口腔にまつわる病気の多くは、歯垢や歯石といった汚れが発端となります。歯垢・歯石は、細菌の温床となるため、歯周病や虫歯といった細菌感染症リスクを増大させるのです。
歯垢や歯石はそれ以外にも口腔内にさまざまな悪影響をもたらすことから十分な注意が必要といえます。
透明マウスピース矯正を展開する株式会社Zenyum Japanが行った「新社会人の歯に関する意識調査」では、この歯垢・歯石に悩んでいる方が全体の26.4%を占めていました。かなり高い数値となっていますが、新社会人の方々も歯垢・歯石の有害性を理解しているからなのでしょう。ここではそんな新社会人の1/4が悩む歯垢・歯石の特徴や放置するリスク、自分または歯科医院で取り除く方法について詳しく解説します。
この調査では、悪い歯並びや歯の黄ばみ、口臭に関する悩みが上位を占めていました。いずれもひと目でわかる、あるいは周りの人に迷惑をかけるという点で、自覚しやすい症状ばかりです。これらが新社会人の歯に関する悩みで上位にくるのはよくわかりますが、歯垢・歯石となると少し印象が変わりますよね。歯垢・歯石は汚れの一種なので、それ自体が具体的な症状を引き起こしたり、周囲の人に嫌な思いをさせたりするようなことはないからです。
けれども、歯垢・歯石の堆積は、上位を占める悩みと密接な関連があるのも事実なのです。なぜなら歯垢や歯石がたまっていると、歯の黄ばみや着色を促すだけでなく、口臭も強くなります。また、歯並びに乱れがあると、清掃性が悪くなることから、歯垢・歯石の沈着が目立ちやすくなっています。つまり、社会に出て歯への意識が高まると同時に、多くの悩みの根本に歯垢・歯石が存在していることに気づくのでしょう。歯に関する悩みでは、虫歯や歯周病、親知らずの腫れなどもランクインしていますが、これらも歯垢・歯石を正しくケアしていないことが原因といっても過言ではないのです。
はじめに、歯垢の基本事項を確認しておきましょう。
歯垢は、歯の表面に付着するプラークとも呼ばれる汚れで、白色または黄白色を呈しています。鏡を見て、歯面にネバネバとした白い汚れが付着していたら、それが歯垢です。歯垢は80%が水分、残りの20%は有機質(ほとんどが細菌体)で構成されています。歯垢には、1mgあたり1億個以上の細菌が存在していることから、この汚れは“細菌の塊”と表現されることもあります。ただ、歯垢は歯ブラシによるブラッシングでも容易に取り除けることから、セルフケアを徹底していれば堆積するようなことはありません。
歯垢のできやすさは、人によって変わります。次に挙げるような特徴がある方は、歯垢ができやすいため注意が必要です。
歯垢は、食事から4~8時間くらい経過すると形成されます。この時間を長いと感じるか、短いと感じるか。それは個々人の価値観によって変わりますが、基本的には短いと捉えておいた方が口腔ケアへのモチベーションも高まることでしょう。歯垢ができやすい人の特徴に当てはまる場合は、より短い時間で歯垢が形成される点にも注意が必要です。
歯垢は、単なる食べかすではありません。上述したように細菌の塊であることから、放置しているとまず口臭が強くなります。続いて、飲食物の色素が沈着して黄色くなり、歯を黄ばませることでしょう。さらには、虫歯や歯周病といった細菌感染症のリスクを高めていくのです。
歯垢のほとんどは水分で構成されているため、歯ブラシによるブラッシングで取り除けます。ただし、自己流の磨き方ではプラークフリーな状態を作ることは困難であることから、必ず歯科医院でのブラッシング指導を受けるようにしましょう。自分の歯の形や歯並びに合ったブラッシング法を身に付けることで、歯垢がない衛生的な口内環境を自分で作れるようになります。
次に、歯石に関する基本事項を確認しておきましょう。
