ダイエットに効く漢方薬といえば、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)が有名です。薬局やドラッグストアでなんとなく防風通聖散を手に取り、体重を減らすために服用している方も多いのではないでしょうか。
防風通聖散は、お腹がぽっこり出ている中年向けの商品から、スリムになりたい女性をターゲットにした商品までさまざまなものが販売されています。
防風通聖散には、次の18種類の生薬が含まれています。
含まれている生薬のエキス量は、商品によってやや違いがあります。
防風通聖散の効能効果は、次のとおりです。
高血圧や肥満に伴う動悸・肩こり・のぼせ・むくみ・便秘、蓄膿症(副鼻腔炎)、湿疹・皮膚炎、ふきでもの(にきび)、肥満症
肥満症だけでなく、便秘や蓄膿症、のぼせやむくみなどさまざまな症状に効果を発揮します。
防風通聖散は、体力が充実している方向けの漢方薬です。体力が中等度の方、虚弱方などには向いていません。元から痩せておりあまり体力がないように見える方が防風通聖散を購入している光景を見ることがよくありますが、体力に合わない方が服用しても効果が出ないことがあるので注意しましょう。
また、極端に体力が低下している方が服用すると、副作用が出やすくなることがあります。参考までに、体ががっちりしており胃腸が丈夫で体温が高い方は体力が充実していると考えられます。
BMIが30以上の方は、合併症がない限り体力が充実していると考えることが一般的です。胃腸が弱く冷えやすい方は体力虚弱なので防風通聖散の服用は適していません。
防風通聖散の効能効果に「肥満症」とあることから、ダイエットに効果があるといえるでしょう。東海大学医学部の研究では、体重や体脂肪を減少させる効果があることが明らかになっています。防風通聖散を24週間続けて服用してもらったところ、体重と体脂肪の減少が確認されました。
また、内臓脂肪の量も減少していることが明らかになっています。具体的には、プラセボ群での胴囲の減少は9.3cmでしたが、防風通聖散を服用したグループでは17.3cmもの減少が見られました。
胴囲やヒップ周囲の減少も見られていることから、ある程度の期間続けて服用することで効果が出てくるといえるでしょう。
防風通聖散はダイエットに良い漢方薬として知られている一方で、無闇に服用を続けるリスクについてはあまり知られていません。誰でも手軽に購入できる防風通聖散ですが、リスクもあるということをしっかり把握しておきましょう。
どのような薬にも、必ず副作用があります。防風通聖散だけ特別に副作用が出やすいわけではありませんので心配しすぎる必要はありません。一般的な副作用としては、次のようなものが報告されています。
過敏症 | 発疹、そう痒 |
---|---|
自律神経系 | 不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮 |
消化器 | 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、軟便、下痢 |
泌尿器 | 排尿障害 |
このうち、よく聞かれるのが腹痛や下痢です。防風通聖散には、便通を改善する効果もあります。この効果が出すぎると、腹痛や下痢が生じてしまうのです。
防風通聖散の服用が原因で薬剤性膀胱炎の副作用が出た例が報告されています。70歳の女性が8年間にわたり防風通聖散の服用を続けたところ、排尿痛と無菌性膿尿が出てしまったのです。防風通聖散の服用を中止して4日後には膀胱炎の症状は消失しました。
防風通聖散の副作用によって、薬剤性肝障害をきたす可能性があることも知られています。防風通聖散を服用している30~59歳の女性で薬剤性肝障害が起きやすいことが明らかです。そのため、過度な使用は避け、正しく服用する必要があります。
防風通聖散の服用時に知っておくべき注意点
防風通聖散はどなたでも服用できる漢方薬というわけではありません。次のような注意点もあります。
- 体力が充実している方以外は服用しない
- 改善が見られない場合は無闇に服用を続けない
- 偽アルドステロン症に注意する
- 長期にわたって服用する場合は定期的にCTや大腸内視鏡などの検査を受ける
- ダイオウを含むほかの漢方薬との併用に注意する
- ダイオウの瀉下作用によって腹痛や下痢をきたすことがある
