部活の試合に勝ちたい、太らない体になりたい、年齢を重ねても健康で元気な暮らしがしたい。トレーニングの目的を達成するために、しっかりと休みましょう。
さまざまな理由から、トレーニングをする方が非常に多い現代。トレーニングに関する情報は一般的なものとなり、インターネット上にも情報が氾濫しています。
トレーニングをして体を鍛えるために休息が必要であるということは、常識になっていますよね。ここでは、なぜトレーニングに休息が重要なのか、おさらいしていきましょう。
トレーニングはアスリートの競技力向上から高齢者の介護予防まで、多くの人を対象として広く研究が行われており、非常に多くの研究結果が残されています。どれだけの負荷をかけるのがよいか、どれくらいのペースで行うのがいいか、など具体的な内容が研究結果として報告されています。
トレーニングにかかわる研究を行う大きな団体としてAmerican College of Sports Medicine(ACSM)がありますが、ACSMは一般的な方に対して週に2回トレーニングを実施することを推奨しています。その他スポーツ医学や循環器の権威ある雑誌にも、週2-3回の頻度で運動を行うのが良いとする論文が掲載されています1)。
なぜ毎日ではなく、週2-3回がいいのか。それは従来から「超回復」という言葉を使用して説明されてきました。厚生労働省のホームページには、次のように記載されています。
トレーニングにより傷ついた筋肉は、修復される時に強くなるため修復の時間が必要であるとする考え方です。毎日トレーニングをしてしまうと、ダメージが蓄積して逆に筋力が低下してしまう可能性すらあります。
近年ではこのような考えに異を唱える方もいて、筋肉はそう簡単に傷つかない、という考えもあるようですが、そのような方々もトレーニングに休養が必要であるという点では一致しています。
それでは、過剰なトレーニングを行うとどうなるのでしょうか?国内の研究グループは16の研究論文をまとめた結果から、週に130-140分をこえる時間トレーニングを長期間行った人は、週に30-60分トレーニングを行う人と比較して心血管疾患などのリスクがむしろ高まることを明らかにしました3)。
せっかくがんばってトレーニングをしているのに、かえって健康リスクを高めてしまっては元も子もありませんよね。
多少健康リスクが高くなっても、今試合に勝つために、トレーニングをがんばりたい!そのように考える学生の方やアスリートの方がいるかもしれません。そのような方にお伝えしたいのは、オーバートレーニング症候群の怖さです。
オーバートレーニング症候群とは、過剰なトレーニングが原因で過労となり、その結果パフォーマンスが低下し、休んでも簡単には回復できなくなってしまった状態のことをいいます。いつも疲労を感じた状態になるため思うようにプレーができず、パフォーマンスが低下します。
それだけでなく動悸や息切れ、立ちくらみなどからだの症状、そしていらだちや不安、抑うつなどこころの症状を起こすことがあります。時には心療内科の受診が必要になるほど症状が進行することもあります。
試合に負けた悔しさから人一倍トレーニングをがんばるというのはもちろんいいことではあるのですが、がんばりすぎると逆効果となり良い結果にはつながりません。その悔しさがまた重なりさらにがんばりすぎてしまう。そのような悪循環が考えられます。
オーバートレーニング症候群は、症状が悪化するとプレーの続行が困難になる、怖い病気です。
トレーニングの効果を最大限に得るためには、休息が必要です。休息の取り方には、大きく分けて積極的休息と消極的休息の2つがあります。
積極的休息とは、休む時になにもしないのではなく、軽い運動などを行うことで血流を良くして早く疲労を回復させようとする休息のやり方です。具体的にはストレッチや軽いランニングなどの有酸素運動、入浴などが考えられます。気分転換にも有効です。
一方で消極的休息とは、何もせずにゆっくりと体を休めることです。強い疲労やストレスが蓄積している場合には、このような休息方法が必要な場合があります。からだが耐えることのできる疲労やストレスには個人差があるため、トレーニングの内容や本人の体調に合わせてうまく休息の方法を選択していく必要があります。
ただし消極的休息を長く続けると、かえって疲労感やだるさが残ることもあるため、注意が必要です。
トレーニングには休息が重要であり、睡眠は休息の基本ともいえる大事な要素です。トレーニングの効果と睡眠には密接な関係があります。
米国睡眠学会は、一般成人は毎日7時間以上の睡眠を推奨しています。激しいトレーニングをするアスリートや、日常的に体を鍛えている人は、より長時間の睡眠が必要である可能性があります。
日中に運動やトレーニングをすると、夜寝つきが早く、ぐっすりと眠れるようになります。睡眠には深い眠りであるノンレム睡眠と、浅い眠りであるレム睡眠がありますが、運動後はノンレム睡眠が増加し、睡眠時間が長くなることが確認されています。ノンレム睡眠中には、体を修復するホルモンである成長ホルモンが多く分泌されるため、トレーニングの効果を最大限に発揮するためにも、ノンレム睡眠は非常に重要なのです。
実際に睡眠時間と運動パフォーマンスの関係を比較した研究はいくつもあります。通常よりも短い睡眠時間でダーツを投げる研究や、テニスサーブの正確性を見る研究があり、いずれも睡眠不足の状態では正確性が落ちることがわかりました4)。
細かい作業や正確性と睡眠不足の関係というのはイメージしやすいものですが、睡眠不足の状態ではウェイトリフティングやベンチプレスなど筋力が十分に発揮されないことを示した研究もあります4)。筋力を鍛えるためにトレーニングをしているわけですから、興味深い結果ですよね。
逆に睡眠時間を長くした研究もあります。大学生のバスケットボール選手に毎日少なくとも10時間の睡眠を1-2ヶ月とらせたところ、短距離走のタイムやフリースロー、スリーポイントシュートの成功率が向上したという結果でした4)。
慢性的な睡眠不足のことを「睡眠負債」と呼び注目を集めています。日本人は国際的にも睡眠時間が短いことが知られており、生産性の低下が社会問題となっています。その原因の一つがスマートフォンやPC画面を夜遅くまで見てしまうことです。トレーニングの効果を十分に得たければ、自分の睡眠を見直してみてはいかがでしょうか?
トレーニングを行う方にとって、休息が重要である理由を解説しました。一生懸命トレーニングをしても、十分に効果が得られなかったり、逆効果になってしまったりするとその努力も時間ももったいないですよね。
うまく休息を取り入れたトレーニングを実践して、皆さんの目指す姿や目標を達成できることを願っています。
患者さんやご家族が病状や治療について十分に理解し、医療職と協力しながら本人にとって最善の治療を選択していくこの時代。
医師も積極的に正しい情報発信をするべきと考え、医療ライターとして活動しています。
「よく分からないけど、お医者さんの言うことだから聞いておけば安心。」
「医者の言うことは、難しくて分かんね。」
そんな思いを抱えながら治療を受けることも多いでしょう。
しかし医療に絶対はありません。
どのような治療結果になったとしても、そのプロセスや治療内容を理解することで次に進むことができます。
医療の進歩はめざましく、施設によって方針が異なる場合もあります。
記事を参考にして、主治医とよく相談し後悔のない治療を受けてほしいと願っています。
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