副睾丸、正しくは精巣上体と呼ばれる臓器ですが、どのような臓器かご存知でしょうか?
精巣上体は精子を作ることはありませんが、精子を成熟させるために重要なはたらきを持っています。今回の記事では、以下のことを紹介します。
あまり知られていない体のパーツ、精巣上体について学んでいきましょう。
男性の精巣には2つの役割があります。ひとつは精子を作ること、そしてもうひとつは男性の体の成長・発達に必要な男性ホルモンであるテストステロンを分泌することです。
成人男性の精巣は卵のような形をしており、大きさは15ccほど。精巣と精巣上体はお母さんの妊娠中は赤ちゃんのお腹の中にとどまっていますが、生まれる直前までには鼠径部(そけいぶ)と呼ばれる足の付け根の部分を通って陰嚢の中へ降りてきます。そのあと精巣は精巣上体とともに陰嚢の中から動くことはありません。
精巣は白膜という固い膜でおおわれ、外からの衝撃から精巣を守ります。精巣の中にはうずまき状の精細管が詰まっており、精細管では毎日精子が作られています。精細管の周囲にはライディッヒ細胞と呼ばれる細胞が存在し、ライディッヒ細胞からは男性ホルモンと呼ばれるテストステロンが分泌されます[1]。
精細管で作られた精子は、まだ動くことや泳ぐことができません。精巣で作られた精子は、精嚢網という細い管を通って精巣上体へ送られます。精巣上体は頭部、体部、尾部 の3つの部分に分けられ、精巣上体の中は精巣上体管と呼ばれる細い管がおりかさなるように走っています。精巣上体管の長さは6m以上あるとされ、精巣から出てきた精子は精巣上体の中を10日ほどかけて頭部、体部、尾部へと通るうちに成熟。成熟した精子は、運動能を獲得します[1]。
精巣に出入りする血管は精巣動脈と精巣静脈で、精子を送る精管とともに精索という束を作っています。精索は鼠径部を通って体の中に入り、精管は尿道につながっています
射精のさいに精巣上体にとどまっている精子は精管から送り出され、前立腺から分泌される液と混ざり合って精液として射出されます。運動能を獲得した精子は射精後に子宮・卵管を泳いで卵子と出会い、受精します。精巣上体は精子に力を与える不思議な力を持った器官と言えるでしょう。
精巣上体の病気には痛みを伴うものと痛みを伴わないものがあり、痛みを伴う病気は急性陰嚢症とよばれます[2]。精巣と精巣上体は近くに位置しているため、痛みがあるのが精巣なのか、精巣上体なのかは分からないでしょう。いずれにせよ、痛みが出た際には速やかに医療機関を受診してください。一方、痛みが出ない病気の中には精巣腫瘍などの重大な病気が隠れている可能性も。超音波検査である程度の診断がつく場合が多いので、お困りの際はお近くの泌尿器科にご相談ください。
精巣上体の病気として頻繁にみられるものは精巣上体炎です。多くの場合、細菌がペニスの先から川をさかのぼるように尿道を上がっていき、前立腺に開口している射精口から精管に侵入。精管を逆流した細菌は精巣上体にたどり着きます。精巣上体と精巣の間にはバリアのようなものがあるため精巣まで菌がたどりつくことは少ないのですが、精巣上体にとどまった細菌は精巣上体で炎症を起こします。精巣上体で激しい炎症を起こすと、痛みをともなったしこりのようなものを陰嚢内に触れることができます。また、高熱に悩まされるケースもあるため注意が必要です。
精巣垂と呼ばれる小さな粒のようなものが、精巣上体にくっついていることがあります。精巣垂の多くはヒトが赤ちゃんになる時になくなっているのですが、まれに生まれてからも残り、ねじれてしまうと急激かつ激しい痛みをおこします。これが精巣上体垂捻転(ねんてん)です[3]。精巣上体垂は急性陰嚢症のひとつで、速やかな対処が必要な病気です。
精巣から精子を送る通り道は精巣上体と精管ですが、精巣上体や精管の壁がもろくなっているところ、とりわけ精巣上体の頭部がやぶれて精液がたまってしまう病気が精液瘤です[4]。精液瘤はそのままにしておいても問題はないことが多いのですが、歩くのにこまってしまうほど大きくなることもあるため、必要に応じて手術を行います。
精巣上体は副睾丸とも呼ばれ、精巣とくらべてもあまりなじみの無い臓器かも知れません。しかし、精子に泳ぐ能力を与えたり、精巣に細菌が感染することを防いだり、役割の多い臓器と言えるでしょう。精巣上体の病気の一部には、急性陰嚢症と呼ばれる急激な病気もあるため、気になる症状がある際は医療機関を受診しましょう。
医師、泌尿器科専門医、性機能専門医、性感染症専門医、抗加齢専門医、医学博士。都内での初期研修・後期研修ののち、大学・基幹病院での臨床・研究に従事。国内外の論文(エビデンス)をもとにした一般向けのわかりやすい医療記事の執筆が得意。趣味が高じてファイナンシャルプランナー2級・福祉住環境コーディネーター3級を取得。
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