肝臓がん
肝臓がんは肝臓にできるがん(悪性腫瘍)です。肝臓から発生した場合を特に「原発性肝がん」と呼びます。また、転移して発生すると「転移性肝がん」と言います。
肝臓は、右側の肋骨の内側に位置します。人体で一番大きな臓器で、成人で約1,000グラムほどです。働きは主に、消化液・胆汁をつくる、毒素を中和する、栄養素の合成・貯蔵する、の3つです。
肝臓は沈黙の臓器とも言われ、不調を自覚しにくい臓器です。早期発見が難しい反面、実は肝臓がんは、ある程度予防できます。
肝臓がんの原因
肝臓がんの原因は、慢性的な肝細胞のダメージによって起こる突然変異です。
肝臓に慢性的な炎症を引き起こす要因を見てみましょう。
ウイルス性肝炎
肝臓がんの原因の約80パーセントを占めます。B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスが原因で主に血液を介して感染します。
アルコール性肝炎
大量のアルコール摂取が原因で発症します。
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
食べ過ぎや運動不足、糖尿病等による中性脂肪の蓄積が原因で発症します。
そして、これらの炎症により肝細胞の破壊と再生が繰り返されると、肝臓が硬くなる肝硬変を発症したり、がんの発生や抑制に関係する遺伝子が影響を受け、がんが発生したりします。
肝臓がんの症状
肝臓は、体の中で唯一自己修復機能を備えた臓器で、機能が半分ほど低下しても役割を果たすことができます。それゆえ、症状が進み肝機能が低下して初めて異常に気づくことも珍しくありません。
初期は自覚症状は殆どなく、進行すると疲れや倦怠感、食欲不振等を感じます。そして、次第に腹部のしこりや圧迫感、むくみ、黄疸、貧血等が現れます。また、意識障害や異常行動、さらに昏睡状態になることもある肝性脳症を発症する場合もあります。
肝臓がんは、肝臓表面にできたがんが破裂した場合は、出血を伴い腹部に強い痛みを感じますが、それ以外は痛みをほぼ感じないのが特徴です。
肝臓がんの治療と予防
肝臓がんの治療に必要な検査
肝臓がんの疑いがあり、今後の方針を決めるために行う検査は次の通りです。
- 腹部超音波検査
超音波を発する器具を腹部にあて、反射波をモニターに写し体内を見ます。腫瘍の大きさや形、広がり、腹水の有無、肝臓の形状等を調べます。 - CT、MRI
CTはX線、MRIは磁気により内部を画像化して体内を見ます。造影剤を注射するとより細部まで観察できます。がんのタイプや深さ、転移状況等を調べます。 - 血液検査
肝細胞が壊れると血液中に流出するアミノ酸代謝にかかわる酵素、ALT(GPT)、AST(GOT)、γ-GPT等の数値をチェックします。肝臓に異常があると数値が上昇します。 - 腫瘍マーカー
尿や血液を採取、分析します。調べたい部位のためにそれぞれのマーカーがあり、数値が高いとがんの可能性が高いことが分かります。
肝臓がんの治療
治療方法は、がんの進行度(大きさ、個数など)により決めます。主な方法を見てみましょう。
- ラジオ波焼灼療法(RFA)
3センチ以内、3個以内が主な対象です。針状の電極を差し込み電流を流しがんを焼灼します。 - 手術
いちばん広く行われている方法で、肝機能がどれだけ残っているかにより方法を決めます。状況が良ければ、がんとその周囲の組織を切除する肝切除手術、切除で機能を果たせなくなる場合は、肝移植手術を行います。日本では、生体肝移植がほとんどです。 - 抗がん剤
個数が多い場合、肝内病変が進展した症例、転移も有する症例には、肝動脈塞栓術、肝動注化学療法、分子標的薬内服療法があります。
肝臓がんの予防
肝臓がんは、健康な肝臓からは殆ど発生しないため予防が有効です。
肝臓に炎症を引き起こすウイルス感染リスクがある人は、早めの検査と抗ウイルス療法を。また、アルコールの量に気をつけ、適度な運動やバランスの良い食事を摂ることが大切です。そして、定期的な健康診断を習慣に、不安を感じたら早めに医師に相談しましょう。
仁愛内科医院 院長今川 宏樹
【経歴・資格・所属学会】
広島大学医学部医学科卒業
広島大学医学部附属病院・県立広島病院・中国労災病院・井野口病院・公立みつぎ総合病院・JA尾道総合病院・国立病院機構 呉医療センター・広島記念病院などで勤務