポーツを食で盛り上げる」をモットーに、スポーツ栄養サポート・普及教育活動・食環境整備などに力を入れ、セミナー講師、チームスタッフ、企業アドバイザー、専門学校非常勤講師など各分野で選手や広島の方を食で支える取り組みを行っている。
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