甲状腺がん
甲状腺がんは甲状腺にできる悪性腫瘍です。
甲状腺は、喉の正面の「喉仏」とよばれる骨の少し下方に位置します。蝶が羽を広げたような形状で向かって左から順番に「右葉」「峡部」「左葉」と言い、重さは10〜20グラム程度です。新陳代謝や脳の健康等に働きかける「甲状腺ホルモン」の分泌・生成・貯蓄を行います。また甲状腺の近くには副甲状腺が存在し、血中カルシウム濃度を調整するホルモンの分泌を行います。
一般的には予後が良好ながんで知られていますが、治療抵抗性や予後不良の組織型もあり今後の治療開発が期待されているがんでもあります。
甲状腺がんの分類
甲状腺がんには主に4つの組織型に分類され、発生理由や治療法が異なります。
- 乳頭がん
もっとも多いタイプで甲状腺がんの90%以上を占めます。硬いしこりが特徴で、進行は比較的緩やかです。甲状腺近くのリンパ節に転移し易いですが、早期発見できれば完治が期待できます。 - 濾胞がん
甲状腺がんで乳頭がんに次いで多く、全体の5%ほどを占めます。良性に似たしこりができ、進行は比較的緩やかです。血液に乗り、肺や骨等遠隔転移し易い特徴がありますが、早期発見できれば完治が期待できます。 - 髄様がん
甲状腺がんのうち1-2%を占める組織型です。遺伝性の場合が多いがんです。進行が早く、転移しやすい特徴があります。 - 未分化がん
甲状腺がん全体の1%に認められる組織型です。進行も転移も早い為、最も危険とされます。
がんは、深さや大きさ、転移の有無により大きく4つの病期(ステージ)に分類されます。甲状腺がんは、組織型によってそれぞれの分類基準があり、中でも乳頭がんと濾胞がんは年齢が関係する独自の分類基準が適応されます。
甲状腺がんの原因
髄様がんは、遺伝的要因が関係することが分かっています。
RETと呼ばれる遺伝子に変異があるとリスクが高まり、比較的若年でも発症し再発の可能性もあります。
また、放射線に含まれる放射性ヨウ素も原因の一つとして考えられています。甲状腺が生成する成長ホルモンは、通常は食物から摂取するヨウ素が必要です。しかし、放射物質に含まれる放射性ヨウ素も同じ様に吸収、蓄積してしまいます。その結果被曝し、がんのリスクを高めるという研究があり、特に若年者に危険性が高いと考えられています。男女ともに体重増加を認める人には甲状腺がんのリスクが高くなることも報告されています。
このように、幾つかの原因は解明されていますが、全てがこの通りではなく、未知の領域も多い病気です。
甲状腺がんの症状
初期は無自覚の場合が多く、他の検査(身体診察や頚部超音波検査、CT検査など)で偶発的に見つけられることが多いです。腫瘍が大きくなるにつれ首のしこりや腫れを感じます。また進行して甲状腺の側の神経や気管等に広がっていると、声枯れや喉の違和感・圧迫感、痛み、飲み込みにくさを感じることがあります。
首のリンパ節に転移した場合は、腫れたリンパ節が触れることもあります。
甲状腺がんの治療
まず、検査をしてがんのステージや体調等を考慮して治療方針を決めます。精密な検査に移る前に、問診で病歴や被曝の可能性等を聞き取り、触診で甲状腺の状態を確認します。
- 頚部超音波検査(エコー)
外から甲状腺に超音波を当て、モニターでしこりの場所や内部、リンパ節の状態等を観察します。 - CT・MRI
CTはX線、MRIは磁力で体の内部を連続的に撮影しモニターに映し出し観察します。がんの大きさや深さ、転移の状況等を確認します。 - 病理検査(細胞診、組織検査)
針を甲状腺のしこりに刺し、細胞を採取します。針の太さは検査内容によって異なりますが、採血で使う針より少し太いものが多いです。顕微鏡で観察し、腫瘍が悪性か良性か、悪性ならばどの組織型かを判断します。 - 血液検査
甲状腺がんを確定する腫瘍マーカーはありませんが、成分の値によりがんの状態を分析することができます。
次に、甲状腺がんは、ステージと組織型により治療を決定します。
手術
一部の未分化がん以外の甲状腺がんで主な治療です。
甲状腺全てを摘出する全摘出、左右のどちらかを切除する葉切除術があります。加えて、周辺の転移が心配される周辺リンパ節も切除する郭清を行います。
甲状腺の半分ほどを残すことができれば通常に機能しますが、それ以下になる場合は甲状腺ホルモンを補う為に切除以降は甲状腺ホルモン剤を服用します。
放射線治療
放射線ヨードのカプセルを服用する内照射は、甲状腺全摘後に行われ、再発や転移の可能性を下げる効果があります。体外から放射線を照射する外照射は、手術で取り切れない場所のがん細胞を狙い死滅させます。
内分泌療法
がん細胞に働きかけるホルモンの分泌を抑える為、その元となるホルモンの分泌を調整する薬を投与します。乳頭がんや濾胞がんの再発を予防する目的で行います。
化学療法
がん細胞を死滅させたり、増殖を抑制する薬を投与します正常な細胞も同時に攻撃するため、副作用も起こります。併せて、がんの栄養素を標的にがんを攻撃する分子標的療法を行うこともあります。
甲状腺がんの予防
はっきりとした原因が分からない為、早期発見し早めに治療することが大切です。定期的に診察を受け、早期発見をこころがけましょう。また、多くのがんの原因となるアルコールやたばこを控え、生活習慣病等を予防する健康的な生活が、がんの予防に繋がると考えられます。
山根クリニック 副院長山根 宏昭
【経歴・資格・所属学会】
日本外科学会専門医
日本消化器外科学会専門医
がん治療認定医
腹部救急専門医
緩和ケア研修会修了
【所属学会】
日本外科学会
日本消化器外科学会
日本消化器病学会
日本乳癌学会
日本内視鏡外科学会
日本臨床外科学会
日本腹部救急医学会
日本臨床腫瘍学会