湿疹
湿疹とは、皮膚表面に起きる炎症反応の総称で「皮膚炎」とも呼ばれます。皮膚トラブルの中でも多く見られる病気です。赤い斑点ができて痒みが伴うものや、ぶつぶつ、カサカサと言った症状が現れるものなど、様々な種類があります。
湿疹のできる範囲も部分的な箇所~全身までと幅広くあります。慢性的なものから原因不明の突発的な発疹まで、症状も多岐に渡るのが特徴です。
軽度な発疹であれば放置する人もいますが、患部を掻いてしまうと症状が悪化してしまうため注意しなければなりません。「痒みが酷い」「湿疹がなかなか治らない」と言う場合は、なるべく早く皮膚科を受診するようにしましょう。
今回は、一般的な皮膚トラブルとして知られる「湿疹」について、原因や症状、治療方法等を解説します。
湿疹ができる原因
湿疹が発症する原因は、大きく二つに分けられます。
体の外側から受ける刺激によって引き起こされる「外的要因」と、体の内側で起きる問題によって引き起こされる「内的要因」です。
▼外的要因・内的要因の例
- 外的要因
薬や洗剤などの化学物質、ハウスダスト、花粉、金属、細菌、日光、気候変化、衣類の擦れ、ゴムの締め付けなど - 内的要因
アレルギー、アトピー、内臓疾患、肌のバリア機能低下、皮脂や水分量等
肌に合わないものが触れた場合に、免疫反応によって炎症を起こす事があります。
肌の皮脂や、水分量のバランスの崩れで、皮膚が刺激に負け、湿疹ができる場合も多いです。上記だけでなく、さまざまな環境や条件が重なって発症します。結果、原因がはっきりと特定できないケースも多くあります。
湿疹の種類
湿疹と言っても、その種類は多岐に渡ります。それぞれの原因に応じて、適切な治療やケアを行うことが重要です。
なお、湿疹の種類によって、症状の経過や治療にかかる時間が異なります。湿疹が突発的に現れる「急性湿疹」では、治癒までの時間が短い場合も多いです。また、繰り返し湿疹ができる「慢性湿疹」では、症状の悪化と共に著しく患部が変化します。変化によって、治癒までの時間も長くなりやすいのが特徴です。
代表的な湿疹の種類と特徴は以下の通りです。
手湿疹(主婦湿疹)
手湿疹は、日常的に水に接したり、化学物質を含む洗剤に触れたりすることで発症しやすい湿疹です。手の皮膚のバリア機能が低下することで、手のひらや甲、指などに湿疹が現れます。手が乾燥する事で、痒みやひび割れが生じるケースもあります。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下やアトピー素因によって引き起こされる慢性的な湿疹を指します。元来持っている肌のバリア機能が著しく低い人に多いです。また、家族にアトピー性皮膚炎の症状がある人や、喘息・アレルギー性鼻炎などの疾患を持つ人に発症しやすいと言われています。肘の内側や膝の裏などに湿疹ができやすく、強い痒みとカサカサと赤い皮膚になるのが特徴です。
接触皮膚炎
接触皮膚炎は、いわゆる「かぶれ」のことです。化学物質をはじめとする外的異物の肌への刺激や外的異物に対するアレルギー反応で生じる湿疹です。原因物質は植物、金属、化学物質など多彩で、原因検査はパッチテストが有用です。接触部位に一致して湿疹ができ、痒みや痛みなどの症状を伴うのが特徴です。
皮脂欠乏性湿疹
皮脂欠乏性湿疹は、皮膚の水分量や皮脂が減少し、皮膚のバリア機能が低下することで引き起こされる湿疹です。入浴時や洗顔などで皮膚を洗いすぎる事が原因で、皮膚がカサカサとした乾燥状態になるのが特徴です。悪化すると、ひび割れを起こして痒みや痛みを引き起こす事もあります。
脂漏性皮膚炎
脂漏性皮膚炎とは、顔や生え際などの皮脂の分泌が多い部位にできる湿疹です。生活習慣やストレス、気候の変化などにより、肌の皮脂バランスを崩す事が原因と考えられています。乳児から成人まで幅広い年齢で発症し、頭がフケっぽくなることもあります。
貨幣状湿疹
貨幣状湿疹とは、主に手足や胴体に現れる、コインのような楕円・円形をした湿疹のことを言います。中高年に多く発症するとされており、強い痒みがある場合も多いです。じゅくじゅくとした症状や小さな水ぶくれや、かさぶたができる事も多いです。
