クインケ浮腫(血管浮腫)
クインケ浮腫(血管浮腫)の典型的な症状は、まぶたや唇の急な腫れです。多くの場合は数日以内に腫れが引き、かゆみを感じることはほとんどありません。しかし、鼻や喉が腫れている場合は呼吸困難に陥る可能性があるため、油断できない病気です。
クインケ浮腫の治療法は、血管浮腫のタイプや原因によって変わってきます。そこでこの記事では、クインケ浮腫(血管浮腫)のタイプごとの原因や、治療方法について詳しく解説します。この記事を通じて治療の手助けとなる情報を提供いたしますので、クインケ浮腫の理解にお役立てください。
クインケ浮腫(血管浮腫)とは?
クインケ浮腫とは、皮膚や粘膜に急な腫れが発生する状態を指し、むくみを伴うこともある病気です。皮膚のあらゆる部位に発生する可能性があり、特にまぶたや唇、頬に多く見られます。症状は急に現れるものの、多くの場合は数日以内に腫れが引いて、痕を残さず元の状態に戻ります。
この名称は、最初にこの病気を報告したドイツの医師クインケに由来し、「血管性浮腫」とも呼ばれます。クインケ浮腫は原因が特定できないケースが多く、ストレスや疲労の蓄積が発症要因となりやすいです。一般的にはかゆみは伴わず、突発的に腫れの症状だけが現れます。
クインケ浮腫(血管浮腫)の症状
血管性浮腫(クインケ浮腫)の主な症状は、まぶたや唇の突然の腫れです。特に夕方から夜間にかけて発症しやすく、「朝起きたら目が腫れていた」というケースがよくあります。血管浮腫は蕁麻疹の一種とされています。
血管浮腫が蕁麻疹と異なるのは、蕁麻疹が皮膚の浅い部分で生じるのに対し、血管浮腫は皮膚の深い部分で起こる点です。したがって、皮膚の表面に見えるのは、赤みがはっきりしない皮膚の腫れだけです。
また、一般的に血管浮腫はかゆみを伴わず、血管浮腫の症状が収まるまでには数日かかる場合があります。一方で蕁麻疹はかゆみがあり、数時間で消えるケースが多いです。
唇に現れたクインケ浮腫の症例
下唇に、紅斑がなく境界がはっきりしない浮腫性の腫れが現れている
血管性浮腫 (クインケ浮腫) |
蕁麻疹 | |
---|---|---|
症状が発生しやすい部位 | 顔面・口唇・まぶた・消化管など | 全身の皮膚・消化管 |
発現部位 | 皮膚の真皮深層~皮下組織・粘膜組織 | 真皮上層 |
浮腫の赤み | うっすらとした淡い赤み | 明瞭な赤み |
自覚症状 | 痛みを中心とした症状 | 灼けるような痛み。かゆみを中心とした症状 |
腫れが引くまでの期間 | 数日 | 24時間以内で消失し、出現・消失を繰り返す。 |
クインケ浮腫の特徴的な症状は、突然狭い範囲に浮腫が生じ、2~5日間持続することです。クインケ浮腫は血管の浮腫であるため、皮膚表面の変化やかゆみはありません。そのため、単なる「むくみ」であると自己判断し、「時間ができたら病院に行けばいい」とすぐに受診しない方もいます。
しかし、クインケ浮腫の発生箇所は、まぶたや唇など粘膜に近い部分が多い傾向にあります。そのため、受診せずに放置していると皮膚だけでなく粘膜にも浮腫が生じて、目の充血や口腔内の腫れといった症状が見られ、繰り返し発症してしまいます。
注意点として、鼻や喉に腫れが起きた場合は呼吸困難に陥る危険性があるため、直ちに医療機関を受診しましょう。厚生労働省の資料でも、「息苦しい場合は救急車」を呼ぶよう注意喚起されています。
もしも、何かのお薬を服用していて、次のような症状がみられた場合には、緊急に医師・薬剤師に連絡して、すみやかに受診してください。「急に、くちびる、まぶた、舌、口の中、顔、首が大きくはれる」、「のどのつまり」、「息苦しい」、「話しづらい」、「息苦しい」場合は、救急車を利用して直ちに受診してください。
- クインケ浮腫(血管性浮腫)の初期症状
クインケ浮腫(血管性浮腫)は通常、突然発症します。初期段階では皮膚がピリピリする感覚があり、全身にだるさや疲労感を感じる場合があります。典型的な症状は、急に皮膚や粘膜の腫れやむくみが現れることです。
クインケ浮腫(血管浮腫)の分類と原因
血管性浮腫 ≒ クインケ浮腫
- 先天性
・遺伝性血管性浮腫(HAE)
・振動性血管性浮腫
・カルボキシペプチダーゼ N 欠損症
- 後天性
・後天性血管性浮腫
・アレルギー性血管性浮腫
・薬剤性の血管浮腫
・特発性血管性浮腫
・自己免疫疾患に起因する血管浮腫
・物理的な刺激に起因する血管浮腫
・壊死性血管炎に起因する血管浮腫
・好酸球の増加に起因する血管浮腫
・血清病などに起因する血管浮腫
クインケ浮腫を発症させるメカニズムは、先天性と後天性の2種類に大別されます。そして、治療法は血管浮腫(クインケ浮腫)のタイプや原因によって変わってきます。ですからクインケ浮腫と診断された場合は、まず原因が先天性と後天性のどちらなのかを見分け、さらに細分化して、どのタイプの欠陥浮腫なのかを特定することが重要です。