歯石とは、歯垢が唾液による石灰化を受けて、文字通り石のように硬くなった汚れです。歯石の80%はリン酸カルシウムで、残りの20%は細菌の死骸や炭水化物、タンパク質などで構成されています。歯垢とは異なり、水分がほとんどありません。同時に、細菌体が占める割合が比較的少ないのも歯石の特徴といえるでしょう。そのため歯石自体の病原性はそれほど高くはないのですが、歯やお口の健康においては、歯垢以上に有害といえます。それは後段の「歯石を放置するリスク」で詳しく解説します。
歯石ができやすい人の特徴は、歯垢ができやすい人の特徴と共通している部分とそうではない部分があります。それは歯垢と歯石の成り立ちが少し異なるからです。そこでまずは歯石ができやすい人の特徴を列挙します。
上から3番目までの特徴は、歯垢ができやすい人と共通していますが、4・5番目に関しては全く異なる、あるいは逆の特徴を有しているともいえます。というのも、歯垢は唾液の分泌量が多く、ネバネバとした性質を帯びている人の方が形成されやすいからです。一方、歯石は唾液に含まれるリン酸やカルシウムが歯垢に沈着することで形成されるものなので、pHが高く、分泌量が多いほど作られやすくなります。ちなみにこの2点は、原則として虫歯予防に寄与するため、一見すると矛盾しているように感じられるかもしれません。
ここまでの解説で、歯垢と歯石は似て非なるものであることはわかっていただけたかと思います。続いて気になるのが「歯石ができるまでの時間」ですね。歯垢は、食後4~8時間程度で形成されますが、再石灰化作用を必要とする歯石は、もう少し長いスパンで作られます。具体的には、歯垢の形成から2日程度で石灰化が始まり、2週間程度経過すると立派な歯石が作られます。ですから歯石は、歯垢を2日以内に取り除くことができれば、その形成を完全に防げるのです。
歯石を除去せず放置していると、次に挙げるリスクが生じます。
歯垢や歯石が付着していない歯は、表面がツルツルなので細菌の定着が起こりません。一方、歯石が付着している歯面はザラザラで、細菌が住み着きやすく、病原性が高まっていきます。さらにその上から歯垢の沈着が進み、口内環境がどんどん悪化していきます。
細菌の温床となった歯石では、悪臭を放つ物質が大量に作られるようになります。とくに歯周病菌が産生する「メチルメルカプタン」という揮発性のガスには要注意です。専門的にはペリオ臭とも呼ばれるガスで、腐った玉ねぎのような臭いを放ちます。家族や友人、パートナーなどからそうした口臭を指摘された場合は、歯周病が疑われますので、まずは歯科を受診しましょう。そのまま放置すると社会人生活においても悪影響が及びかねません。
歯周病は、歯石の形成から始まる病気と言っても過言ではありません。歯と歯茎の境目に歯石がたまり、そこを住処として歯周病菌が繁殖して、歯周組織に炎症をもたらします。その状態が長く続くと、歯周ポケットが深くなったり、歯茎や歯槽骨が吸収したりするため、十分な注意が必要です。
歯石は、基本的に自分で取ることはできません。ドラッグストアや薬局などで販売しているスケーラーを使えば、ガリガリと削り取ることは可能ですが、正しい知識や技術がない人がそれを行えば、ほぼ100%歯や歯茎を傷めることになります。歯科医師や歯科衛生士といった専門家であっても、歯石取りを自分で行う人はほとんどいません。自分の歯石取る行為というのは、それくらい難しいことなので、一般の人は行わないようにしましょう。
歯垢や歯石は、歯科医院を受診することで安全かつ確実に取り除くことができます。
セルフケアでは取り除けない歯垢は、歯科医院のクリーニングで除去してもらいましょう。口腔ケアの専門家である歯科衛生士が機械のブラシや専用の薬剤などを駆使して、歯列の隅々まで清掃してくれます。本当の意味でプラークフリーな状態を作れるのは、歯科医院のクリーニングに限られます。
