虫垂炎
「虫垂」は右下腹部に位置する大腸(盲腸)から下方向に分岐している細い管状の突起部分を指し、大腸の一部にあたります。この虫垂に炎症が起きる状態が虫垂炎です。一般的に「盲腸」と呼ばれています。虫垂炎は小児から高齢者まで幅広い年代で発症する可能性があります。
虫垂炎の原因
虫垂炎は、虫垂が閉塞し、炎症が起こることで発症します。虫垂が閉塞する原因は様々です。原因の一つである糞石は虫垂炎が重症化しやすいと言われており、注意が必要です。糞石とは硬い便のことで、食物繊維が不足していると形成されやすくなります。また、その他の虫垂炎の原因としてウイルスや腸内細菌などが考えられています。
虫垂炎の症状
虫垂炎の症状は時間の経過とともに変化します。初期は食欲不振やムカムカして気分が悪い、みぞおち辺りの腹痛や違和感がある程度です。初期段階では発熱はほぼなく、炎症がひどくなっていくと痛みが右下腹部に移動することが特徴です。昨日まではみぞおち辺りが痛んでいたのに、気がついたら右下腹部が痛むようになった、という症状があった場合は虫垂炎を強く疑います。炎症が重症化して腹膜に広がると腹膜炎と言われ、高熱が出たり、動けなくなるぐらい激しく痛み、嘔吐などの症状が出現します。さらに重症化した場合炎症によって虫垂壁が破れ、お腹の中に膿がたまることがあります。この状態を放置した場合は命を落とす可能性もあります。
虫垂炎の治療と予防
虫垂炎の治療
虫垂炎初期の場合であれば抗生剤と絶食による治療でほぼ治癒が可能です。抗生剤の点滴や内服で炎症を抑えます。同時に、絶食することで腸管を休め、炎症の重症化を防ぎます。絶食中は点滴加療を行い、脱水や栄養状態が悪化することを防ぎます。腹痛が改善してくれば徐々に食事を再開していきます。体への負担は少ないですが、再発する恐れがあります。再発する割合は2年の間に2割ほどと言われています。
再発を繰り返す場合や炎症が激しい場合には、切除手術によって根本的に治療するほうが良いでしょう。手術は腹腔鏡下手術と開腹手術の2種類があります。軽症の場合は傷が小さく、痛みの少ない腹腔鏡手術を行います。傷が小さいため美容的にも優れた手術方法です。開腹手術は、炎症が強い場合やお腹の中に膿が溜まっていると考えられる場合に選択されます。腹腔鏡手術と比較して虫垂切除が容易で、お腹の中に溜まった膿をきれいに取り除けることが可能です。その一方で、手術の傷が大きくなり、術後の痛みも強いため、術後の入院期間や社会復帰までの時間が長くなるといわれています。
また、お腹の中に膿が溜まった症例は手術の傷が大きくなったり、術後合併症が多くなることが知られているため、保存療法を行い、時間を置いてから手術を行うこともあります。この場合腹腔鏡手術が可能となることがあり、手術の傷が小さく術後の社会復帰が短いなどの利点があります。一方で、炎症が悪化してしまう可能性があります。
保存的加療は1週間弱の点滴加療が必要となり外来でも可能です。手術の場合は術式で変わりますが、軽症の場合は3〜4日程度の入院で回復します。
虫垂炎の予防
虫垂炎は原因がはっきりとわからないことも多く、決定的な予防法はありません。
しかし、糞石やウイルス性胃腸炎が原因と考えられていることから、これらを予防することで虫垂炎のリスクを下げることはできます。糞石やウイルス性胃腸炎を予防するためには、食生活を見直すことです。糞石は食物繊維不足で発症するため、積極的に食物繊維を摂りましょう。食物繊維はバナナやキムチ、納豆等の発酵食品に多く含まれています。また、細菌感染を防ぐために規則正しい生活を送り、免疫力を高めることも大切です。食生活の改善に加え、適度な運動や十分な休養など、生活リズムを整えましょう。
また生活習慣病(高血圧、糖尿病など)を持っている方は虫垂炎が重症化しやすいと言われており、日頃の生活習慣を整えることも肝要です。
山根クリニック 副院長山根 宏昭
【経歴・資格・所属学会】
日本外科学会専門医
日本消化器外科学会専門医
がん治療認定医
腹部救急専門医
緩和ケア研修会修了
【所属学会】
日本外科学会
日本消化器外科学会
日本消化器病学会
日本乳癌学会
日本内視鏡外科学会
日本臨床外科学会
日本腹部救急医学会
日本臨床腫瘍学会