例えば後天性の血管浮腫は、薬・食物・アレルゲンの摂取などさまざまな要因によって引き起こされます。ですから、後天性の血管浮腫の再発を防ぐ鍵は、上手にストレスやアレルギーを管理して、できる限り除去することです。
このセクションでは、下記に示す先天性と後天性の血管浮腫の主なタイプを5つ挙げ、その原因を簡単に説明します。
- 【先天性】
・遺伝性血管性浮腫
- 【後天性】
・後天性血管性浮腫
・アレルギー性血管性浮腫
・薬剤性の血管浮腫
・特発性血管浮腫
遺伝性血管性浮腫
血管性浮腫の原因のひとつに、C1エステラーゼインヒビター(C1-INH)遺伝子の機能不全が挙げられます。C1エステラーゼインヒビターは免疫系の一部を構成するタンパク質で、その機能が低下すると、痛みを引き起こすブラジキニンが過剰に産生され、血管浮腫が発生するのです。
先述した通り、血管浮腫には先天性と後天性の2つのタイプがあります。先天性のものは遺伝性血管性浮腫と呼ばれ、口唇やまぶたに腫れが生じ、皮膚だけでなく腹部にも発症する傾向があります。”遺伝性”とはいっても、必ずしも近親者に発症歴があるとは限りません。
遺伝性血管性浮腫は、10代から外傷や精神的ストレスなどさまざまな契機で発症し、繰り返し起こるケースが多いです。血液検査によって診断が可能ですので、繰り返し症状が出る場合は皮膚科で遺伝性血管性浮腫かどうかを検査した方がよいでしょう。
後天性血管性浮腫
後天性血管性浮腫は、蕁麻疹を伴わないのが特徴です。これは後天的なC1-INH活性の低下や特定のアレルゲン、薬剤によって引き起こされることがあります。
後天性血管性浮腫の症状は、C1-INHが欠損した後、高齢になってから表面化するのが一般的であり、遺伝性血管性浮腫に比べて発症頻度が少ないです。
アレルギー性血管性浮腫
アレルギー性血管性浮腫は最も一般的なタイプの血管浮腫です。アレルゲンがIgEに結合すると、マスト細胞がヒスタミンを放出し、アレルギー性血管性浮腫が発生します。小麦、卵、牛乳など特定のアレルゲンによって引き起こされるため、これらのアレルゲンを避けることが重要です。
薬剤性の血管浮腫
クインケ浮腫は特定の薬剤や食物を摂取後に症状が出る場合があります。特に原因になりやすい薬剤は、ARB(アンジオテンシンII 受容体拮抗薬)やACE阻害剤などの降圧剤です。薬が原因の場合には、疑いがある薬を内服するのを中止することによって、3日程度で症状の改善を期待できます。
新たに薬を服用し始めてからまぶたや唇が腫れた場合は、薬剤性の血管浮腫の可能性が高いため、皮膚科の診察を受けるようおすすめします。薬によって引き起こされる薬疹については、下記の記事を参考になさってください。
特発性血管性浮腫
原因が特定できない場合は「特発性血管性浮腫」と呼ばれ、誘因となるものがないにもかかわらず症状が発生します。疲れやストレスが引き金になることが多く、慢性または繰り返し起こる血管性浮腫です。
クインケ浮腫(血管浮腫)の予防と治し方
クインケ浮腫の治療には、主に飲み薬である「抗ヒスタミン剤」が処方されます。クインケ浮腫の症状は数時間から数日で消えることが多いですが、慢性的に再発する場合は、症状が現れていない時期も含めて長期的に抗ヒスタミン剤を服用しなければなりません。
遺伝性血管性浮腫の治療では、C1-INH製剤(ベリナートP®)やトラネキサム酸を処方するケースもあります。症状の重症度などにより適切な治療法は異なるため、皮膚科やアレルギー科を受診しましょう。
クインケ浮腫は原因特定が難しいケースが多く、根本的な予防を講じることも困難を極めます。疲労感やストレスはクインケ浮腫の誘因になるため、適度な運動や読書などでストレスを発散をし、睡眠時間を十分に確保することも重要です。特に疲れを感じた後にクインケ浮腫が現れやすいのであれば、疲れを自覚して身体を休めましょう。
まとめ:鼻や喉の腫れは要注意
今回の記事では、クインケ浮腫(血管浮腫)の種類ごとの原因や治療方法について詳しく解説してきました。もし周囲の誰かが「クインケ浮腫の症状かもしれない」と感じたら、ぜひその人に教えてあげてください。
クインケ浮腫の症状を無視して放置していると、口唇やまぶたなどの粘膜に近い部分に浮腫が生じ、再発を繰り返す場合があります。特に鼻や喉の腫れは呼吸困難を引き起こす危険性があるため、早急に医療機関を受診することが重要です。安全で健康な生活を送るためにも、早めの対応を心がけましょう。
古江駅前すみれ皮ふ科 院長東儀 那津子
【経歴・資格・所属学会】
平成18年
北里大学医学部 卒業
平成18年
北里大学病院 初期研修医
平成20年
北里大学病院 皮膚科入局
平成23年
北里大学病院 助教
令和2年
北里大学病院 診療講師
北里大学病院のほか、大和市立病院、昭和大学病院藤が丘病院形成外科、
座間総合病院、武蔵村山病院、神奈川県内の皮膚科・美容皮膚科で勤務
【所属学会】
日本皮膚科学会
皮膚悪性腫瘍学会
日本美容皮膚科学会
日本アレルギー学会
【資格】
医学博士
日本皮膚科学会専門医・指導医
厚生労働省臨床研修指導医
ボトックスビスタ®︎認定医