認知症
認知症とは、何らかの原因で脳の細胞の働きが悪くなったり、破壊されたりすることによって様々な障害が起こり、正常な日常生活を送ることに支障をきたす状態になることをいいます。
認知症にはいくつかの種類があり、その中で最も多いのが「アルツハイマー型認知症」です。脳内にアミロイドβやタウというたんぱく質が蓄積することで、神経伝達物質の減少や脳細胞の損傷が起こり、少しずつ脳が萎縮し、認知機能が低下していきます。初期症状として「もの忘れ」が挙げられ、ゆっくりと進行することが特徴です。また、男性に比べ、女性に発症することが多いとされています。
次に多いのが、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血等がきっかけとなって発症する「脳血管性認知症」です。脳が障害された部位によって症状が異なります。そのため、一部の認知機能は保たれたままの「まだら認知症」が脳血管性認知症の特徴です。症状は良いときと悪いときを繰り返しながら、ゆっくり段階的に進行します。しかし、急速に進む場合もあります。また、アルツハイマー型認知症を合併している患者もいます。
そのほかに、神経細胞にαシヌクレインというたんぱく質の集合体である「レビー小体」ができ、脳の大脳皮質や脳幹に蓄積することで発症する「レビー小体型認知症」や、前頭葉や側頭葉を中心に脳の萎縮が起こることで発症する「前頭側頭型認知症」があります。レビー小体型認知症では、幻視や睡眠時の異常言動、パーキンソン症状、自律神経症状が見られます。また、前頭側頭型認知症では、社会のルールを守った行動が難しくなったり、スムーズに言葉がでてこなくなったり、同じ行動を繰り返すといった症状が現れます。
一般的に、認知症は高齢者に発症しやすい傾向があります。しかし、脳血管障害やアルツハイマー型認知症によって若くても発症するケースもあります。65歳より早くに発症した認知症を「若年性認知症」と言います。
認知症の原因
認知症は、脳の細胞の働きが悪くなることや、破壊されたりすることで起こります。認知症の種類によって、原因は異なります。
アルツハイマー型認知症
アミロイドβやタウというたんぱく質が脳内に溜まることで、神経細胞が減少したり、脳細胞が損傷したりして脳が萎縮するために起こります。アミロイドβは、加齢によって増えやすくなるため、高齢者に発症することが多い要因です。また、男性よりも女性に発症しやすい傾向があります。また、30代~50代で発症するケースもあり、若年性アルツハイマー型認知症といいます。若年性アルツハイマー型認知症の場合、遺伝が関係すると言われています。
脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血、くも膜下出血等で脳細胞が壊死することで、障害された部分の機能が低下するために起こります。糖尿病や高血圧、脂質異常症等の生活習慣病を持った人になりやすい要因です。また、喫煙も原因となりますので禁煙が必要です。
レビー小体型認知症
αシヌクレインというたんぱく質の集合体である「レビー小体」ができ、脳の大脳皮質や脳幹に蓄積して神経細胞を損壊することで起こります。
認知症の症状
認知症の症状には「記憶障害」や「見当識障害」「理解・判断力の障害」等の中核症状が有名です。認知症が進行すると周辺症状(BPSD)が起きることも有ります。
認知症の中核症状と周辺症状
中核症状としては記憶障害(もの忘れ)として「直前のできごとを忘れてしまう」「同じことを何度も聞く・言う」「昔から知っている人やものの名前が思い出せない」等があります。
見当識障害として「日付や曜日が分からなくなる」「自分のいる場所が分からなくなる」「できごとの状況が分からなくなる」「周囲の人との関係性が分からなくなる」等があります。「優先順位を付けるのが下手になる」、「指示をされないとどうしてよいかわからない」といった遂行機能障害も認知症の症状です。
認知症の周辺症状(BPSD)で以下の症状があります。
「徘徊」「暴言や暴力」「抑うつや不安」「弄便」「異食」「誰かに自分のものを盗まれたと疑う(もの盗られ妄想)」「他人には見えないものが見えると主張する(幻視)」「不眠・睡眠障害」「失禁・排尿障害」等
認知症の治療
認知症には根本的な治療法がまだありません。そのため、できるだけ症状を軽くしたり、進行を遅らせたりすることが治療の目標です。認知症の主な治療には「薬物療法」と「非薬物療法」があります。アルツハイマー型認知症に対する薬物療法では抗認知症薬として「ドネペジル塩酸塩」「ガランタミン」「リバスチグミン」「メマンチン」の4種類が用いられます。また周辺症状(BPSD)には、抗不安薬や抗うつ薬、抗精神病薬、脳循環代謝改善薬、漢方薬等を使用します。ただし、認知症患者だけでは飲み忘れが避けられないため、正しく服用できるように、周囲の人のサポートが欠かせません。非薬物療法では、進行を遅らせるために、理学療法や作業療法等のリハビリテーションを行います。また、「音楽療法」「芸術療法」「園芸療法」「アニマルセラピー」等によって、楽しみながら気持ちの安定を図り、脳の活性化を促します。ただし、患者がストレスを感じないように、強要することは避けなければいけません。患者が得意なことや興味のある活動を選択することが大切です。
栄養バランスのとれた食生活と、適度な運動を心掛け、脳を健康な状態に保つことが、認知症の予防に繋がります。糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満等の生活習慣病の予防や治療が大切です。また、過度の飲酒や喫煙は避けましょう。
認知症前段階として、「軽度認知障害(MCI)」があります。軽い記憶障害はあるものの、日常生活には支障をきたしていない状況です。MCIの段階で適切な対応をすることで、認知症の発症を抑えたり、発症を遅らせたりできることが分かっています。また、MCIから認知症への移行を抑えるための治療は、早ければ早いほど効果が高いと言われています。そのためにも、早期発見が重要です。「同じ話を何度もするようになった」「お金の計算ができなくなった」「料理等家事の同時進行ができなくなった」「親しい人の名前等を忘れてしまう」といった気になる症状が見られた時には、認知症専門医の在籍する医療機関を早めに医療機関を受診しましょう。
向井内科・脳神経内科 院長向井 智哉
【経歴・資格・所属学会】
・医学博士
【専門医】
・日本内科学会認定 総合内科専門医
・日本神経学会認定 神経内科専門医
・日本脳卒中学会認定 脳卒中専門医
・日本脳神経血管内治療学会認定 脳血管内治療専門医
・日本頭痛学会認定 頭痛専門医
・日本動脈硬化学会認定 動脈硬化専門医
・日本脳神経超音波学会認定 脳神経超音波検査士
・日本認知症学会認定 認知症専門医
【認定資格】
・難病指定医
・身体障害者福祉法指定医
・認知症サポート医(オレンジドクター)
・産業医
・ボトックス®治療資格