偽アルドステロン症とは、漢方薬に含まれているカンゾウを摂りすぎることで高血圧やむくみ、カリウム喪失などの症状が出るものです。防風通聖散にはカンゾウが含まれているので、ほかの漢方薬と併用するときはカンゾウの量が過度にならないように気をつける必要があります。
また、防風通聖散にはサンシシが含まれています。サンシシを5年以上続けて服用すると、大腸に色調異常が出たり浮腫やびらん、潰瘍が見られたりする腸間膜静脈硬化症が生じる恐れがあるため注意が必要です。
安易に防風通聖散の服用を続けずに肥満外来を受診しよう
防風通聖散は、どなたでも気軽に購入できる漢方薬のため、ダイエットのお供に使用する方が後を絶ちません。しかし、誤った方法で使用を続けると、思わぬ副作用を起こすことがあります。体重が気になる場合は、肥満外来の受診も検討してみてください。
肥満の定義
日本肥満学会では、BMIが25以上の場合を肥満と定義しています。普通体重はBMIが18.5以上、25.0未満です。なお、標準とされるBMIは22となっています。これは、高血圧や糖尿病、脂質異常症にもっともかかりにくいといわれているBMIです。
肥満を放置しておくことのリスク
肥満の状態が続くと、生活習慣病を発症するリスクが高くなります。生活習慣病とは、糖尿病や脂質異常症、高血圧や心血管疾患など生活習慣が関与して発症する病気のことです。日本では食の欧米化が進んだことで、急激に肥満の方が増えています。
医師の管理のもと体重を減らすことができる
肥満外来を受診すると、一人ひとりの生活習慣や体重に合わせた適切な治療を受けることができます。市販では防風通聖散のみしかほとんど選択肢がありませんが、肥満外来ではサノレックスやウゴービなど専用の薬を使った治療を受けられます。
サノレックスは、肥満度が+70%以上またはBMIが35以上の方が使用できる食欲を抑えるための飲み薬です。ウゴービは皮下注射をすることで食欲を抑えます。
防風通聖散に関するQ&A
最後に、防風通聖散に関して良く聞かれる質問にお答えします。
防風通聖散を飲み続けても良いですか?
防風通聖散を長期にわたって服用するのはおすすめできません。配合生薬の一つであるサンシシには、腸間膜静脈硬化症を生じるリスクがあります。長期的に服用したいと考えている方は、医師の指示のもとで服用しましょう。
防風通聖散を市販で購入しても良いですか?
防風通聖散は市販で購入しても問題ありません。ただし、併用薬がある方、治療中の病気がある方は登録販売者や薬剤師に相談しましょう。また、1か月程度服用しても効果が見られない場合も一度相談するようにしてください。
防風通聖散と飲み合わせが悪い薬はありますか?
併用禁忌の薬はありませんが、併用に注意が必要な薬がいくつかあります。
- マオウ含有製剤
- エフェドリン類含有製剤
- カンゾウ含有製剤
- 甲状腺製剤
- グリチルリチン酸を含有する製剤など
まとめ
防風通聖散は、肥満症に対して効能効果をもつ漢方薬です。ドラッグストアや薬局などで気軽に購入できることから、服用したことがある方も多いでしょう。ただし、体質に合わない方が服用すると、思わぬ副作用が起こる可能性があります。服用を始めて腹痛や下痢が続くようでしたら、体に合っていないのかもしれません。
また、薬剤性膀胱炎や薬剤性肝障害などの副作用も報告されています。気軽に購入できる漢方薬だからこそ、正しい使い方で服用することが大切です。
薬剤師としてドラッグストアで働いていくなかで「このままではいけない」と日に日に強く思うようになっていきました。なぜなら「市販薬を正しく選べている方があまりに少なすぎる」と感じたからです。
「本当はもっと適した薬があるのに…」
「合う薬を選べれば、症状はきっと楽になるはずなのに…」
こんなことを思わずにはいられないくらい、CMやパッケージの印象だけで薬を選ばれている方がほとんどでした。
市販薬を買いに来られる方のなかには「病院に行くのが気まずいから市販薬で済ませたい」と思われている方もいるでしょう。かつての私もそうでした。親にも誰にも知られたくないから市販薬に頼る。でもどれを買ったらいいかわからない。
そんな方たちの助けになりたいと思い、WEBで情報を発信するようになりました。この症状にはどの市販薬がいいのか、どんな症状があったら病院に行くべきなのか、記事を通して少しでも参考にしていただけたら幸いです。
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