甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症とは、血中の甲状腺ホルモン濃度が通常より低い状態を指します。
甲状腺は、のどぼとけの下にある蝶が羽を広げたような形をした臓器です。「甲状腺ホルモン」という新陳代謝を促すホルモンを産生し、分泌する役割を担います。甲状腺ホルモンは新陳代謝を活発にする他、脳や胃腸の活性化、体温調節等重要な役割を担っています。脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって、甲状腺ホルモンの産生が調節されます。
活動に必要なエネルギーを作っているため、甲状腺ホルモンが減少することで様々な不調が現れます。動作緩慢・無気力・疲労感・記憶力低下・悪寒・むくみ・便秘・体重増加等の症状です。
患者は女性に多く、成人してから発症するケースが多数です。また、クレチン症と呼ばれる先天性のものもあります。
甲状腺機能低下症の原因
甲状腺機能低下症は、大きく「原発性甲状腺機能低下症」と「中枢性甲状腺機能低下症」の2つに分類されます。
原発性甲状腺機能低下症
原発性甲状腺機能低下症は、甲状腺自体の働きが低下することが原因で起こります。原発性甲状腺機能低下症で最も多いものが橋本病(慢性甲状腺炎)です。ヨウ素の過剰摂取によるものや、甲状腺の術後に起こることもあります。また、悪性腫瘍、アミロイドーシス等の甲状腺への浸潤性病変によるものもあります。
中枢性甲状腺機能低下症
中枢性甲状腺機能低下症は、甲状腺そのものに異常はないものの、下垂体や視床下部の機能が低下したことに起因します。また、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌が少なくなることも原因になります。
甲状腺機能低下症の症状
甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンが不足するため代謝が低下します。それに伴い、全身の様々な機能も低下します。
一般的に多く見られる症状
身体的な症状
- だるさ
- 疲労感
- 悪寒
- 食欲低下
- 体重増加
- 皮膚の乾燥
- 髪の毛や眉毛の抜け
- むくみ
精神機能の低下
- 無気力・眠気
- 記憶障害
- 抑うつ
- 動作緩慢 等
声帯にむくみが生じた場合には、声がかすれることもあります。消化管運動が低下すれば便秘に、心臓機能が低下すれば脈が遅くなります。
甲状腺機能低下症の治療と予防
甲状腺機能低下症の治療では、甲状腺ホルモン薬(合成T4製剤)を服用することで甲状腺ホルモンを補う治療を行います。
原発性甲状腺機能低下症
一過性の甲状腺機能低下症であるか、慢性の甲状腺機能低下症であるかを判断する必要があります。症状が軽い一過性の甲状腺機能低下症であれば、特に治療は必要ありません。
また、ヨウ素過剰摂取による甲状腺機能低下症では、甲状腺機能がヨウ素の摂取を制限することで回復する場合もあります。
慢性甲状腺機能低下症
継続して甲状腺ホルモン薬を服用する必要があります。しかし、高齢者や不整脈、心疾患等がある場合には、少量から服薬を始めるといった慎重に治療を進めることが必要です。
妊娠希望中や妊娠中の女性の場合
速やかに甲状腺機能低下症を改善する為に、甲状腺ホルモンの必要量が妊娠によって増加することを踏まえて、甲状腺ホルモン薬の服用を開始します。
潜在性甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモン値が正常範囲内であるにも関わらず、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高値であるケースです。症状が強く出たり、脂質異常が認められた時に、内服薬を用いた治療を検討することもあります。
無症状や症状が軽い場合
定期的に検査を行いながら経過を観察します。
昆布やワカメ、海苔、サプリメント等ヨウ素を多く含んだ食品を過剰摂取すると、甲状腺機能低下症を引き起こすことがあります。摂取し過ぎないように注意しましょう。
また、タバコに含まれる化学成分が甲状腺ホルモンの分泌に影響すると考えられています。禁煙を心掛けることが、甲状腺機能低下症の予防に繋がります。甲状腺機能低下症のみならず、病気の早期発見・早期治療に繋がる為、定期的に健康診断を受けることも大切です。
山根クリニック 院長山根 基
【経歴・資格・所属学会】
医学博士
【認定医】
日本医師会認定
健康スポーツ医
日本医師会認定 産業医
【所属学会】
日本外科学会
日本乳癌学会
日本消化器外科学会
日本内視鏡学会
日本臨床内科学会
日本大腸肛門学会