一酸化炭素中毒
一酸化炭素中毒とは、一酸化炭素を吸引することによって血液中の酸素が減少してしまう状態の事です。一酸化炭素は血液中で酸素を身体中に運搬しているヘモグロビンとの親和性が高く、強く結合するため、ヘモグロビンと酸素が結合できず、身体に酸素が行き渡らなくなります。
ヘモグロビンと一酸化炭素の結合力は、ヘモグロビンと酸素の200倍以上とされています。
一酸化炭素中毒の原因
一酸化炭素は、炭素が燃焼する際に酸素が不十分で不完全燃焼を起こすと発生しやすくなるため、ガスコンロやストーブを換気せずに使用した場合や火災等が原因で一酸化炭素中毒になる可能性が高まります。
また、冬場に釣り等で張ったテントの中や、排気口が雪に埋まったり何かが詰まったりした状態でエンジンをかけた自動車内にいる場合では死亡事故が起きる危険性もあります。
一酸化炭素中毒が起こる原因は、一酸化炭素とヘモグロビンの結合です。
通常なら血液中にあるヘモグロビンは肺で取り込まれた酸素と結合して全身に運んでいますが、大量の一酸化炭素が取り込まれるとヘモグロビンは一酸化炭素と強力に結合してしまい、いくら呼吸をして酸素を肺に取り込んでも酸素とは結合できなくなります。
その結果、全身の細胞が酸素不足になり様々な活動ができなくなります。
更に酸素の利用を阻害し、特に酸素を必要とする心臓細胞や脳細胞に影響が出やすくなります。
一酸化炭素中毒の症状
一酸化炭素中毒は全身の酸素不足を起こす為、酸素需要の多い脳から症状が現れ、血液中の一酸化炭素濃度が高くなるに連れて症状が重くなる傾向があります。
症状の経過は、一酸化炭素吸入後の短時間の症状のみの急性一過性型、意識障害などの症状が持続する遷延型、意識障害が改善した後に再び症状が出現する間歇型(かんけつがた)に分類されます。重症の急性一過性一酸化炭素中毒による命の危険から脱することができても、後遺症ともいえる間歇型一酸化炭素中毒を発症することがあるので十分な注意が必要です。
一酸化炭素中毒の初期の段階
一酸化炭素中毒の初期の段階では、頭痛、吐き気、気分不快感、めまい、集中力の低下、嘔吐、眠気、判断力の低下等が起こり、そのほとんどの場合では自発呼吸によって新鮮な空気を身体に取り込むことで治まります。
一酸化炭素中毒の中度の症状
中度の症状は、意識障害、意識消失、痙攣発作、胸痛、息切れ、昏睡などが起こり自力で動くことができなくなりますので人の助けが必要です。
一酸化炭素中毒の重度の症状
重度の症状は、心機能低下による心不全や呼吸停止という致死的な状態になり、それらの状態から回復しても間歇型一酸化炭素中毒が生じる可能性があります。
一酸化炭素中毒で危険なことは、初期症状である「眠気」を一酸化炭素中毒の症状だとは気づきにくいことです。
いくら眠気の症状が軽度の中毒症状だとは言え、そのまま寝入ってしまえば一酸化炭素を吸い続ける事になり、寝ている間に重度の中毒症状になってしまうためです。空気中に存在する一酸化炭素の濃度と一酸化炭素の吸引時間、中毒症状の現れ方は、より濃い濃度で吸引時間が長くなる程症状は深刻に現われます。空気中に一酸化炭素が0.02%ある場合では、2時間から3時間で前頭部に軽度の頭痛が生じる程度の症状です。
- 0.04%では、
1時間から2時間で前頭部痛や吐き気、2.5時間から3.5時間で後頭部痛が起きます。 - 0.08%では、
45分で頭痛やめまい、吐き気等が起き、2時間で失神。 - 0.16%では、
20分で頭痛やめまい、吐き気等が起き、2時間で死亡します。 - 0.32%になると
5分から10分で軽症の症状が現れ、15分から30分で重症化し、0.64%では2分で初期症状、15分から30分で重度に、1.28%にもなると3分という短時間で重度化してしまいます。
後遺症:間歇型一酸化炭素中毒の症状
一酸化炭素吸入後おおむね1ヶ月程度以内に、いったんは元気になったのに物忘れをするようになったり、時間や場所がわからなくなったり、失禁したり、性格が変わったようになります。
一酸化炭素中毒の治療と予防
一酸化炭素中毒の治療
意識があり軽度の治療には、自発呼吸によって新鮮な空気を吸い込むことで症状は治まりますが、中度や重度になると「酸素投与」「高圧酸素療法」が行われます。
酸素投与では100%の酸素を投与し、一酸化炭素の排泄と低酸素状態に陥っている細胞へ酸素を送ります。
この時、場合によっては気管内挿管(気道確保のため口や鼻に挿管チューブを挿入すること)で強制換気します。
酸素濃度が高くなると、静電気でも発火する恐れがある為注意が必要です。
高圧酸素療法では、2から3気圧の圧力環境下で100%の酸素を約90分から120分かけて吸入する治療法です。
間歇型の症状が出た場合は、受診した病院の医師に「1ヶ月ほど前に一酸化炭素中毒で治療した」などの情報を伝えることが重要です。
一酸化炭素中毒の予防
一酸化炭素中毒を予防するには、一酸化炭素の発生を抑えることが重要です。
一酸化炭素には色も臭いもないため、一酸化炭素が発生している事に気が付くのは症状が現れてからになりますが、眠気や頭痛といった初期症状では風邪や偏頭痛等、他の病気と勘違いする可能性があります。
そのため、室内で使用しているストーブを正しく設置したり、換気装置を付けたり、窓を開けて定期的に換気をする事が予防に繋がります。
また、空気中の一酸化炭素を検出するとアラームが鳴る検知器もありますので、火災報知器と同様に一酸化炭素の検知器を部屋に設置することも予防となります。
よこがわ駅前クリニック 医院長加賀谷 有行
【経歴・資格・所属学会】
平成4年3月:広島大学大学院医学系研究科を修了
平成7年6月:広島大学医学部神経精神医科学講座助手・講師
平成14年4月:広島国際大学教授、学生相談室長、保健室長、学生部長。
平成28年9月:初代研究所所長 小沼杏坪先生の後任として、医療法人せのがわKONUMA記念依存とこころの研究所において、研究や啓発に従事している。
博士(医学) 精神科専門医 精神保健指定医 産業医