スケーラーを使って歯石をガリガリと削り取る処置をスケーリングといいます。歯科医院では手で動かすタイプの「手用スケーラー」と電動の「超音波スケーラー」の2つを使い分けながら、患者さんの歯石を丁寧に除去していきます。歯周病を発症している場合は、スケーリングの際に出血を伴いますが、その点は気にせず処置を受けるようにしてください。もちろん、その状態を放置して良いということではなく、必ず歯周病治療も受けることが大切です。近年は、スケーリングのために定期的な通院をしている方も増えています。おそらく、新社会人になった皆さんの先輩にも、ヘアケアやスキンケアの延長で、クリーニングやスケーリングを受けている方がたくさんいらっしゃることでしょう。
最後に、歯垢や歯石の形成を予防する方法をご紹介します。とくに歯石は一度、形成されると自分では除去できなくなることから、できれば歯垢の段階できれいに取り除いておきたいものです。
毎日のセルフケアは歯垢や歯石の予防に欠かせません。歯ブラシは柔らかめのものを選び、歯茎との境目を意識してブラッシングしましょう。歯間ブラシやフロスを使用することで、歯と歯の間に詰まった食べかすを効果的に取り除けます。歯磨き粉はフッ素入りのものを選び、むし歯予防にも役立てましょう。
食事をする際にしっかり噛むことも、歯垢や歯石の予防に有効です。噛むことで唾液の分泌が促進され、唾液は口内の自浄作用を高める働きを持っています。特に硬い食品や繊維質の多い野菜を積極的に摂ることで、自然と噛む回数が増え、唾液の分泌が促進されます。これにより、食べかすが歯に付着しにくくなり、歯垢の形成を防ぐことができます。
また、虫歯の穴や歯の欠損があるとしっかり噛めないので、早期に歯科を受診し治療しましょう。
口内が乾燥すると、唾液の自浄作用が低下し、歯垢が付きやすくなります。まずは水分を十分に摂取するようにしましょう。また、口呼吸ではなく鼻呼吸を心掛けることで、口内の乾燥を防ぐことができます。特に夜間の口内乾燥を防ぐためには、就寝前にコップ一杯の水を飲むと良いでしょう。口内が乾燥しないようにすることで、歯垢や歯石の予防に繋がります。
最後に、定期的に歯科検診を受けることが重要です。歯垢や歯石は自己ケアだけでは完全に取り除けない場合があります。定期的な歯科検診を受けることで、プロフェッショナルなクリーニングを受けることができ、歯垢や歯石の蓄積を防ぐことができます。また、歯科医師のアドバイスを受けることで、自分に合ったセルフケアの方法を見つけることができます。
以上のポイントを実践することで、歯垢や歯石の形成を効果的に予防できます。毎日のセルフケアと定期的なプロフェッショナルケアを組み合わせて、健康な口腔環境を維持しましょう。
今回は、新社会人の方も気にしている歯垢・歯石を放置するリスクや取り除く方法について解説しました。歯垢や歯石は細菌の温床となるため、口臭が強くなりがちです。口臭が強いと、職場での人間関係にネガティブな影響が及ぶだけでなく、取引先との面談でも支障をきたすことが多くなります。
また、歯垢・歯石によって虫歯や歯周病を発症すると、痛みで集中力が低下したり、歯科治療のために多くの時間を割かなければならなくなったりするため、放置はせずにしっかり除去していきましょう。そのためには歯科医院を定期的に受診して、クリーニングやスケーリング、ブラッシング指導を受けることが必須となります。3~4ヵ月に1回、30~45分程度の診療を受けるだけで、さまざまなお口のトラブルを予防しやすくなる点は極めてコストパフォーマンスが高いといえます。
メディックス歯科クリニック 院長の荒槙 信雄(あらまき のぶお)です。
当医院は患者さんにやさしい治療を行うことを心がけています。患者さんとのコミュニケーションを大事にし、誠実に診療をさせていただきます。
口腔にまつわる病気の多くは、歯垢や歯石といった汚れが発端となります。歯垢・歯石は、細菌の温床となるため、歯周病や虫歯といった細菌感染症リスクを増大させるのです。
口腔にまつわる病気の多くは、歯垢や歯石といった汚れが発端となります。歯垢・歯石は、細菌の温床となるため、歯周病や虫歯といった細菌感染症リスクを増大させるのです。...続きを読む