医業は事業活動の多くの部分を人間の労働力に頼っています。AI化の流れはあるものの、未だ臨床現場の仕事のほとんどが人の手によって行われているのが現状です。そうすると必然的に多くなるのが人に関する問題です。実際に日本医師会が開業に対して行ったアンケート調査によると、勤務医時代に比べ負担に感じる業務の第一位がスタッフの採用でした。前回はスタッフの管理についてでしたが、今回はスタッフの採用方法や面接のポイントについてまとめました
採用方法を大きく分けるとハローワーク、インターネット等の求人広告媒体、人材紹介会社、そして縁故の4種類があります。
最もオーソドックスなのが、ハローワーク(公共職業安定所)の活用だと思います。メリットは無料で募集をかけられる点にありますが、デメリットとして、ハローワークの求人情報を見るのは失業者が多く、応募者の経験値が全体として低いことが予想されるという点があげられます。しかしあくまでそのような傾向があるというだけで、もちろん医業での経験が豊富な方もいらっしゃいます。
求人広告媒体の最大のメリットは、ターゲットに合わせた活用が可能になる点です。先生が希望する能力や経験を持つ人を不特定多数の中から絞り込むことができます。
インターネットの求人サイトでは、多くの人に見てもらえるというメリットがありますが、その一方で、多すぎる情報の中に埋もれてしまうというデメリットもあります。キーワードで検索すれば大量の結果が表示されますが、当然上位にあるものほど求職者の目につきやすく応募件数も増えるでしょう。しかし上位に表示されるには相応の費用がかかるため、検討が必要なところです。
また、就職情報誌やフリーペーパーなどの雑誌、新聞折り込みやポスティング広告などの紙媒体もあります。これら紙媒体のものは、インターネットとは逆で地域が限定されるため、近隣住民への高い訴求力を持つことがメリットになります。しかし、掲載までに時間がかかり修正もすぐには反映されないため、しっかりと内容を固めて募集をかける必要があります。
人材紹介会社は、厚生労働省の許可を受けており、求人側から得る紹介料をもとに運営を行っています。メリットは、紹介会社が採用に係る業務(応募者との日程調整や合否連絡等)を代行してくれること、職種に特化していることが多いのできめ細かい対応を受けられることが挙げられます。一方、デメリットは費用がかかるという点です。職種や紹介会社によっても異なりますが、紹介者の年収の15~30%を紹介料として支払う必要があります。(年収300万円でも45万円~90万円)したがって広告媒体のように継続的に費用はかかりませんが、他の採用方法と比べると総額では高くつくことが多いです。
人材紹介会社は業者や担当者によって大きく満足度が変わります。実際に担当者と会って面談してみたり、紹介会社を利用したことがある人に話を聞いてみるのが良いと思います。
採用後の定着率が最も高くなるのは縁故採用です。過去に一緒に仕事をしていた職場や現在の勤務先から引き抜いてくるパターンが多いです。元々の知り合いのため、すでに人柄や能力を把握できていることが大きなメリットになります。すでにある程度の信頼関係を築いているでしょうし、先生の考えにも共感していることと思います。ただし注意しなければいけない点が二点あります。
一つは、引き抜くことでトラブルが起きる可能性があることです。スタッフがどの職場を選ぶか、どのタイミングで退職するかなどは個人の職業選択の自由ではありますが、その病院や上司とは今後も関わる可能性はあるため、面倒なトラブルを起こすことはできるだけ避けたいところです。
もう一つは、不利な条件が多いことを先生とスタッフとの間で共有しておくことです。病院から新規のクリニックへ転職となると、どうしてもスタッフにとって不利な条件がでてきます。例えば、給与は減額する可能性が高いです。少なくとも、クリニックには夜勤がないため夜勤手当分はなくなることになります。また、経営が軌道に乗る前だと賞与も出せるかどうかわかりませんし、スタッフ数が少ないため休みがとりにくくなってしまうかもしれません。このようにスタッフには多少我慢してもらう場面が出てきますが、本人が「わざわざ引き抜いてくれたから、ある程度優遇されるだろう」と考えていると大きなギャップが生じることになります。認識のすり合わせは必須になってきます。
まずは採用計画と選考基準を明確にしておくと、実際の面接がスムーズに進みます。職歴、経歴、年齢、能力、免許、通勤範囲など様々な項目がありますが、そのすべてに当てはまる求職者を探すのは難しいでしょう。何を最も重視するのかを明らかにしておくべきです。また、自院の経営理念を決め、そこからどんな人材を求めるのかも重要な選考基準になります。能力だけではなく、人柄や同じ思いを共有しているかといったことも見極めなければいけません。
そして労務管理の記事でも述べていますが、クリニックは選ぶ側であり選ばれる側でもあります。開業はその地域と密接につながってくるため、不採用にした求職者やその周囲の人たちが患者になる可能性も十分あります。悪い印象を持たれることはクリニック運営においてマイナスでしかないので、面接は慎重に行いましょう。
開業を考えている先生方にとっては、スタッフの採用について考えることは少ないかもしれません。しかし、開業するときになって「どのような人と働きたいか」と問われてもすぐに答えが出せるでしょうか。また、病院で採用に関わっている先生方も、「この人が自分のクリニックで働くとしたら」と考えると、少なからず採用基準は変わるのではないでしょうか。普段からどのような人採用するのか考えることは、開業において重要なことの一つです。
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