クリニックの労務管理

クリニックの労務管理

開業するということは、人を雇う立場になるということです。
クリニックの開業は、開業地さえ間違えなければ、業績が安定するまでの期間に差はあれど、ある程度の収支は確保できるようになるケースが多いかと思います。
そんな中で、開業医の先生の開業後の一番の悩みはなんだと思いますか?
それは、おそらく、スタッフに関する問題となるかと思います。
そこで、今回はクリニックの労務についてみていきたいと思います。

クリニックの雇用流動性の高さ

クリニックは他の一般企業に比べ、従業員の出入り(入職・退職)が非常に活発です。
それは、医療従事者は他の職種に比べ、

①女性の占める割合が圧倒的に高い職種であり、結婚・出産・配偶者の転勤等をきっかけとする退職が多い
②転職先を見つけやすい環境にある(慢性的な人手不足・仕事内容に共通点が多い)

という点が大きいと考えます。

そのため、クリニックのスタッフは職場で少しでも気に入らないことがあると辞めてしまう傾向があります。
たとえ、今の勤務先に不満がなくても給与や休日などの条件がよりよいところへ転職してしまうケースも珍しくありません。
昔と異なり、今はスマートフォンを使えば、今の勤務先よりも良い条件の求人情報は容易に検索することができるようになりました。
院長は、今自分が雇っているスタッフがその気になればいつでも辞めてしまう、またそれが容易にできてしまうという事実をしっかりと認識しておく必要があると思います。

労働紛争の増加

多くの勤務医師は、有給休暇など使う余地もなく長時間の拘束、サービス残業などは当たり前といった、非常に過酷な労働環境で勤務をなさってきたことと思います。
開業をご検討の先生の中にはそれが世の中の常識だと考えている方もいらっしゃるかもしれません。
その場合、開業準備として、一度労働法について学ぶことを強くおすすめします。
スマートフォンの普及により、今のスタッフの多くは労働法についてわかりやすく書かれたサイトや、労務関係の相談に乗ってもらえるサイトを通じて労働法について十分な知識を簡単に得ることができるようになりました。
そして、スマートフォンで得た知識を武器に自らの権利を主張されるスタッフが増えた結果、労働紛争も増加したものと考えます。
下記図1は、全国の総合労働相談コーナー等に寄せられた個別労働紛争の相談件数を示したものです。
2002年には10万件そこそこだったものが、2019年には27万9,210件と約2.8倍に増加しています。

図1 個別労働紛争相談件数

独立行政法人 労働政策研究・研修機構

働き方改革

長時間労働の是正、非正規雇用の待遇改善を目的に働き方改革がスタートしました。
この働き方改革の中で、クリニックにとって特に関係のある部分についてみていきます。

①年次有給休暇の年5日付与義務

2019年4月1日より施行。
従業員に、年5日間の有給休暇を確実に取得させることが企業の義務となりました。対象者は10日以上年次有給休暇が付与される労働者で、該当すれば非正規職員も対象となります。

②同一労働同一賃金の施行

大企業は2020年4月1日施行、中小企業は2021年4月1日施行。
雇用形態の違いによって「基本給」や「賞与」などに設けられていた「待遇差」を是正することが企業の義務となりました。
職務内容等が全て正規職員と同一である場合、非正規職員でも正規職員と同水準の賞与を支給することが義務付けられました。

非正規職員であっても場合によっては有給休暇の取得をさせたり、正規職員と同様に賞与を支給したりする必要があります。
この2点は労働紛争の原因になることも十分考えられますので、ぜひ覚えていただければと思います。

開業を志す先生方にとって、スタッフ問題を解決することがいかに重要なことかという点は、ご理解いただけたかと思います。
では、スタッフ満足度を向上させる(=スタッフの職場への定着率を高める)為には、どうしたらよいと思いますか?
スタッフが満足してもらえるような施策を次々と行えばよいと思われる方が多いかと思います。
しかし、それよりも重要なのは「不満を持たれるような職場環境を改善すること」だと考えます。
スタッフにとって、プラスの要素がどんなに多くても、ネガティブな要素がなくならない限り、スタッフの中には不満が残り続けることになるからです。つまり「不満を持たれない職場環境をつくる」ことが最も重要な点と考えます。

この記事の執筆・監修

ユアーズブレーン

ユアーズブレーンは広島市中区に事務所を構えるコンサルティング会社です。広島県内はもとより中国・四国エリアを中心に、大学病院から地域密着型の病院やクリニックに至るまで、それぞれの規模や特性に合ったかたちで医療機関の皆様がより充実した医療を提供できるよう、各種支援コンサルティングを提供しています。病院・クリニックにおいて、開業・経営・事業承継などでお困りの際はお気軽にご相談ください。

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