聴神経腫瘍
聴神経腫瘍とはその名の通り聴神経に生じる腫瘍ですが、前庭神経から発生するため正確には前庭神経鞘腫といいます。聴神経腫瘍は良性の腫瘍で、脳腫瘍の6%くらいを占めますが、良性腫瘍であっても腫瘍が大きくなりすぎると、脳幹を圧迫して生命が脅かされることがあります。
聴神経腫瘍の原因
シュワン細胞という細胞が腫瘍化することで発症します。シュワン細胞とは、神経を包む鞘(さや)のことです。聴神経には聴覚を司る「蝸牛神経」と、平衡感覚を司る「前庭神経」があります。聴神経腫瘍は、このうち平衡感覚に大きな影響を与える前庭神経から発生します。
聴神経腫瘍の症状
聴神経腫瘍は、大きさにより症状が変わっていきます。
初期症状として見られるのが、聴力の低下です。他にも耳鳴り、めまい、ふらつき、頭痛といった症状が見られることもあります。腫瘍が大きくなると神経を圧迫し、圧迫された神経に付随する症状が見られるようになります。
顔面神経が圧迫されると表情が作りにくくなり、三叉神経が圧迫されると顔面の痛みが見られるようになります。また、舌咽神経や迷走神経が圧迫されると嚥下障害や嗄声等が見られ、外転神経が圧迫されると複視が見られるようになります。
聴神経腫瘍の治療法
聴神経腫瘍の治療は、手術療法、放射線療法、経過観察のいずれかです。年齢、腫瘍の大きさ、症状により治療法が選択されます。
若年者や成長速度が速い腫瘍、腫瘍径の大きな腫瘍の場合に手術療法が選択されます。しかし、聴神経腫瘍が発生する小脳橋角部には、重要な役割を担う神経が多く存在しており、手術には高度な技術が必要なため、手術経験の豊富な先生、症例数の多い病院を選ぶことが重要です。
放射線療法は、ガンマナイフやサイバーナイフ等で腫瘍に放射線を当てて腫瘍の増殖をコントロールする治療法です。根治的な治療法ではないものの、開頭手術をせずに済むため入院期間も短く身体に対する負担も抑えられます。ただし、腫瘍自体がなくなる訳ではないため、腫瘍と一生付き合っていく必要があります。また、あえて手術で腫瘍の一部を残し、放射線治療で腫瘍の増殖を制御し、後遺症や神経損傷、合併症のリスクを低くすることもあります。
腫瘍が小さい場合には、経過観察が選択されます。聴神経腫瘍は良性腫瘍であるため、腫瘍の増大スピードは比較的緩やかです。また、10%程度の方は経過観察中に腫瘍が小さくなることもあります。
聴神経腫瘍の予防
聴神経腫瘍自体を予防する方法はわかっていません。そのため、再発しないように予防することが重要です。
聴神経腫瘍は手術で腫瘍を摘出したり放射線治療を行っても、再発する可能性がなくなる訳ではありません。手術後や経過観察中は、半年~1年に一度ほど定期的にMRI検査を受け、万が一再発した際や腫瘍が大きくなった際には、軽微な症状の変化を見逃さず、早期に発見できるようにすることが大切です。
ながお脳神経外科クリニック 院長長尾 光史
【経歴・資格・所属学会】
平成7年5月 大阪医科大学附属病院 脳神経外科教室 入局
[主な勤務病院]
畷生会脳神経外科病院
翠清会梶川病院
弘田脳神経外科病院
大阪府三島救命救急センター
児玉病院
大阪医科大学附属病院 麻酔科
みどりヶ丘病院
新生病院 部長
荒木脳神経外科病院 副院長
平成22年12月 ながお脳神経外科クリニック 開院
免許・資格
平成7年5月 医師免許取得 平成13年7月 医学博士号取得 平成13年8月 日本脳神経外科学会専門医取得