湿疹の症状
湿疹の症状は、下記のように段階的な変化があります。
一般的な湿疹の症状と進行過程は以下の通りです。
発疹 | 特徴 | 状態 |
---|---|---|
紅斑(こうはん) | 赤みのある小さな斑点 | 炎症により表皮下の毛細血管が充血し、赤い斑が環状にでている状態。 |
漿液性丘疹(しんしゅつせいきゅうしん) | ぽつぽつ・ブツブツとした小さな膨らみ | 滲出液が滲み出て膨らみとなり、皮膚に小さなブツブツができている状態。 |
小水疱(しょうすいほう) | 小さな水ぶくれ | 皮膚の表皮下に透明な浸出液が溜まり、小さく盛り上がった状態。 |
膿疱(のうほう) | 黄みがかった水ぶくれのような膨らみ | 皮膚の表皮下に黄色のような濃汁が溜まり、表面が盛り上がった状態。 |
びらん | じゅくじゅくとただれた表面 | 皮膚を掻きむしる事で、皮膚の表面が湿り、表面が破けた状態。黄みがかった浸出液が出る場合がある。 |
瘡蓋(かさぶた) | 滲出液が皮膚の方面で固まった膨らみ | 傷の表面が乾いて固まった状態。湿疹の治りかけている状態。 |
落屑(らくせつ) | 瘡蓋が剥がれる | 瘡蓋が剥がれ落ちる状態。肌の自己修復によって新たな皮膚が現れる。 |
苔癬化(たいせんか) | 皮膚が硬く、キメが粗くゴワゴワしている | 慢性的に炎症がおき、皮膚が厚くなっている状態。 |
湿疹ができた初期段階では症状が軽度の場合でも、水膨れや黄みがかった膿疱ができるケースも多いです。また、痒みのせいで掻きむしってしまうと症状が悪化します。症状が悪化する事で、じゅくじゅく・ごわごわといった症状に変化する事もあります。
このように、繰り返して掻くことで症状が治りにくくなる事も多いです。炎症の状態が長く続くと患部が褐色して、色素沈着の恐れも考えられます。治りが悪いと思った場合は、早めに医師へ相談する事が大切です。
湿疹の治療
湿疹の治療には、ステロイドの塗り薬、抗ヒスタミン薬の内服薬を処方される事が多いです。
ステロイドの外用剤は皮膚の炎症を抑え、痒みをとる効果があります。ステロイド外用剤には様々な種類があり、症状の程度や使用する場所によって選択します。しかし、ステロイドは長期間使用する事による副作用も報告されています。塗り方や回数等については、医師の指示に従うようにしましょう。また、抗ヒスタミンの内服薬には、アレルギー反応を引き起こす神経伝達物質「ヒスタミン」の働きを抑える作用があります。アトピー性皮膚炎などの治療において、皮膚の痒みを抑えるために用いられています。
湿疹の予防
湿疹は、人によって様々な原因が考えられます。原因に気づけなかったり、治りが悪く辛い痒みを我慢できなかったり、と言った状態にストレスを感じる人も多いでしょう。
湿疹を予防するには、「皮膚への刺激を防ぐ」事が最も大切です。
- 自宅をこまめに掃除してダニやほこりの発生を防ぐ。
- 肌に優しい衣料を選ぶ。
- シャワーで肌を清潔に保ち保湿をする。
等、上記の対策が挙げられます。
また、肌のバリア機能の低下を防ぐ為に、日頃のスキンケアや紫外線対策も欠かせません。湿疹を掻くと悪化してしまう為「痒みが治まらない」「湿疹が改善しない」と言った場合は、なるべく早く皮膚科を受診しましょう。医師から症状に適した薬を処方して貰う事が大切です。
なお、湿疹の原因や症状によっては、長く治療と向き合わなければならない場合もあります。自身の体をよく知り、普段から予防に努めることが大切です。
古江駅前すみれ皮ふ科 院長東儀 那津子
【経歴・資格・所属学会】
平成18年
北里大学医学部 卒業
平成18年
北里大学病院 初期研修医
平成20年
北里大学病院 皮膚科入局
平成23年
北里大学病院 助教
令和2年
北里大学病院 診療講師
北里大学病院のほか、大和市立病院、昭和大学病院藤が丘病院形成外科、
座間総合病院、武蔵村山病院、神奈川県内の皮膚科・美容皮膚科で勤務
【所属学会】
日本皮膚科学会
皮膚悪性腫瘍学会
日本美容皮膚科学会
日本アレルギー学会
【資格】
医学博士
日本皮膚科学会専門医・指導医
厚生労働省臨床研修指導医
ボトックスビスタ®︎認定医