梅毒
梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌によって引き起こされる感染症です。主に性行為によって感染するとされていますが、梅毒に感染している人の血液や体液に触れることで粘膜や皮膚の傷口から感染する場合もあります。
また、母体が感染している場合、胎児にも感染し先天梅毒を引き起こすこともあります。近年、若い女性の患者が増加していることが問題になっており、妊娠中の感染にも注意が必要です。
梅毒は、感染してもすぐに症状が現れません。数週間の潜伏期間を経て、感染が生じた皮膚や粘膜に潰瘍やしこりのような病変が現れます。これらの病変は数週間で自然に治るため、発症に気が付かないことも多いです。しかし、その間も人に感染させる危険性があるため、注意が必要です。また、体内では梅毒トレポネーマが増殖し続けています。そして、一定の時間が経過すると全身に様々な症状が出てきます。
梅毒は、早期に発見し、治療ができれば治すことができる病気です。
しかし、早期に治療を行わなければ、神経梅毒と呼ばれる神経障害や大動脈瘤、髄膜炎等を引き起こし、命に関わる深刻な状態になる可能性があります。
梅毒の原因
梅毒の原因は、「梅毒トレポネーマ」という病原体に感染することです。梅毒トレポネーマは、感染している人の血液や体液に含まれており、粘膜や皮膚に直接接触することで感染します。そのため、主な感染経路として、性行為が挙げられます。アナルセックス、オーラルセックス、キスでも感染する危険性があります。梅毒トレポネーマが体内に入り込んで感染すれば、数時間以内にリンパ節まで到達し、血液の循環により全身に広がって症状を引き起こします。症状が軽くなったり、なくなったりする時期であっても、人に感染させる可能性があるため、注意が必要です。
また、妊婦が感染すると、胎盤を通じて胎児に感染する「先天梅毒」の原因になります。早産や死産を起こす危険性が高まるだけでなく、奇形が現れて産まれるリスクもあります。出産時に問題がない場合でも、成長していく過程で何らかの病気を発症することもあります。
加えて、梅毒は、HIV感染症等の性感染症に罹患している場合に感染しやすいと言われています。
梅毒の症状
梅毒には、発症後、時間を経て様々な症状が現れるという特徴があります。 進行は大きく3段階に分かれており、時間が経つにつれて徐々に症状が進んでいきます。また、自然に症状がなくなったり、現れたりを繰り返すことがあります。
第1期梅毒(感染してから約3週間)
梅毒トレポネーマに感染し、3週間程度の潜伏期間を経たあと、感染が生じた粘膜や皮膚に「初期硬結」と呼ばれるしこりや「硬性下疳」と呼ばれる潰瘍が出てきます。外陰部の目立たないところにできることが多く、基本的に痒みや痛みはでません。そのため、発症していることに気が付かない場合が多いです。また、足の付け根部分のリンパ節が腫れる場合もあります。これらの症状は、治療をしなくても2~3週間くらいで症状がなくなります。
第2期梅毒(感染してから数カ月)
第1期梅毒の症状が改善されてから約4~10週間が経過すると、体内に侵入した梅毒トレポネーマが血液により全身に運ばれ、外陰部を中心に全身にも症状を引き起こします。皮疹や脱毛等の皮膚症状です。手のひらや足の裏、全身に現れる左右対称の発疹が特徴的な症状です。この症状もかゆみや痛みがでない場合が多く、治療をしなくても数週間~数カ月で症状がなくなってしまいます。また、倦怠感や発熱等の全身症状が出る場合も多いです。加えて、髄膜炎等深刻な合併症を引き起こすことも多々あります。
感染後1年未満である第1期と2期は梅毒の感染力が強い期間です。性的な接触での感染力が高いため、症状が出ていない潜伏期であっても知らない内に感染を広めてしまう可能性があります。検査をしてみなければ、梅毒に感染しているかどうかが分かりません。また、症状も人によって現れ方に差があります。
第3期梅毒(感染してから数年~数十年)
第2期の症状が治まってから、何も症状のない状態が数年から数十年続きます。多くの場合、梅毒トレポネーマが体内に潜伏した状態のまま一生を終えますが、およそ30%で再び症状が出てくるケースがあります。治療をしないままでいると無症状のまま進行していき、いずれ神経や心血管にも異常が出るようになります。「ゴム腫」という軟らかいゴムのような腫瘍が皮膚や骨、筋肉、肝臓等にできます。症状の程度は人それぞれで、脳や脊髄、血管、心臓に病変が生じ、命に関わる重篤な状態になってしまう人もいます。
梅毒の治療
梅毒の検査と診断
梅毒の診断では、問診のあと、梅毒トレポネーマに対する血液中の抗体の有無を調べるため血液検査を行います。また、潰瘍等の症状がある箇所から細菌を取り出し、培養検査を行うこともあります。検査ができる医療機関は感染症科、皮膚科、産婦人科、泌尿器科等のほか、保健所でも検査が可能な自治体もあります。検査を受けても感染後すぐには梅毒トレポネーマは検出できません。そのため、感染が疑われる時点から約4週間経った頃に検査を受けることが大切です。
梅毒の治療
梅毒の治療では、ペニシリン系抗菌薬を用いることが基本です。
症状の現れ方によって異なりますが、第1期であれば2~4週間程度、第2期であれば4~8週間程度の通院を行います。またその間は、1日3回、ペニシリン系抗菌薬の内服を続けます。また、第3期の場合には、10~14日程度の点滴治療を行います。
梅毒では、治療をしなくても自然に症状がなくなってしまう期間があります。しかし、自然に治ることはありません。症状が見られなくなっても、薬の服用を自己判断で中断することは避けましょう。医師の指示に従って、処方された分は飲み切ることが大切です。
第3期に移行すると、発症した病気によって様々対処を行いますが、重症化してしまう可能性も高いです。
梅毒は、初期の段階で早期治療を行えば、治る病気です。後に障害が残ることもありません。しかし、治療の開始が遅れてしまえば、脳や心臓等に機能障害が起こり、治療をしても完全に改善することはなくなります。従って梅毒は、早期発見、早期治療が重要なポイントとなる病気だと言えます。
梅毒の予防
主な感染経路が性行為である梅毒では、コンドームの着用を徹底し、不特定多数との性交渉を持たないことが予防につながります。予防に努めるとともに感染が疑われる場合には、できるだけ早く検査を受けるようにしましょう。
また、梅毒は体液や血液に触れるだけでも感染リスクがあります。医療従事者等以外では他人の血液や体液に触れる機会は少ないでしょう。しかし、歯ブラシや剃刀等には、血液や体液が付着している可能性があります。家族やパートナー、友人間であっても、それらの道具の使い回しは止めましょう。
いとう腎・泌尿器科クリニック 院長伊藤 誠一
【経歴・資格・所属学会】
平成7年 鳥取大学医学部卒業
平成7年 岡山大学医学部泌尿器科研修医
平成8年 福山市民病院泌尿器科
平成8年 国立病院機構岩国医療センター泌尿器科
平成9年 倉敷成人病センター泌尿器科
平成11年 国家公務員共済組合連合会 呉共済病院泌尿器科
平成28年 いとう腎・泌尿器科クリニック開院
[資格]
日本泌尿器科学会専門医
日本泌尿器科学会指導医
腎移植学会専門医
臨床腎移植学会専門医
[学会]
日本泌尿器科学会
日本移植学会
臨床腎移植学会