「一生モノの家」とはどんな家か考えたことはありますか?
私は理学療法士として働いている中で、「歳をとっても住み続けられる家」の大切さを身に染みて感じています。例えば病院勤務の際には退院前の自宅訪問や、デイサービス勤務の際には利用者様のお宅へ送迎をする中などです。
しかし、自分が高齢になった時のイメージは、なかなか想像できませんよね。
そこで今回は、理学療法士が考える「一生モノの家づくり」についてご紹介させていただきます。
車のガレージには屋根がある方が、車への乗り降りがスムーズです。
また、費用面から雑草対策に砂利を敷いているお宅があります。しかし車いすの場合はもちろんですが、杖で歩く際にも砂利は不安定となります。コンクリートで補正しておくと、転倒しにくくなるので安心です。
また玄関の軒も広めにとっておくのもオススメです。車いすで自宅に入る際、玄関先で車いすのタイヤについた泥を拭き取ります。玄関に入る前に綺麗にしておけるスペースがあると、家の中が汚れません。
玄関の軒が広く取れない場合でも、玄関を広めにとっておけば泥を拭く作業がスムーズです。
最近よく聞く「土間玄関」はとてもオススメになります。
老後は車いすを置くスペースとして活躍します。またはシルバーカーなども置く場合があるかもしれません。屋外に置いておくより、自宅内で管理できた方が安心ですので、玄関は広めにとっておいてください。
子育て世代の場合にも、ベビーカーや子供用の自転車を置くことができるので、土間玄関はメリットが多い間取りです。
最近では廊下の無い間取りが多いですね。
もし廊下が必要な場合、片側はフラットな状態で残しておいてください。
将来、手すりが必要になった時に建具が多いと手すりを設置できないためです。
利用者様の中には、自宅で「ベッド上の生活が長くなってしまう」という悩みを抱えていらっしゃる人も多いです。
そのような方はデイサービスの送迎の際に、外の空気に触れるととても喜ばれています。
高齢になると自由に屋外へ出ることが難しくなります。そんな時、リビングでも外を感じられるような間取りがオススメです。寝たきりの生活を余儀なくされても気分転換が簡単に図ることができます。
最近は吹き抜けや、Fix窓を採用したり、屋内と屋外の境界を無くしたりする間取りが多くなってきました。
若い世代にはもちろんですが、外を感じられる間取りは、老後こそ需要のある間取りになります。
火事の観点から、ガス火からIHにされる方も多くいらっしゃいます。
逆にペースメーカーになったため、IHからガス火に変更された方も居ます。
しかしペースメーカーの場合、絶対に使用してはいけないわけではありません。「ペースメーカーから50㎝離れていれば安全」とも言われていますので環境調査を行い、どこまで近づけるのか調べる必要があります。
その時のライフスタイルに合わせて、変えていく必要があるかもしれません。
老後も考えると、理想的な間取りは「平屋」です。
しかし、平屋にするためには土地が必要で、不可能な場合も多いと思います。
そんな時は、夫婦の寝室だけでも1階にもってくるか、狭くても良いのでリビングに隣接する部屋を作ってください。
将来的に2階に上がることが難しくなった時に、1階でも眠れる環境を整えておけるからです。
可能であれば玄関の近くに寝室をもってくれば、歩くことが不安定になっていても楽に移動できます。
もし車いす生活になって介助が必要になった場合、トイレが狭くては介助者が入るスペースがありません。
トイレに入れないと、部屋の中にポータブルトイレを設置したり、オムツや尿瓶で用を足したりする場合があります。
介助が必要になった場合のトイレの理想的な広さは2畳です。しかし「リビングを広く取りたい」など、若い時にはトイレの優先順位は低くなってしまいます。
そんな時には、将来的にリフォームができるよう、納戸や家事室をトイレと隣接させた間取りにする方法があります。
そして、可能であればトイレは寝室の近くに設置すると良いです。歳をとると夜中に起きてトイレに行く回数が増えてしまいますので……。
若い時には脱衣場は服を脱ぐだけなので、そんなに広くとる必要はありません。
しかし、高齢になると立って服を脱ぐ動作が不安定になります。そんな時は椅子を置いて着脱するのが安全です。ある程度の広さを確保しておくと良いでしょう。
共働き夫婦が増えて、ランドリールームの需要が増えてきています。
余裕があれば水回りやランドリールームも1階にもってくるのが理想です。老後の金銭面を考えると、サンルームにして電気代の必要のないようにする方法もあります。
またはドラム式にして干す労力を削減するのも良いかもしれません。
いずれにしても、水回り・ランドリールームに加えてWICも隣接する間取りにすると、家事動線がスムーズになります。
将来的に急な入院で、家族に着替えを用意してもらわなければならない際に、着替えが一か所にまとまっていると家族も探しやすくなります。
建具は引き戸がオススメです。開き戸の場合、手前に引く際には一歩後ろに下がらなければなりません。高齢になると、この後ろに下がる動作の際に転倒する場合があります。
2階建ての場合、1階部分だけでも引き戸を採用すると良いでしょう。
また「老後のことを考えて……」と不要な手すりを前もって設置する必要はありません。「住宅改修」を行う際には、所得に応じて負担割合が1~3割の負担で手すり等を設置できる制度があります。
病気になった際の状態も人それぞれです。退院する際には、専門のリハビリスタッフや福祉用具の業者が、不要な改修を行わなくて良いようアドバイスをしてくれます。
いかがでしたでしょうか?
「3回建てれば理想の家ができる」とは言いますが、3回も家を建てることは現実的に難しいですよね。
将来のことばかり考えて、今の理想の家を諦める必要はありません。将来的にリフォームを視野に入れながら間取りを考えれば、一生モノの家づくりが完成します。
今回の記事を参考にしながら、老後も安心して住める家づくりを楽しんでみてくださいね。
本業では約10年間、病院での理学療法士業務を経験し、現在はデイサービスで機能訓練指導員として働いています。 プライベートでは、小学2年生と3歳の兄弟の子育てに日々奮闘しながら、ライターとしても活躍中です。