多発性骨髄腫
多発性骨髄腫は血液がんの1つで、白血球の一種であるB細胞という血液の細胞からできた形質細胞ががん化したものです。形質細胞は免疫を司る細胞の1つであり、抗体というタンパク質を作り身体を病原体から守っています。多発性骨髄腫は高齢者に多い疾患で、日本では毎年10万人に約6人が発症します。
原因
形質細胞ががん化する原因ははっきりとはわかっていませんが、遺伝子や染色体の異常によるものと考えられています。
症状
がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)の増殖と役に立たない抗体(M蛋白)の増加に伴う症状が見られます。ただし、初期には自覚症状がなく、血液検査などの検査所見の異常で見つかることも少なくありません。
骨病変
骨髄腫細胞が増加し、骨を壊すメカニズムを働かすことによって骨がもろくなります。自覚症状は骨痛が多く、圧迫骨折や病的骨折を起こすことも少なくありません。また、骨が壊れて大量のカルシウムが血液中に溶け出し血液のカルシウム値が高くなることがあり、意識障害が出ることもあります。
腎機能の低下
腎臓へのM蛋白の沈着、高カルシウム血症、鎮痛剤の使用などが原因となり、腎臓の機能が低下します。病状が進行して尿毒症を起こすと、食欲不振、吐き気、むくみなどの症状が出てきます。
貧血
骨髄腫細胞が骨髄を占拠することなどで、正常な血液細胞がうまく造れなくなります。貧血が進行すると、倦怠感、息切れ、動悸などの症状が見られます。
その他
身体を病原体から守ってくれる正常な抗体が減り、細菌・真菌・ウイルスなどの感染を起こしやすくなります。血液中のM蛋白が増加することで血液が粘稠になり、頭痛・視覚障害・出血傾向などの症状がみられる過粘稠度症候群という合併症を起こすこともあります。
検査・診断
診断には、血液検査、尿検査、骨髄検査、画像検査(単純X線、必要に応じてCT・MRI・PETなど)が必要です。多発性骨髄腫は産生されるM蛋白によって、IgG型、IgA型、ベンスジョーンズ型、IgD型、M蛋白を産生しない非分泌型に分けられます。また、診断の次に病期分類を決定しますが、これによって、ある程度の予後を予測することが可能です。
治療
多発性骨髄腫の治療は化学療法(抗がん剤による治療)が基本となります。従来の抗がん剤やステロイドに加え、近年はプロテアソーム阻害剤、免疫調節薬、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、抗体薬などの新規薬剤がいろいろと使用できるようになり、治療は大きく進歩しています。
これらの化学療法に加えて、年齢や症状によって可能な場合は、自家末梢血幹細胞移植という治療法も検討されます。これは、あらかじめ患者さん自身の造血幹細胞を集めて保存しておき、大量の抗がん剤を投与し骨髄腫細胞を死滅させた後に、取り出しておいた造血幹細胞を再び体に戻す治療です。この治療法は通常の化学療法と比較して、より長い期間効果が続くことが期待できます。
その他、骨病変の進行を抑えることを目的として、ビスホスホネート製剤などもしばしば使用されます。また、骨病変に対して、痛みをとる目的で放射線治療を行うこともあります。
生活上の注意
骨がもろくなっているからといって動かないでいると、余計に骨がもろくなり筋力も低下してしまいますので、適度な運動が必要です。ただし、重い物を持ち上げたり、身体をねじるなど、骨への負担をかけるような動作は避けるように注意しましょう。また、化学療法を受けている間は感染症を起こしやすくなるので、マスクの着用や外出から帰宅した時にうがいや手洗いをしっかりするなどの感染対策が大切です。
発熱や痛みなどの体調不良が出現した際には、できるだけ早く主治医に連絡・相談をしてください。
のだ内科ファミリークリニック 院長野田 昌昭
【経歴・資格・所属学会】
昭和58年 広島大学附属高校卒業
平成元年 広島大学医学部卒業
平成8年 広島大学原医研血液内科大学院修了
平成8年 国立大竹病院 内科医師
平成10年 広島大学原医研血液内科 助手
平成10年 米国ウィスコンシン州Blood Research Institute留学
平成12年 国立大竹病院 内科医師
平成15年 社会保険広島市民病院 健康管理センター副部長
平成17年 広島市立広島市民病院 内科部長
平成25年 広島市立広島市民病院 血液内科主任部長
平成29年 草津病院 内科医師
平成30年3月 のだ内科ファミリークリニック開院
【資格】
医学博士
日本内科学会総合内科専門医・指導医
日本血液学会専門医・指導医
日本感染症学会専門医
日本内科学会中国支部評議員
日本血液学会中国四国支部評議員
日本医師会認定産業医
身体障害者福祉法指定医「免疫機能障害」
広島県もの忘れ・認知症相談医(オレンジドクター)
広島県がんよろず相談医
【所属学会】
日本内科学会
日本血液学会
日本感染症学会